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その17

 今回も以前同様、団体戦、個人戦の順に進められる。団体戦の組み合わせは、一番手にハジメ、次にオレとケイ君のダブルス、最後にオレがシングルで打つことになった。フロアに下り、指定された台の前で整列する。恐る恐る相手チームの面々を盗み見た。知らない奴ばかりだ、胸をなで下ろした。

 対戦相手と礼をし、対戦表を交換する。

「そんじゃ、ぱぱっと勝ってくるわ」

 ハジメが軽々と口にした。

「ああ、頼んだ。お前の勝敗によって一回戦を突破できるかどうか決まってくるからな。絶対負けるなよ」

「そんなにプレッシャー与えんなよお!」

 打って変わって弱気な発言を残して、ハジメが台についた。台の向こうには眼鏡をかけた気弱そうな男の子が立っていた。

「よろしくおねがいしやーす!」

「よ、よろしくおねがいします」

 ハジメに合わせて礼を返してきた。目が泳いでいる、落ち着きがないな。

 ラリーを手短に終わらせ、試合が始まった。

 ハジメが下回転サーブを放る。相手はツッツキでレシーブしようとするが、ネットに引っかかかり、あっさりと先制点を取った。二度目も同じバックスピンサーブ。どうやらあのサーブはものにしたようだな。レシーバーのツッツキはまたもネットにぶつかり、球が台の上に転がった。

「すごい、二点連取!」

 ケイ君もオレも驚いてるが、一番信じられないといった顔をしてるのは本人だった。小学生相手にスコンク(一点も取れずに負けること)かましてたんだ、そりゃ驚くわな。

 サーブ権が移り、今度はハジメがレシーバーとなる。相手はハジメ同様、バックスピンのサーブを打ってきた。ハジメお得意のツッツキでつなげる。何度か互いにツッツキを続けたあとに、相手が打ち損じて失点した。

 サーブ、ツッツキ、相手のミスの繰り返しで、まさかの三セット先取。ハジメ初勝利を飾った。

「勝った! 勝った? 勝った!」

「興奮しすぎだ」

「ハジメ君すごいよ! やったね」

「自分でもびっくり。なんで勝てたのか分かんねえし」

「んなもん、向こうが初心者だからだよ。相手がミスしてばっかだったろ? 基礎がまだ固まってないようなド素人。運が良かったな」

「勝ちは勝ちだ、イエーイ!」

 前回の大会の方が、全体のレベル自体は高い。というのも、この近辺で高校生を対象にした大会は今年度ではこれが初。今年入学した奴はこれが初出場ってわけだ。出場者の半数近くであろう一年生なんて、高校入学と同時に卓球始めた面子か、良くて中学から続けてやってますといった連中くらいだ。中学からの経験者はそれなりに手強いだろうが、最近までの部活内の練習メニューなんて、球拾いと素振りくらいで、実践的な練習なんかほんのわずかだったろうから、めきめきと実力をつけてきたなんてこともないはず。吸収力の高い時期にずっと卓球してる子供と、経験を何重にも積み重ねてきた大人が参加してた前回の大会の方が、全体の質が高いのも当然。ハジメやケイ君ら初心者が勝てるわけなかったんだ。だが今回は違う。二人ともみっちり練習してきた。少人数だからこそ付きっ切りで教えられた。こんな生半可な奴らに負けるわけがない。


「ゲームセット」

 オレのサービスエースでダブルスが終わった。シングルとダブルスで二連勝したため、一試合目はこれでオレ達の勝ちとなった。

「ユウヤ君すごい!」

「決めてやったぜ」

 チーム同士礼を交わし、大会本部に結果報告を伝えてから観客席に戻った。

「団体戦初勝利だな。やったじゃん」

 三神先生が笑いかけてくれた。

「ま、こんなもんっすよ」

「調子に乗るなハジメ」

 二回戦までの間、席について待機することにした。見下ろすと、女卓の試合が見えた。ちょうどアヤが打っている。どうにか踏ん張ってるみたいだな。

「おいユウヤ、アヤちゃんをガン見か? 気のないふりしといてそういうことだったのか⁉」

「どういうことだっつーの」

「二人とも不純だよっ!」

 ケイ君が走り出した。

「ちょ、待て! ハジメッ、追いかけろ!」

「ケイ君今日は帰っちゃだめええええ!」

 二人がかりでどうにか制止させた。


「二回戦始まるっぽいぞ」

「もうそんな時間か」

 本部の指示どおりに台へ向かう。タイミング良く相手チームも到着したようだ。ふっと、目をやった。

 目が合った。見覚えのある顔。響いていた卓球の打球音が鳴り止んだ、オレにはそう感じた。周りの人や背景が止まった、あいつ一人を除いて。

 ハル……?

「気をつけ、礼!」

「「「よろしくおねがいしあーすっ」」」

 ハジメ達や相手チームが号令に合わせて礼をする中、オレ一人呆然と立ち尽くしていた。ハジメが相手の代表者と対戦表を交換する。

 なんで、あいつが……?

「ユウヤ君、こっちだよ?」

 ケイ君が声をかけてくる。聞こえてはいた。いや、耳がかろうじて声を拾い上げ、頭の片隅にうっすらと流れてすぐに消えていく。そんな感覚が、ハジメにラケットで小突かれるまで続いた。

「おーい。どうした?」

 目の前のハジメの声で、視界のピントが元に戻った。

「お、おう。なにしてんだよ、さっさと試合してこい」

「人の邪魔しといてひどい言い草だな」

 とりあえず台から離れることにした。

 ハルが台の奥で試合を観戦してる。視線をはずそうとしても、いつの間にかあいつを視界に入れてしまう。ハルはオレを一切見ようとせずに応援をしたり、同じく観戦する隣のチームメイトと何か喋っている。

 オレは今、夢を見ているのではないだろうか? 他人のそら似で、全くの別人ではとも考えた。が、違った。交換した対戦表には二番手ダブルスの欄の一つに、宇都宮春樹と書かれていた。同姓同名で顔がうり二つなんて、ありえない。

 ハジメが横回転サーブを打つ。オレが教えた三つ目のサーブだ。まだ回転が甘いが、サーブの種類は多ければ多いほど良い。相手は回転に合わせながら、ハジメの台の奥深くに打ち込む。ぎりぎりのところをハジメが打ち返す、いや打つと言うより無理矢理ラケットを当てたに近く、球は高く浮いてしまった。台に着地することなくアウト。ハジメが負けた。

「負けたぁ! くっそ、二人とも頼んだぞ」

 ケイ君がハジメに笑顔で頷いた。

「頑張ろうね、ユウヤ君」

「うん……」

「……ユウヤ君? 大丈夫?」

「うん……」



自分の試合直前にも関わらず気配りできる余裕がほしいものです。

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