表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/27

その12

「さて、そろそろ帰るかー」

 ハジメが制服を広げ、着替え始めようとしていた。

「いやいや、オレの試合まだ残ってるから」

 準備運動しながらハジメに答える。

「………………ハハッ」

 そして黙るハジメ。

「……なんだ今の反応⁉ 関心なさすぎるだろ! こっち見ろや、着替え続けてんじゃねえ!」

「ケイ君、帰りにツタヤ寄ってかね?」

「ツタヤ行くなあああああああああ!」

 試合する前から息切れを起こすほど叫んだ。

「うっさいなー、だっておれもケイ君もなかちんも試合終わったしー。もうずたぼろだったしー」

「ハジメ君、ユウヤ君の試合の応援しなきゃ」

 ケイ君は思いの外朗らかだった。というのも、対戦相手とあまりにも実力差があったために、相手のおじいちゃんが熱心に指導してくれたそうだ。

「すごかったんだよ、少し打っただけでどこが悪いか見抜いてくれて! でね、教えてもらったとおりにしたら球が狙いどおりにね――」

 試合に負けてこんなに明るくなるのも珍しい。まあ、あの一戦で何かつかんだなら儲けもんだろう。

「そういや中島の試合は? オレ、ケイ君の試合見てたから分からないんだけど」

「ああ、俺? いやー、負けちったわ」

「ちっちゃい小学生相手にストレート負けだったな」

 ハジメがからかうように付け加えた。

「小学生マジつええ」

「そっか。訊いといてなんだが、どうでもよかったわ」

「少しは歯に衣着せようぜ?」

 ハジメが珍しく良心的な言葉を返した。


 小学生を叩き潰すことに罪悪感があるかと訊かれたら、そりゃ少し良心が痛むんだけど、一応年上だしオレも経験者だし、面白いように点が取れた。

 審判の号令と共に、相手に礼をする。まあ楽勝だったな。

「ユウヤ君すごい! 一回戦突破だね」

「いや、すごくないって。前からやってりゃこんくらいはな」

 相手が相手な分、天狗にもなれない。

「え、まだ帰んないの?」

 鞄を肩から吊るした制服姿のハジメがそうぼやいた。むかついたから室内シューズで蹴り飛ばしてやった。

「次の相手は誰だ?」

 同じく制服姿の中嶋が訊いてきた。こいつも着替えてやがる。

「多分、あの人」

 視線を向ける。その先には、若い男が一人。

「あの人って、団体戦で優勝したチームの人じゃん」

 おじいちゃんに混じってた、大学生くらいに見える青年。茶髪で若干ガラが悪く見え、近寄りがたい雰囲気を感じる。

「おいユウヤ、卓球やってる人ってもっとおとなしい人ばっかじゃねえのか?」

「んなもん偏見だろ」

 小学生よりか骨がありそうな相手だ。

 他の試合が次々と終わり、ようやくオレの二回戦が始まる。すぐに台に行き、打てる準備をする。相手は落ち着いた足取りで台についた。

「よろしくおねがいします」

 挨拶すると向こうは、

「よろしくー」

 と砕けた態度で返してきた。

 試合前のラリーを始める。軽く球出し。向こうも普通に打ち返してくる。返ってきた球を、相手に打ちやすい位置へ向け、フォアで返球。すると相手は突然、右手を背中にまわし、己の左側の球を右手で打ち返してきやがった。驚きつつ、普通にそれを打ち返す。向こうは球を受ける度に機敏にフォア打ちと背面打ちを切り替えてきた。この野郎、遊んでやがる……!

 ラリーを終わらせ、ラケットを交換。相手はシェイクハンド。どれどれ。若干重いな。げっ、このハイテンションラバー扱い難しくないのか? 思ったとおり熟練者だな。ラバーからしてドライブ主戦型と見た。お、このパワーテープ、オレが前使ってたやつだ……。

「あいつ、相手のラケット見る度に目が怪しくなってないか?」

「先生もそう思います? なんかぎらついてて怖いっす」

 試合開始。相手が高々と球を上空に上げる。落下する球目掛けて、回転をかける。それをツッツキで返そうとするが、ネットにかかった。もう一度サーブを受けるが、同じくネットに引っかかり失点。回転が読めねえ!

 オレにサーブ権が移る。台の端ぎりぎりに打ち込む。が、野郎はまた背面打ちで返してきた。しかも球が速い、追いつけずに球が通り過ぎた。うぜえ。なにがうざいって、ふざけてるくせにめちゃくちゃ上手いことがだ。今度は右手左手と交互にラケットを持ち替えながら打ってきた。どっちでも同じくらい球に勢いがある。なんなんだこいつ、大道芸師かなんかか?

「なんだかあの試合楽しそうだな」

「いやなかちん、ユウヤの顔が明らかに引きつってるぞ?」


 バスを待つ。その間にハジメがしゃべくるが、話の内容が全く耳に入ってこない。

「てか腹減ったー、サイゼでも行かね?」

「俺クーポンあるよ」

「え、でも帰りに寄り道しちゃだめなんじゃ……」

「……け……た……」

「ケイ君真面目すぎるだろ、高校生になったら買い食い寄り道当たり前っしょ」

「もしかしてサイゼ初めて?」

「ファミリーレストランだよね? あまりそういうとこ行ったことなくて……」

「……ま……け……」

「まじかー! そうだ、今度みんなでカラオケでも行かね?」

「ええっ、ぼく無理だよ、歌えないよぉ」

「いいからいいから、そういうのも経験だって」

「う、う、うがあああああ! あんなのに、あんなのに負けたあああああああ!」

「ユ、ユウヤ⁉ おい落ち着け! なんだ、カラオケがいやなのか? ならボウリングでもいいんだぞ⁉」

「ええっ、ボウリング投げれないよぉ」

「うぐがあああああああああああああああ!」





今回ユウヤが試合した相手、実はモデルがいまして、本当に背面打ちや打ち手の切り替えなんてテクニカルな遊び打ちをする人がいました、あくまで試合前のラリーででしたが。実力のある人間は、遊び方もまた常人離れしてますね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ