その10
二試合目のダブルスは、オレとケイ君との即席コンビで挑むことになった。
試合前のラリー。出された球をオレが軽く返球する。相手もフォアハンドが打ちやすい位置に返球してくる。ケイ君の番。が、ラケットが届かず、空振り。ラリー二球目もケイ君が打ち損じて止まった。練習期間が一週間しかなかったといえど、昨日はまともに打てていたのに。緊張か?
「ケイ君、落ち着いていこ。楽しくね」
「う、うん」
卓球のダブルスはテニスなどと違い、打つ順番を交互に変える決まりがある。オレが打ち、相手が返球してきたら、次はオレではなくケイ君が打ち返さなきゃいけない。どれだけオレの番で終わらせられるかが今回の課題だろう。
小学生相手とはいえ、久々の試合に少し興奮しているのが自分でも分かった。
サーブ一発目、左に回転を思い切りかける、相手は空振り。先制点をゲット。サーブする位置が変わり、二球目。サーブの位置がずれることにより、レシーブする相手も変わる。こいつはどうかな? 同じサーブを放ると、レシーバーの球はネットに引っかかった。この子らには十分通用するな。
サーブ権が移り、相手のサーブ。当然のように回転をかけてくる。ケイ君のレシーブがネットにかかった。ケイ君にはフォアハンドとバックハンドをかなり手短に教えただけだ、当然そうなる。
「ごめん、ユウヤ君……」
申し訳なさそうに謝るケイ君。
「いいよ、気にしないで。な?」
励ませど、ケイ君は顔を落ち込ませたまま。
続いてオレがレシーブ。ケイ君に打順が回る前に終わらせるつもりできわどいコースを狙うが、相手が俊敏に反応。即席コンビと違ってダブルス慣れしている。球はオレ寄りに向かって返ってくるが、さほど勢いはない。ケイ君せめて追いつけ!
球が台の上を一度はねると、そのままフロアへと落ちていった。ケイ君に目をやると、球から遠く離れた場所から必死に手だけ伸ばしていた。
「ご、ごめんね……」
あー、わかったぞ。
「ケイ君、ちょっと」
「え?」
「もっと球に近づいていいんだよ?」
「う、うん…………」
「ケイ君、遠慮してちゃダメだからね? オレにぶつかるんじゃないかってくらい動いてでも球を打つんだよ?」
「うん、ごめんね……」
まいったな……。
「……あちゃぁ」
「まあ、今のはしゃーないだろ、慣れてないんだし」
「そうなんですけど……」
「……あ、また」
「練習の時はまともに打ててたんですけどねー」
「ふーん」
「あがってるのかな?」
「……てかさ」
「なんです先生?」
「橋本のサーブの構えって、なんかカマキリっぽくね?」
「ええ~? ユウヤ普通に打ってますよ?」
「いやなんかさ、動きが本格的すぎるというか」
「あー、回転かける時のラケットとか、言われりゃそんな気も……」
「だろ?」
「それ言われたら他の人とかもみんなカマキリに見えちゃうんすけど。キモチわるっ」
「うっひゃっひゃっ、みんなカマキリとか、やばい、私も、ククッ! じいちゃんばあちゃんのカマキリ特に強烈だな!」
「もー最悪だわー」
ケイ君をカバーできず、ダブルスは敗北。この時点で一回戦敗退が決定した。
「足引っ張ってごめんね」
「もっと積極的にいかなきゃ」
「うん、ごめん……」
うつむくケイ君。
「まあ、時間なかったんだから、しょうがないか。てか、何より中嶋が悪い」
ケイ君のトラウマにならないように慰めた。
「そういや、なかちんから返事きた人いる?」
みんなが携帯電話を確認する。
「あ、メール来てた」
オレの携帯がメールを受信していた。携帯のディスプレイには、寝坊した! の文字と涙の絵文字が写っている。さっさと来いと返信して携帯をしまった。
午後の個人戦までだいぶ時間が空く。邪魔になるため練習もできず、他の試合を観戦する。
「ケイ君、あそこの試合すごいよ。めっちゃ打ち合ってる」
「うわあ、ほんとだ」
「ハジメ、お前も見てみ。見るのも練習になるから」
フロアに全身を伸ばしてだらけながら、
「やだ、みんなカマキリなんだもん」
一体なにを言ってるんだか……。
プレイそのものに性格が現れるものです。私はダブルス時にパートナーにラケットをぶつけたことがあります。がさつですんません、でも反省はしない。