part5 「あのさ…」
最終話です。
こんなつまんない小説、読んでくれた方がもしいたら、
こころの底から感謝いたします。
嫌な予感はしてたんだ。
不意にケータイに電話がかかってきた。
ディスプレイに表示された名前は「姉ちゃん」
…ほらな。
出るのが少し怖くなってきたが、出るほかに道はない。
っていうか、おそらく出なければ恭子は泣くだろう。
「もしもし?」
電話の向こうから、すすり泣く声がする。
まぁ、この辺は想定内だが…
「よーへいぃ…駄目だよぉ…迎え来てぇ…」
まずいな、これは爆発するかもしれない。
「今どこ?大丈夫だから、待ってて」
洋平は、予め用意しておいたダウンジャケットを用意し、外に駆けた。
12月も半ばになり、クリスマスはもうすぐだ。
今日は、恭子が一人で出かけたいと言ってきた。
それは、そろそろ一人で行けるかも、という恭子のサインだった。
あの日駅前に行ってから今まで二人でいろんなところに行ったが、
恭子が一人で出かけたのは今日が初めてだった。
恭子もなんとか弟に迷惑をかけるまいと少しずつ頑張ろうとしているのだろう。
今日も「一人で行ってみる」とか言っちゃって。
例によって肩も声も震えてて。
家を出たときも、あの日と同じように肩が震えていた。
それでもあのときよりは幾分成長した姉は少し頼もしかった。
しかし、駄目だったようだ。
一刻も早く行かなければ。
洋平はバスに乗らず自転車で駅に向かった。
自転車なら裏道を使えるし急げば20分くらいで駅まで行ける。
洋平は、自転車で駅に向かいながら、今までのことを思い出した。
恭子は、今まで3度生まれ変わった。
いや、厳密に言えば一度生まれて、生まれ変えさせられて、生まれ変わろうとしている。
一度目は、この世に生を受けたとき。
二度目は、いじめが発覚したあの夜。
そして三度目は、勇気を出して「駅まで行く」と言ったあの日。
二度目のときからは地獄が続いた。
そこから這い出そうともがいて、もがいて。恥ずかしいけど弟に手伝ってもらって。
苦しいけど生まれ変わろうとしている。
今、確かに少し失敗したけれども、
それでも恭子は頑張っている。それは洋平が胸を張って言えることだ。
しかし、そんな薄っぺらな考えも、
うずくまっている恭子を見て吹っ飛んだ。
恭子は狭い路地裏にいた。
まるで隠れるように。逃げるように。2年前のあの日のように。
「姉ちゃん…?」
恐る恐る声をかけると、しゃがみこんでいた恭子はものすごい勢いで振り向き、
「よーへいっ!!」とバカみたいに涙を流しながら
洋平の胸に飛び込んできた。
「どうしたの…?」
「やだよぉ…もう、やだよぉ…」
恭子はただひたすらに首を振るだけだった。
「とりあえず…家に帰ろうか…?」
そう提案すると、恭子はゆっくりと頷いた。
家に着くと、恭子は自分の部屋に飛び込んだ。
帰りはバスだった。自転車は適当に鍵をかけて置いてきた。あとで取りに行けば良いだろう。
「はぁ…はぁ…」
恭子は涙を流しながら息を切らしていた。
それが収まるのを待って、洋平はついに聞いた。
「何があったの?」
ベッドに寝転がった恭子とは目線を合わせない。
恭子は大きなクッションに顔をうずめている。
「好きな人、いるって言ったよね?」
洋平は頷く。見えないだろうが、頷く。
この1ヶ月で恭子の「気になる人」は「好きな人」へレベルアップしていた。
「その人がね…女の人と歩いてて」
洋平は衝撃を受けた。
「キスも、してた…」
2段攻撃か。
洋平は愕然としていた。
相手は、いじめによって心の傷を負った恭子の、初めて好きになった男なのだ。
その人を想って今まで恭子は懸命に人ごみに挑戦してきたのだ。
今日は、その人のクリスマスプレゼントを買うために買い物に行った。はずだった。
「もう…どうしていいか…わかんないよ…」
洋平はゆっくりベッドに腰掛けた。
「死にたい…死にたいよ…よーへい…」
恭子の手を、洋平はそっと握った。
温もりを伝えるように。それは、恭子の不安や嘆きを沈める武器でもあった。
帰ってきたばかりの恭子の手は冷たかったが、それは洋平も同じだった。
「姉ちゃん…」
そう囁くと、恭子は口を開いた。
「いいの…もういいの…姉ちゃんが馬鹿だったから…可能性なんて、あるはずなかったのにね…」
「姉ちゃんは悪くない。思わせぶりだった相手のほうが悪い」
洋平の言葉は決して多くはなかったが、核心を突いていた。
恭子に深く響いて欲しい、そう願って選んだ言葉だった。
恭子はそのまましばらく泣いていた。
洋平は、意を決して口を開いた。
「あのさ…」
しかし、恭子はしずかに寝てしまっていた。
洋平に手を握られて安心したのだろう。いい兆候だ。
洋平は恭子の美しい顔を静かに見つめた。
そして、その小さな唇に、自分の唇を重ねた。
そう。あの時誓ったんだ。
恭子は絶対に守る。一生守ると。
だから、俺は世界で一番、恭子を愛する。恭子を守る。
いつまででもいい。
それでいいんだ。それで。
洋平は、微笑んだ。
最後の最後で洋平黒くなっちゃいました(・□・`;)
ってか、最後なのに分が雑ですね…
ちょっと焦っちゃいました。
いろいろ反省して、次回作も頑張ります。