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part1 「気になる人がいるの」

初めての小説です。

忙しさの合間を縫って精一杯投稿するので、

応援してくれたらうれしいです。

携帯ゲームの画面を凝視しながら、恭子がつぶやいた。

洋平はノートから目を上げた。

普段から奥手な姉だ。人見知り、恥ずかしがりなどとも言う。

「ん?」

だから、洋平や親以外とは目を合わせて話をすることすらままならない。


「いや、どうでもいい話なんだけどさ?」

洋平はケータイの音楽データを全曲リピートにセットし直した。

これで沈黙はほぼなくなるから、少しでも話しやすくなるだろう。

恭子は、普段からあまり積極的に話す人ではない。その上、今までの経験から

唐突な「あのさ…」イコール大事な話であることは容易に想像できた。

っていうか、指、止まってるし。画面止めてるから、音しないし。

洋平は目線をノートに向けた。

「うん」


でも、いちいち「指止まってるよ」とかは言わない。

大事な話ならば最初の「あのさ…」に相当な勇気が必要だったはずだ、この姉には。

それが洋平には分かってるから、その勇気を無下にはしない。

そもそも、そんなことい言ったら多少なりとも傷ついてしまうかもしれない。


「あのさ」

「うん」

「聞き流してもいいんだけどさ?」

予防線を、ひとつずつゆっくり張っていく恭子。

どうにもこれをやらないと、本題に入れないらしい。これも経験則。


「学校で、なんかあった?」

すこしずつ喋る気になってくる恭子の頃合をみて、洋平は切り出した。

目線はお互い合わせていない。

恭子はゲームに没頭するフリをする。洋平は因数分解を解くフリをする。

タイミング、聞き方、文章の切り方。すべてが完璧だ。

これで、笑ったり馬鹿にしたりしないから話してみて、という意思は伝わる。

姉弟は偉大なのだ。

さて、何の話だろうか。授業についていけないとか?いや、それはない。この人は勉強だけはできる。

あとは…人間関係の話かな?友達に何か言われたとか?それとも今日は友達と話せたとか?


「よーへいは、好きな人とかいない?」

………予想外。まさか異性の話とは。

ふと、0.5秒だけ姉を見る。顔が赤いよおねえさま。

「いや、いないよ?」

できる限り早く答える。

ここで、少し考えたり「う~ん…」とか言ったりすると、

恭子は気を遣わせてしまったと思うかもしれないからだ。


「ふぅん…」

恭子はそれだけ漏らすと、少し黙った。

軽やかなJ-POPだけが流れる。今はどうでもいいが、この歌い手は機械だそうだ。

音源から自由に歌が作れて、プロからアマチュアまで幅広い人たちが

自主制作の楽曲を動画サイトなどに投稿するという。

ネットで話題になってCD化とかもしてるらしい。恭子は、この無機質な声がお気に入りだそうだ。


ワンコーラスが過ぎ、そろそろ2番に入るというところで、恭子は口を開いた。

「あのさ…」 

ここで相槌は打たない。

あまりうんうん言い過ぎるとかえってただ聞き流しているだけと思われてしまう。

弟テクニックが光る。


「気になる人がいるんだ」恭子は一気に言った。

また0.5秒だけ姉の顔をみる。今にも泣き出しそうだ。

驚きよりも、少しでも早く良い返答をするよう脳に働きかける。

余計な「う~ん」や「なるほど」などは言わない。

シャーペンを動かすフリをしながら、言葉を厳選する。

気になる人がいるということは、恭子にとっては大事件だ。

数年前の件があって以来、周りの人を見ている余裕など、なかったから。


「気になる人?」

「…うん」

判断材料が少ないため探りを入れようと思ったが、

姉はこれ以上喋れないらしい。無理もない。「今日はもう休んでもいいよ」と言いそうになる。


姉には少しでも安心してもらいたい。

それ自体は自然な感情であることを一刻でも早く伝えねば。

でも、ルーズさも少しは見せる。洋平があまり深く考えすぎると、恭子は気に病むからだ。

「いいんじゃない?」

恭子の呼吸が止まった気がする。

「俺だって、気になる人くらいはいるよ?好きとかは別にして。

 姉ちゃんは高校生なんだから、むしろ当たり前かもしれないし。一歩前進だよ。」


恭子は、洋平の言葉を理解し終えると、顔には出さなかったが満足気に「うん」とだけ言った。

いままで伊達に姉弟をやっていたわけじゃない。

その「うん」にどれだけの想いがこもっているか、洋平には分かった。

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