41話 久しぶりのドレス
【セレニア城】
ソレイス領内にあるヒューズ王国の飛び地――ヒューズナセル。
この町を見下ろす丘の上に、その城は築かれている。
現在の領主は、
『ドナ・ルシェナ・レマール』
前領主にして夫であった『アルヴェン・レマール』の突然の死により、
彼女が急遽、領主の座に就いた。
前領主アルヴェンは【剣の男】。
一方ルシェナは、経済を重んじた治世へと舵を切った。
その結果、街はかつてない活気と富に満ち、
人々は彼女を【黄金の未亡人】と呼ぶようになった。
しかし西方の本国・ヒューズ王国は、この街を『刃の錆びた街』と評し、
その繁栄に静かな懸念を示している。
「ハルミチさん。城の中でのやり取りは私に任せて!」
「頼りにしてるよ」
アルマは貴族出身。今日は俺が彼女におんぶにだっこちゃんだ。
警備長に案内されて、城の入り口に着いた。門に警備隊の男が立っていた。
「ごきげんよう。ハルミチとアルマです」
「ようこそ。セレニア城へ。お待ちしておりました、ハルミチ様、アルマ様」
「本日はお世話になります」
「どうぞこちらへ。お部屋へご案内いたします」
案内された部屋は、明らかに上客用だ。
「18時よりお食事となります、それまでご自由にお過ごしくださいませ」
「あの、メイドさん。この格好では失礼かと思うので、街に出て服を用意してきてもよろしいですか?」
……そうか。相手は貴族だ。
「当城に仕立て室がございます。舞踏会などでお客様にもご利用いただけます。現在街は混乱しておりますので、よろしければそちらをご利用くださいませ」
「すごい!ぜひ使わせていただきます!」
「ではご案内いたします」
「うん。今の領主様は女性でね、とっても美しい方なんだけど――」
「ほうほう!くわしく」
「・・・・」
「アルマさん?」
「それで今日のお食事会でベルデ村の恥にならないように準備したいのっ!」
説明を端折られた。アルマはここの領主を知っているようだ。
「こちらになります。多少のサイズ合わせであれば、すぐにできますので御用命くださいませ。」
服屋さんもびっくりの広さで、すごい数のドレスがある。
いい仕立てであろう服がたくさんかけてあった。
「くぅぅぅうっ!」
「元貴族の娘がなんて声だしてるの」
「これ凄くいい仕立てで、デザインがよくてバエルドレスなんだけど」
「ほうほう」
「……サイズが小さすぎて合わないの……」
「ちょっと着てみてもらえる?」
アルマが試着室にドレスを持って入る。
「……ハルミチさん、ちょっと中入ってきて?カーテンすぐ閉めてね」
「お、おじゃまします……おおっ!こっ、これは!」
「うぅぅ……こんな感じになるの」
胸がパツンパツン。は、はじけそう!
深い緑を基調に、蔦のような金の刺繍が縁を彩るドレスで、
細く絞られた胴から柔らかく広がる二重のスカートが優雅な曲線を描いていた。
まだインナーを装着していない状態だが、
背中の編み上げはまったく届かず、無理に寄せても隙間が開いたままだ。
腕を少し動かしただけで肩口が引っ張られ、
このままではまともに動くことすら難しい。
スカートの丈も足りず、本来床をなぞるはずの裾は、
脛のあたりで不自然に止まってしまっている。
「ち、ちょっと魔法を試してみよう」
「うん」
アルマの体に沿うように、ぴったりのサイズにドレスを再構成、
「イロッフルサコンフィアンスエソナムール」
ズズズズ…
ドレスがアルマのサイズに合わせて大きくなっていく。
「すごい!!大きくなってるよ!どうして?」
「しっ!声が大きい!」
アルマのドレス選びが終わり、
今度は俺の服もアルマに選んでもらい、その場でこっそりサイズを合わせた。
「メイドさん。このドレスと、この服をお借りします」
「ではサイズ調整を――」
「い、いえ!ぴったりのものを選びましたので!」
「それではアルマ様、お化粧もされますか?」
「お願いします。ハルミチさん、また後で」
「はい、18時に」
どうやらアルマはこのまま“変身”に入るらしい。
俺は一足先に部屋を出て、自室へ戻った。




