33話 RPG
「では出発!」
馬がゆっくり歩きだした。
「あら?乗り心地がいい。ゴトゴト音がしない」
家の前は下り坂ということもあり、スピードが乗りはじめた。
「ちょっと!」
アルマが手綱を引いて、スピードを緩めた。
「すごく……軽い!」
「ふっふっふ……気づかれましたね。見た目は前と同じ馬車ですが、研究中の軽い素材を使っています。おそらく荷車は三割ほど軽くなってます。よく転がるようにもなってます」
「さすが魔法の研究者ですね!」
「問題は耐久性なんですけど……こればっかりは長く使ってみないと何とも分からないので」
つい早口で語ってしまった俺うざい。
馬車はベルデ村とは逆方向の街道を進み始めた。
目的の街はヒューズナセル。この周辺で一番大きな港町だ。
よくあるRPGのような風景が続く。10キロほど走っただろうか。
ゲームのようにモンスターとゴロゴロエンカウントすることはない。
そう考えるとゲームの世界はイカレタ世界だ。あんな設て・・
「うおーい!熊の化け物だぁ!こっちくんな!」
遠くから俺たちに向かって誰かが叫んでいる。
「クマの化け物とかここらへんに普通にいるんですか?」
「いえ、聞いたことないです」
よかった。フラグ回収早すぎじゃんと思ってしまった。
叫んでいるのは三人の内の一人の男。
通りすがりを巻き込みたくないのか、必死にこちらへ来るなと叫んでいる。
人が3人、目を赤く光らせた巨大な熊。
……でかい。
普通の熊の二回りはある。ただの熊じゃないクマ。
「アルマさん、ここにいてください」
「は、はい。お気をつけて」
俺は馬車から降りて彼らのもとへ走った。
「エァアアアアアッ!」
力自慢ぽい大男が、大きな斧を振り上げてクマに切りかかったが
クマは思ったより俊敏で、スルッとよけた。
と同時にクマのベアタックル!
ドムッ!!!
絶対100キロは越えてるであろう巨漢の大男が吹っ飛んだ。
もう一人!彼は冒険者っぽい身なりで片手剣だ。
片手剣は火力はないが盾を使ってライフを地味に削る。
俺もお気に入りの・・
「っらぁあああああ!」
カンッ!
剣はクマの手でいとも簡単に受け止められた。
バチンッ!!
盾で防いだにも関わらず、張り手で冒険者が吹っ飛んだ。
つえええなアレ。
俺の下まで吹っ飛んできた冒険者が俺を眼中に収めた。
「おい!だめだ!あいつには勝てん!逃げろ!」
――もう一人いた。
魔導士か?
……あ!
あれは俺をハレンチ呼ばわりしたクソメガネだ。
彼女の前には、大きな土の人形が二体立っている。
「いけ!カリガ!」
土の人形が動いた!巨大クマに向かって飛びかかった。
バンッ!バンッ!
冒険者と同じ張り手で2体ともバラバラになった。使えねーなぁ…
「ヒィィッ!」
あ!あいつ逃げやがった!仲間置いて逃げやがった!
あの眼鏡のクズはともかく、この二人の冒険者は――
経験値、パワー、胆力。
どれを取っても俺より上だろう。
しかし、コレは俺が倒す。
「お、おい!」
冒険者が腫れ上がった顔で俺を制止しようとする。クマが俺をロックした。
「ムラサメ」
ブンッ
二刀流。しかも大太刀。
……重い。
こいつはでかい図体のわりに速い。まずは足止めだ。
「ケンザン」
ジャキィッ!
でかいケンザンがクマの膝あたりまで突き刺さる。
「ボァアアアアアアッッッ!!」
二足で立っていた熊は、思わず前足を地面につけようとする。
だが――
ザクッ
前足まで剣山に刺さった。
「ガァアアアアアアアッッッ!!!」
「ムサシ!」
グシャッ!
逆刃にして、クマの両目に刀を突き刺した。初手は柔らかいところだ。
相手の硬さが分からない以上、まずは柔らかそうな急所を狙うのが戦いの基本だ。
知らんけど。
『グォアアアアアア!』
「インフェルノ!」
ボウッ!
クマの目から脂ののった全身へ瞬時に炎が燃え移る。
「マグナ!」
パン!パパンッ!ボンッ!
クマを爆発させた。
この一連の技はだいぶ練習した。でもなんか飽きたな。他の技を考えよう。
「大丈夫ですか?ちょっと顔を見せてくれ」
冒険者をよく見ると、腫れ上がった顔に加えて、首が曲がったまま、目だけこっちを見ている。
やばいなこれ。首の骨折れてるだろ。治せるか?!彼の首に手を添えた。
折れた骨を元に戻し、切れた血管血流を正常に、体のあらゆる炎症を止め、
皮膚を元通りに。
コキコキ…ポヨン!
彼の造形が元に戻った。おおよそ正常になった気がする。多分。
「うお!まじか!すごいなあんた!」
「いやぁ助かったぞ!豪の者!」
大男がこちらに来た。
「あなたは大丈夫ですか?」
「ああ! わしは頑丈だ。動きはノロマじゃがの!ガッハッハ!」
「アレはなんだったんですか」
「あんなものはこの辺では初めて見たのぅ」
「ハルミチさん!」
「アルマさん、もう大丈夫です」
このセリフ、一度言ってみたかった。
「もう一人は逃げちゃいましたが」
「んあ!? ありゃ通りすがりの女じゃ。逃げろと言ったんじゃが、逆に“あなた達こそ逃げて!”と啖呵切っとったんじゃがな。ガッハッハ!」
パーティじゃなかったのか。よかった。
あれがパーティーだったらいろいろめんどくさそうだ。




