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第六話:再会

遠い空が薄く色づく。

あっちが東なのかな?

ぼんやり考えていたら、お爺さんが起きてきた。

さっきまで規則正しい寝息を立てていたのに、私には聞こえない目覚ましでもあるみたいにスッと起き上がった。

少しびっくりしたけど、笑顔を作って話しかける。

とびきりの報告があるんだから。


「おはようございます」

「ああ…おはようございます。夜は冷えなかったかい?」


眠らない私を心配してくれている。

やっぱりいい人だな。


「大丈夫です。それよりも!お爺さん心して聞いてください」

「うん?わかった。どうしたんだい?」

「奥さんと会いました」


お爺さんが目を見開いた。

驚いてる!驚いてる!

そのままスタタタッと年を感じさせない速度で私の手を取る。


「妻は、妻は元気そうだったかい?」

「えっ?あ、はい。茶目っ気がありました」


驚いた。

速い。

そして、こんな時まで心配が勝つのか。

てっきり一言目は「どこにいるか?」だと思ってた。


「そうか。良かった。それで、どこにいるか教えてはもらえないかな?」

「もちろんです!ですが、暗いなかでは危ないので夜が完全に明けて、正午ごろに会いに行きましょう」

「良いのかい!?ありがとう。そうか、妻は会ってくれるのか。てっきり何か拗ねてるのかと」

「はい!ああ、いえ。そのことについてお話があります」


拗ねてるわけじゃない。

奥さんが今までお爺さんに会わなかった理由を説明しなくては。

そうだ……嬉しい報告だけではないんだった。

途端に胸が重くなる。


「奥さんは蘇った代償なのか、お爺さんを食べたいと思うようになってしまったそうです」

「そうか……」


眉をひそめ、目を閉じるお爺さん。

そして、苦々しく息を吐き出した。


「ありがとう。それでも私は会いたいんだ。ごめんね」


目を開けたお爺さんは私を真っ直ぐに見た。

目尻にシワが寄って、薄く頬が持ち上がる。

何がごめんねなんだろうか?

こちらを見る瞳はブレることなく秘めた決意を感じさせる。

そりゃそうだ。

念願の再会なんだから。

だが、雰囲気がどうも儚いというか……

あっ!


「待ってください!もし食べられそうになったら私が止めます!」

「それじゃあ君が危ない目にあうじゃないか。私は会えるなら満足なんだ」


やっぱり!

この人、食べられても良いって思ってたんだ。

だからごめんねか。

また一人になる私に。

ヤバい、ちょっと腹立った。


「大丈夫です、それくらい!奥さんより私のほうが力が強かったし。……それに、隠してたけど、ケガしても治るんです。痛くないし」


お爺さんは困ったように眉を下げて、何か言いたげに口を開いた。

だが、結局何も言わずに私の頭に手を置いて、優しく撫でるだけだった。

苦しそうだ。

きっと昨晩の私に協力するという約束を思い出してるんだろう。

悪いと思ったが、お爺さんを死なせないために、利用することにした。


「お爺さんは私に協力するって言いました。だから死んじゃ駄目です。奥さんからも頼まれたんです」


お爺さんは何も言わず、苦々しい顔のまま目を閉じ、静かに頷いた。

良かった。

これでおじいさんをこの世に引き止められる。

ーー本人が望むなら死なせてやるのも人の道か?

いやいや、命を途中で投げ出すのは良くないことだ。

うん、やめよう。

これ以上はドツボにハマる。


「正午ごろに奥さんのところへ案内します。危険になったら任せてください!」

「わかった。ところで、この子も連れて行っていいかな?」


そう言ってお爺さんは愛犬を抱き上げた。


「この子はねシロと言うんだ。安直だろう?妻がね、ノリノリで名付けたんだ。きっと会いたいはずだ」


シロはお爺さんをペロペロと舐めている。

尻尾をパタパタ振り乱してとても可愛い。


「そうですね。きっと喜ぶと思います!」


それから私たちはご飯を食べて、服を選んで、荷物を確認してと、それなりにあわただしく動いた。

一通りの準備が終わると、私の案内で湖へ出発した。

お爺さんにはわざと行き先を教えていない。

着いてからのお楽しみだ。


太陽が私たちを見下ろす。

森に降り注ぐ日の光は木漏れ日となって柔らかく私たちを包み込んでいる。

約束の時間までもうすぐ。

私たちは森の中を進んでいた。

森の奥からは相変わらず私と同類の、死者の気配がする。

奥さんだ。

はじめは不気味に感じたこの気配も、元が奥さんなら怖くない。

迷わずにすむしね。


「もうそろそろ着きます」

「ありがとう。なるほど、ここなのか」


お爺さんは場所の見当がついたらしい。

ふふふ、いたずらが成功したような気分だ。

あとで奥さんに話してあげよう。


伸びた枝をかき分けると、視界がひらけた。

空の青と、湖の青。

2つの境目が探せないままどこまでも続いていて、時々木々の緑が混じる。

すぐそこに視線を戻すとキラキラと小さな波が光を反射し、小さな魚影が私たちを歓迎しに来ていた。

昼に見る湖はなかなかに素敵な場所だった。

ここでプロポーズをしたとは、お爺さんはなかなか分かっている。


「つきました」

「ああ……ありがとう」


湖のほとり、佇む人影。

お爺さんの目線はもう一箇所に集中していた。

移動中身体についた木の葉をはらい、居住まいを正して歩き出す。

声をかければ届く距離まで近づいて、止まった。


「……マリア」


奥さんが振り返る。

笑顔だ。

確かに笑顔なのだが、目尻と口角がプルプル震えていた。

不自然なほどパッチリと目を見開き、ああ、だめだ。

鼻の穴まで広がっている。


「……ひゃいっ!!」


たっぷり間を取ってやっと出てきた返事だった。

あーあ、緊張しすぎだ。

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