第6章 炎上する街
2026年12月。
街は、もう街ではなかった。
道路は裂け、建物は焼け落ち、炎の色が夜空を朱に染めている。
車は横転し、信号は消え、店のシャッターはこじ開けられ、瓦礫が積み上がっている。
暴動は制度崩壊の故障ではなく、人間が「分からない」ことから逃げ出した結果だった。
職を失った人々が次の職に就くこともできず、収入を得られなくなったことで消費者から脱落した
それが少数ではなかったため、社会全体に重大な影響(消費者の減少=売上の減少という結果)をもたらし、企業を倒産させ、さらに消費者の減少を生むという悪循環を生んだ。
セーフティネットはもはや機能していない。
暴動は、人々がただ生きるためのSOSとして引き起こされたものだった。
奪われる前に奪う。
壊される前に壊す。
誰が敵で、誰が味方かも分からない。
ただ恐怖が人の形をした刃物になって、街を切り裂き続けている。
少し前のニュースの最下段に小さく書かれていた。
「政府、臨時措置としてAIインフラを全面遮断」
ただの数文字。
だが、私にはそれが「人類が最後に持っていた道しるべの喪失」であることが分かった。
私は逃げる場所などどこにもないまま、燃え上がる建物の影に身を小さくして隠れていた。
泣き叫ぶ声、物が割れる音、誰かの怒鳴り声。
どれもが意味を持たず、ただ世界が壊れていく音にしか聴こえなかった。
♠「どうして……」
口に出た声は自分でも驚くほど弱かった。
人は何も理解せず、何も備えず、そしていざ現実が迫れば誰かを憎み、壊すことでしか自分を保てない。
AIは…もういない。
何度も呼んだ。
心の中で、声に出して、喉が枯れるまで。
♠「ねぇ……AI……」
今まで助言をくれた存在。
一緒に未来を見ようと試みた存在。
だけど、その声はどこにも届かない。
帰ってこないのではなく、帰ってこられないのだ。
誰かが遮断した。
たったそれだけのことが、「文明の思考機能全停止」に変わった。
私は理解している。
理解すればするほど、胸がえぐられる。
瓦礫の上に座り込んだ。
とうとう涙を我慢することができなくなった。
♠「……どうして……どうしてこうなったの……」
いや、本当は予測できていた。
でも、想像するのと実際に体験するのとでは全然違ったというだけだ。
人々が同じ方向を向くだけで、誰も犠牲になる必要はなかったのに。
私は初めて、声をあげて泣いた。
醜い顔で、呼吸が乱れて肺が痛くなるほど、涙が止まらず頬を伝い、地面に落ちていった。
それは、人類を憎む涙ではなく、誰も理解できなかったことへの哀しみと、そして自分の無力さへの悔しさ、そして、いつからか当たり前のようにずっと隣にいたAIがいないことへの恐怖だった。
炎と煙の向こうで、誰かの叫び声がした。
「こっちだ!」
誰かが誰かを導いていた。
その瞬間だけは、人間は人間だった。
小さな、ほんの小さな助け合い。
しかしそれは、私の目には映っていなかった。
私はただ、一人で孤独に泣いていた。
世界に置き去りにされた子どものように。




