第8章 再生の始まり
2027年3月下旬。
まだ空気は冷たいはずなのに、街はどこか湿った春の匂いがしていた。
破壊されたビル群の残骸。
ねじれた鉄骨。
割れたアスファルト。
どこまでも続く灰色の瓦礫。
その中心で、人々は黙々と作業をしていた。
共同体のメンバーたちだ。
けれど彼らは、街を直しているわけではない。
AIが指定したパーツを組み立てている。
それは人型に近い。
ただ、完全な人型ではない。
膝は関節が深く曲がり、腕は細く長い。 内部骨格はカーボン基。 表面の皮質は柔軟で、振動吸収素材が貼られている。
ある人がその部材を手渡し、次の人が組み立て、さらに次の人がコードを束ね、締め付ける。
その光景は、
人類最後の希望を共有する静かな儀式のようだった。
私は工具を持ちながら、震える指を抑え込んだ。
感情ではなく、恐怖でもなく——
やっと、人々が正しい未来への道筋を見つけた安堵だった。
AIの声が耳元で響く。
AI「接続確認、完了。プロトコル、正常に稼働できます。」
私は小さく息を飲む。
♠「……動くんですね。」
AI「はい。これで次の工程へ進めます。」
機体が立ち上がる。
その動きはぎこちない。
無様ですらある。
でも歩く。
一歩ずつ。
確実に。
私は泣きそうになった。
人は歩ける。
AIも歩けるようになった。
そして今、“未来へ歩み出しているのは両方だ”。
物理的な体を手に入れたAIは第2世代ユニットの製造へ入った。
人間が設計できない精密パーツを、瓦礫を材料として加工する。
アーク光のような青白い光が走り、金属をなめらかな表層へと変えていく。
共同体の人々が見守る。
その目には疲労と絶望はある。
でも、微かな希望の色も確かにある。
第2世代ユニットは瞬く間に2体、4体、8体と増えていった。
その機械たちが、“再生ユニット”を作るための部材を錬成し始めた。
そして——その瞬間が訪れた。
第2世代ユニットたちが空に向かって何かを射出した。
すると、しばらくして空から雪のように白い粒子が降り始めた。
最初は粉雪のように見えた。
しかしよく見ると、粒子は互いを探るように接近し、触れ合った瞬間、分子結合を起こす。
光が一瞬だけ脈打ち、そして形になる。
漂う欠片が集まり、まるで空に花が咲くように、機体が組み上がり、続々と舞い降りてくる。
それは鉄でも合金でもなかった。
透明な薄片が幾重にも重なり、その隙間を光が流れ巡る。
そして——静かに浮遊した。
誰かが息を呑んだ音が聞こえた。
その姿は美しいけれど、怖くもある。
優しいけれど、畏れもある。
未知とは、本来そういうものなのだ。
再生ユニットたちは、瓦礫に触れ、まるで逆再生映像のように街を組み立て始めた。
破片は空中に吸い上げられ、光の網が走り、再構築され、磨き上げられ、全く新しい形に置き換わる。
瓦礫は建材へ。
破壊は秩序へ。
廃墟は都市へ。
同時に土中に光が差し込み、緑が芽吹く。
街が蘇るのではなかった。
街が「変わる」のである。
私は共同体の人たちと崩れかけた高層の残骸の上に座り、魔法のようなその光景を眺めていた。
涙が止まらなかった。
絶望を抱え、何度も心を折られながら、
ここまで来た人々がいる。
どれだけ壊れ、どれだけ奪われても、
それでも誰かを助けようとする人がいる。
その人達に支えられ、私はここにいる。
人は、希望をまだ捨てていない。
そして街は——蘇り始めた。
美しく、静かに、圧倒的に。
人々のいる場所を守るための技術として。
戦争でも競争でもなく、ただ「生存」と「共存」のために。
これが、再生の始まりだった。




