第48話
森の中に突然砂地が広がっていた。真っ白い砂漠のミニチュアのような風景だ。どのくらいの広さなのだろう。ブラックスライムの沼よりも一回りは大きいだろうか。
「これは多分砂蟲だろう」
「丁度良いんじゃない」
「そうだな」
森に少し戻った所ですこし開けた場所があり、そこまで戻った。
「砂蟲が近くに居ると言うことは、他の魔物は周辺にいない、もしくは少ない。今日はここで休もう」
夕飯を囲みながら、
「明日、砂蟲を倒すのですか」
そう聞いたコリペティリア様に対して、
「いや、砂地を迂回していく。直進しなくても問題はないからな。砂地にさえ入らなければ別段アレは襲ってこないぞ」
「なぜ、倒さないんですか。魔物でしょう」
ネフィリィウム様は不服そうに申し立てる。
「逆に聞くが、砂蟲を倒す必要があるのか ? 目指すのは、案内を頼まれたのは世界樹への道筋だったはずだ。
世界樹を浄化するのが目的なのだろう。こちらから何もしなければ襲ってこない魔物を一々倒す必要はないだろう。余計な体力を使う必要も無い」
「放っておいても、危険は無いのですね」
「通常ならね」
不安そうなエリカセア様の言葉に、ルーベラさんが答えた。そっか、ネフィリィウム様の台詞は血気盛んなのかと思ったが、そうではなく不安もあるのだなと思い直した。
「人にはあまり問題はないんだが、魔物が砂蟲の縄張り近くに行くと、フラフラと吸い寄せるように砂地に入っていく。その状態の魔物に会っても、こちらの方には気がつきもしない状態なんだ。何か引き寄せられるような匂いなどを発しているんじゃないかとも言われているが、本当の所は判らない。魔物でも用心深いと言われているヤツは、砂地に近寄らないらしいしな。
ただ、獲物が少なくなると自分の陣地を拡げるために砂地を拡げようとするんだ。砂地に入ったモノは、何でも食うんだ。
それにかち合わなければ問題は無い。あまりギリギリ周辺を歩くつもりはない。砂地が認識できるほどには離れて、森の中を歩く」
翌朝、早めに起きた師匠が森の奥へ入っていった。夜番は真ん中だったのに、元気だ。さすがだな、と思いながら朝食の用意をすませた。皆で朝食となった頃に、師匠は大きなボアを仕留めて戻ってきた。
「あれ、お昼ご飯用ですか ? 」
そう聞くと、
「ああ。砂蟲のな」
一旦、砂地近くに出ると仕留めてきたボアを砂地に放り投げた。ドンっと砂地にボアが落ちると、砂地の中から大きな青光りした体の砂蟲が姿を現し、ボアに噛みついた。見た目、巨大なミミズのように見える。ミミズにあんな牙の生えた大きな口は無いが。砂蟲はそのままボアを咥えて砂地に戻っていった。
「餌が取れれば、砂地を拡げることはない。砂地周辺を歩く間は餌を供給しておこう。これで問題なく行けるはずだ」
アルディシア様やエリカセア様が、なんとなくホッとしているように見えた。
それから少し森の中に戻り、砂地が見えるか見えないかの場所をずっと進んでいった。それから2回ほど、師匠がボアなどを獲ってきて砂地に放り投げた。そうして漸く、彼の縄張りを迂回して先に進んだ。
この行程で一番厄介なのは、誰かしらを目に入れて歩かないと行けない点だ。だからやたらと離れられない。師匠は、皆が移動しない時を狙ってボアなどを獲ってきて餌を提供していた。
これだけの森ならば、薬草や食べられる植物、動物などを採取してみたいと思うが、勝手に離れると姿を見失うと言われている。ルーベラさんだけは、少し離れることがあったが、ちゃんと戻ってきている。これは、ルーベラさんも方位磁石に《《選ばれている》》からだと言う。
休憩場所は、四方に結界石を置いてその中だったら問題なく過ごせる。
「すこしぐらい、逸れたとしても直ぐに見つけられないんですか」
「それが、そんな簡単じゃ無いのよ。この森の中で逸れるっていうのは、別の場所に飛ばされちゃうみたいな感じになるのよ」
ルーベラさんが話をしてくれた。
「前に来たときに、一緒にいた仲間がちょっと目を離してはぐれたことがあるの。彼、全然動かなかったらしいんだけど、見つけたときには歩いて3時間ぐらい離れた場所にいたわ。
そうね、ダンジョンで別の階層へ飛ばされる転移系のトラップがあるじゃない。あれが至る所にあるという感じかしら。目を離すとそのトラップに引っ掛かるって感じかしらね」
「じゃ、この森に採取とかに来た人ってどうするんですか」
「採取している間は別行動ね。時間を決めて、その人を回収しに行くのよ。最初に渡した魔方陣符に書かれた魔法陣は、その人のいる場所を教えてくれるモノで、方位磁石と共に手に入れたの。だから、一人でも問題なく行動できる人しか基本的に連れて来られないのよ」
「加えてその時には、長い糸を使う事が多い」
師匠が言うには、糸の一方を師匠が持ち、もう一方を依頼者などが持つそうだ。その糸の範囲だけ離れることが可能だそうだ。
「糸で繋いで移動するんじゃ、なにかあった時に身動きできなくなりそう」
残念ながら、採取はできそうもない。




