第26話 夏休みが始まった
なんと、懸念していた前期に起こりそうだった前イベントが、一つも無く終了した。4年の先輩、攻略対象者’ズの誰ともまったく出会う事が無かったのだ、ラッキー。なにか、ツイてるかも。
一人でいるのを極力回避したからかな。それともこちらの行動によって後期にずれるとか。なんにせよ、良い傾向だ。
前期が終了し、長期休暇で家へ帰る。アクシィア様経由で解毒薬が手元に届いた。この休暇では、男爵様になんとか薬を飲ませなければならない。アクシィア様は薬を手渡してくださる際にこう言った。
「何か困ったことになったら、連絡を下さいね。私たちは友人なのだから遠慮はいりませんからね」
薬の薬効は保証してくださったけど、どういう意味だろう。
問題は、母だ。あの人の手の届く範囲を私は知らない。今までも行き当たりばったりだったけど、今度もそんな感じだな。家に帰ると男爵様と直接話す機会もある。その時に、健康維持のサプリメントとかなんとか言って飲むことを持ちかけてみようと、今のところは思っている。
「男爵様、只今戻りました」
なんと、屋敷に戻って驚いたのは、男爵様が仕事を休んでいた。家に帰ると通されたのは、男爵様の寝室だった。男爵様は寝込んでいたのだ。学校に行っている私たちには心配をかけまいと連絡をしなかったそうだ。
男爵様は体調が悪いのでしばし休養し、その代わりとして母と男爵様の補佐官であるカシアノス・シェリスの二人で商会の仕事などを切り盛りしているとの事。母はその為、この頃は留守がちだという。
今は商談で二人共に隣国へ行っており、1ヵ月ほどは戻らないと言われた。
今日は体調も良いと言われ、少しだけ一緒にお茶を飲み学園の話をした。
そう言えば、毎回、学園から帰ってきた日は、男爵様は家にいてお茶を飲んで話をしている。仕事で留守がちだけど、本来は子煩悩な人なのかもしれない。稀に弟と一緒に居るところを見たが、懐いているように思う。
何か義姉に悪いような気がしている。本当なら、此処にいるのは義姉のはずだ。今回も彼女は帰ってきていないようだ。
医師が言うには、疲労が重なって体調を崩していると言う事らしい。それから、心労もあるので、ゆっくりと休むのが肝要だという話だ。
それは、原因が判ってない藪では? と一寸疑ってしまった。魔法薬が原因なので、絞り込めなかっただけかも知れないけどさ。処方されたという薬を見て、これをすり替えればいいじゃんと思いつく。
きっと体調不良はアクシィア様の言っていた魔法薬のせいも含まれているのだろう。だから、解毒剤でまずは魔法薬の不調を治した方が良いのではと思う。でも、どうやって。
「男爵様が前々から体調が優れないと伺っていて、クラスメイトのピスタチア伯爵令嬢のアクシィア様にご相談したの。
それで、この薬を都合していただきました。明日から暫くはこちらの薬を飲んでいただけませんか。三週間分あります」
腹芸ができないので、ド直球でいってみた。最悪、料理人のカルロスに頼んで料理に混ぜてもらおうかともちょっと考えてたんだけど。料理にまぜて薬自体にも熱が入るのって、良くないよね。
「ピスタチア伯爵領といえば、薬で有名な領地だな。私のために、お願いしてくれたのか。ありがとう。早速、この薬に切り替えてみよう」
男爵様は、チョロかった。娘に甘すぎる。
休暇中は、男爵様と昼をご一緒に頂くことになった。体調が優れないときを除いてではあるが。お陰で、この休みでギルドに行くのは諦めた。でも様子見も兼ねるのでその方が良いだろう。夕食は、食欲がないためあまり食べていないとカルロスから聞いた。食べられるときはご一緒すると伝えた。
薬の効果が出てくれば、食事の時に態度がかわるんではないだろうか。そうすれば効果の程もわかるだろう。段々気まずくなっていくのは嫌だが、仕方がない。
食事中の話題は多岐に富んだ。学園の話に加えて、今回の薬の事から友好関係に話題が移ったりもした。それで何が切っ掛けになったのか分からないが、産業の話や物産、政治的な問題にまで及んだ。
此処らへんは授業よりも、ルフィ様達との会話が役立った。上級貴族の子女ともなると、その情報収集能力は高く、日常会話でも最新の各地の情報が飛び交ったりする。お友達付き合いには、新聞購読は必須だ。
スマホとかあれば楽かなと思わなくもないが。この世界は、情報といえば活字と人の口だよね。
あ、通信連絡は可能。通信機はあるから。ただ、デカくて汎用性が低く値段もお高いので、個人宅での所有はまだまだ少ないそうだ。それに短文のやり取りで良いのならば、通信魔法もある。相手との通信媒体を記録しておくことが必要になるけれど、ちょっとしたやり取りには便利。こっちのほうが一般的かな。
弟は、乳母が付きっきりだ。一日に何回か様子を見に行く。母が居ない時が多いため、乳母がずっと面倒を見ているという。弟はユリウスと名付けられ、今年2歳になる。長期休暇の時にしか帰らないので、いつも始めは「誰、この人? 」という感じだ。でも、人見知りしない子で帰る度に時間を見つけては一緒に遊んでいる。
「目元が私に似ていると言われるんだ。髪のくせっ毛のところとかも私の子供の頃のようだ」
と男爵様は相好を崩している。
ユリウスと遊んでいるとアンには、
「お嬢様の顔がデレデレです」
とか言われる。いやいや、赤ん坊は可愛いのが仕事だ。仕方が無いじゃないか。
現在、子供用のあの柔らかい煎餅の開発をしている。そして、煎餅同盟会員を増やすのだ ! この夏季休暇はずっと家にいることになるので、「ねえね」と呼んで貰うのが目標だ。




