第6話
その日はホテルに戻り、前の晩よりもっといちゃいちゃして、夢のような気持ちで眠った。同じような一日があって、どんどん好きになって、幸せで感覚が麻痺していく。
社長の宣言通り、ホテルの朝食を三度たっぷり味わってから、「住まい」に移った。そこだけハリウッド映画から切り取ってきたみたいな豪邸は、どこか、SF漫画の宇宙ステーションを思わせる外観。それが、緑の多い庭とうまくマッチしてる。植木は、ハート型に刈り込まれたものもあったりして、おとぎ話の中に迷い込んだみたい。
「これ、三日で用意したんじゃ……ないですよね」
車から降りて、もう分かってるけど念のため聞いた。
「俺の趣味を詰め込んだこういう家が、三日で建つならいいんだがな。ここは俺の自宅だ」
「ですよね……」
中へ入ると、部屋ごとにテーマがあるらしく、案内されて歩くだけでも楽しかった。外観でも思ったけど、ひとつひとつが、彼の好きな映画の世界を表しているのが分かった。何の映画か私が言い当てながら歩くのを、嬉しそうに聞いている。だから、かわいすぎるんだって!
リビングだけは一般的な印象を受けたけど、それも私の知らない何かの映画の世界かもしれない。その先に、私の部屋があった。
「わぁ、かわいい!」
まるで妖精の国。カラフルなのにうるさくなくて、どこを見ても浮き浮きしちゃう。そういえば最初の夜のドレスも、妖精が着ていそうなデザインだった。
「気に入ってよかった」
安堵した声を出すものだから、感謝の気持ちを表したくて、彼に寄りかかってみた。こういうこと、してもいいかな。大丈夫そうだけど、自宅ではテンションが変わったりするのかな。
心配する必要はなかった。彼は私を後ろから抱きしめて、「来てくれてありがとう」と言った。その声は例えるなら、壊れそうな宝物が壊れてないのを確かめて、安心して泣いている……っていうような。私を、社長の家だけじゃなく、心の奥底の宝箱に迎え入れてくれたような。これも勘違いかなぁ……。
「何を考えてる?」
甘い声が、頭に、首筋に、心に響く。私を抱いている腕に手を添えて、「幸せで、怖いな……って」と呟いた。
「俺のことだけ考えていればいい」
優しくベッドに押し倒されながらキスされて、ああ、甘えていいんだって思った。
「ほかのこと、何も考えられなくしてください……」
「ああ」
ワイシャツのボタンを上から外していく彼に、私からも口づけを贈った。
運命の日が近付いてきた。月からの使者を待って悲しそうにしていたお姫様の気持ちが、初めて分かった。これは泣きたくなるわ、うん。自分ではどうしようもない「期限」が迫ってる。月の満ち欠けが残酷だっていうのも、生まれて初めて実感してる。
「また月を見てるのか。まさかあそこへ帰ろうっていうんじゃないだろうな」
愛し合った後の、彼の部屋のベッドの中。駄目だぞ、と言いたげに腕が伸びてきて、私を閉じ込める。
「どこへも行きません」
行きたくない。行きたくないの。この時間が終わるなんて嫌。
「私が帰るのは……」
「ここ、だろ?」
肩を撫でる温かい手。大きくて、指が長くて、今では見ているだけでドキドキする手。私のものじゃない……私は彼の宝箱の中に、ハートを置いてきちゃったけど。彼のハートは、私がもらっちゃいけない。
好き、玲司さん。心の中では何百回も言った。
愛しています。私はもう少しでいなくなるけど、泣かないでね。
……泣かないよね?




