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ウソなら本気にさせないで  作者: 大森みさき


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6/8

第6話

 その日はホテルに戻り、前の晩よりもっといちゃいちゃして、夢のような気持ちで眠った。同じような一日があって、どんどん好きになって、幸せで感覚が麻痺していく。


 社長の宣言通り、ホテルの朝食を三度たっぷり味わってから、「住まい」に移った。そこだけハリウッド映画から切り取ってきたみたいな豪邸は、どこか、SF漫画の宇宙ステーションを思わせる外観。それが、緑の多い庭とうまくマッチしてる。植木は、ハート型に刈り込まれたものもあったりして、おとぎ話の中に迷い込んだみたい。

「これ、三日で用意したんじゃ……ないですよね」

 車から降りて、もう分かってるけど念のため聞いた。

「俺の趣味を詰め込んだこういう家が、三日で建つならいいんだがな。ここは俺の自宅だ」

「ですよね……」

 中へ入ると、部屋ごとにテーマがあるらしく、案内されて歩くだけでも楽しかった。外観でも思ったけど、ひとつひとつが、彼の好きな映画の世界を表しているのが分かった。何の映画か私が言い当てながら歩くのを、嬉しそうに聞いている。だから、かわいすぎるんだって!

 リビングだけは一般的な印象を受けたけど、それも私の知らない何かの映画の世界かもしれない。その先に、私の部屋があった。

「わぁ、かわいい!」

 まるで妖精の国。カラフルなのにうるさくなくて、どこを見ても浮き浮きしちゃう。そういえば最初の夜のドレスも、妖精が着ていそうなデザインだった。

「気に入ってよかった」

 安堵した声を出すものだから、感謝の気持ちを表したくて、彼に寄りかかってみた。こういうこと、してもいいかな。大丈夫そうだけど、自宅ではテンションが変わったりするのかな。

 心配する必要はなかった。彼は私を後ろから抱きしめて、「来てくれてありがとう」と言った。その声は例えるなら、壊れそうな宝物が壊れてないのを確かめて、安心して泣いている……っていうような。私を、社長の家だけじゃなく、心の奥底の宝箱に迎え入れてくれたような。これも勘違いかなぁ……。

「何を考えてる?」

 甘い声が、頭に、首筋に、心に響く。私を抱いている腕に手を添えて、「幸せで、怖いな……って」と呟いた。

「俺のことだけ考えていればいい」

 優しくベッドに押し倒されながらキスされて、ああ、甘えていいんだって思った。

「ほかのこと、何も考えられなくしてください……」

「ああ」

 ワイシャツのボタンを上から外していく彼に、私からも口づけを贈った。


 運命の日が近付いてきた。月からの使者を待って悲しそうにしていたお姫様の気持ちが、初めて分かった。これは泣きたくなるわ、うん。自分ではどうしようもない「期限」が迫ってる。月の満ち欠けが残酷だっていうのも、生まれて初めて実感してる。

「また月を見てるのか。まさかあそこへ帰ろうっていうんじゃないだろうな」

 愛し合った後の、彼の部屋のベッドの中。駄目だぞ、と言いたげに腕が伸びてきて、私を閉じ込める。

「どこへも行きません」

 行きたくない。行きたくないの。この時間が終わるなんて嫌。

「私が帰るのは……」

「ここ、だろ?」

 肩を撫でる温かい手。大きくて、指が長くて、今では見ているだけでドキドキする手。私のものじゃない……私は彼の宝箱の中に、ハートを置いてきちゃったけど。彼のハートは、私がもらっちゃいけない。

 好き、玲司さん。心の中では何百回も言った。

 愛しています。私はもう少しでいなくなるけど、泣かないでね。

 ……泣かないよね?


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