表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウソなら本気にさせないで  作者: 大森みさき
1/8

第1話

 その人と出会ったのは、再就職を希望している会社での面接の日だった。手応えを感じながら挨拶をし、退出しようとした時、ドアがいきなり向こう側から開いた。現れたのは、私より頭ひとつ以上大きい立派な男性。甘さと硬派な感じがいい具合にミックスされた、滅多にお目にかかれないレベルのハンサム。切れがいいのに柔らかな物腰、仕立てのいいスーツ。どこから見ても洗練されている。

「ほぅ……」

 頭のてっぺんから足の爪先まで、っていう感じで見られてる。何だろう、金縛りにあったみたいに動けない。

「採用だ」

 え?

「構わないだろう?」

「あ、はい。こちらとしてはほぼ確定しておりまして、規定の五日を置いてお返事するだけの段階でしたので」

「ふむ、現在は求職中、と。ならば問題ないな。今日から俺についてもらう」

 はっ!?

「しゃ、社長!」

 社長! この人が!? そうだ、会社概要で見た顔写真、この人のだ! でもあれはもっと印象が何ていうか大人しめで、目の前の人と一致しない。何か、物凄くキラキラしてるんですけど!

「行くぞ」

榛名(はるな)さん、社長のおっしゃる通りにして。書類は整えておくからまた後でね。おめでとう! よろしくね」

「あ、はいっ」

 面接担当の日下(くさか)さんは、見事な流れで私にお祝いの言葉まで述べてくれて。早く行きな、と促してくれた。私は鞄をひっつかみ、颯爽と廊下を行く社長の背中を追った。

「嫌いなものはあるか。アレルギーは」

 食べ物……のことだよね?

「いえ、特には」

「ふむ。酒は飲めるか?」

「そんなに強くはありませんけど」

「そのぐらいでいいさ。形になればいい」

 形? 相手が社長だと思うと緊張して、聞き返すのも失礼な気がする。

「疑問があれば聞いてくれ。時間が惜しい」

「あ、あの、もしかしてパーティーか何か……ですか」

 彼はそこで初めて、歩を緩めて私を見た。

「察しがいいな」

 ニヤッと笑う。え、かっこいい。顔がかっこよくて背も高いけど、何ていうか、いたずらっ子みたいで。

「ここだ。急げ」

「え? あ、きゃっ……」

「はい、あなたはこっち。社長、お時間十五分いただけまして?」

 セクシーな声の美人に腕を掴まれ、部屋に引っ張り込まれる。

「十分で頼む」

「まあ。女性の支度は大変なんですのよ。ねぇ?」

「はぁ」

 私は呆然と、閉じたドアを見つめた。その女性は、私の髪を梳き、ジャケットを脱がし始めた。

「じ、自分で脱げますからっ」

「あら。『何するんですか』って言うかと思ったわ。彼から聞いた?」

「いえ、何も……ただ、このスーツでパーティー会場っていうわけにはいかないんだろうな、って」

「そこまで分かれば十分よ。エスコートは完璧だから安心して。いい男なのは保証するわ。ああ、誤解しないで。幼馴染みの腐れ縁っていうだけだから。……ん、いいわねぇ、あなた。とっても健やかな感じがする」

 話しながら私をドレスアップさせていくのは、まるで魔法みたいだった。メイクも、就職活動用のものからパーティー仕様に、ちょっと弄るだけで変えてくれた。うん、と満足げに彼女が頷いた時、携帯が鳴った。彼女のだ。

「社長だわ。『まだか』ですって。駄々っ子ね、まったく」

 あの人を駄々っ子って……すごい。

「バッグはこれね。靴もサイズぴったり。楽しんでいらっしゃい!」

「あ、あのっ」

「ん?」

「私、榛名瑞月(みづき)って言います。あなたは……」

 美しい唇が弧を描いた。

渡辺(わたなべ)凛子(りんこ)。長いお付き合いになると思うわ。よろしくね、瑞月ちゃん」

「よろしくお願いします!」

「はい、行った行った! 斜め向かいのエレベーターから降りてね。駐車場の彼のスペースに直結してるから。あと一分よ」

「はいっ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ