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FILM.5 先輩からの手紙

※写真部に保存されているノートより。

『写真部について』


「これはいつ頃の話なのか。

いつ頃から「呪われた」と揶揄されるようになったのか。俺が入部したときはそのような話は聞かなかった。その原因を俺は知っている気がする。いや、見ていたと思う。それが正しければ俺はその現場に居合わせていた。


これは、俺が高2の時の話だ。とある先輩部員の1枚から始まった、写真部の噂のきっかけと思われるある日の事をノート記しておく。



夏休みを明けてからそこまで経っていなかったような。引退したはずの先輩がハイテンションでやって来て楽しそうに話し始めた。


「俺、心霊写真撮ってきたぜ!!」


思えば、これが全ての始まりだった。


右手にはそれらしきものを持っていた。先輩の口から出た「心霊写真」というワードに自分も含め部員たちは一気に釘付けになっていた。どうやら先輩は夏休みに友人たちと心霊スポットを巡っていたらしい(ちなみに後で先輩の行ったという心霊スポットを調べてみたが本当にヤバいと評判の場所)。受験生が呑気に心霊スポット巡りとか何しているんだと思ったがそっと心の中にしまった。


その友人たちは恐怖で怯えていたが、先輩は違った。「写真部」というプライドはむしろ先輩から好奇心という名の扉を躊躇無く開かせる。

「お前怖くなかったのか?」

先輩の話を聞きながらある部員が水を差す。とは言え、きっとこの時誰もが思っていたことだろう。これには俺も思わず相づちを打ってしまった。しかしこの問に関して、とんでもない答えが返ってきた。

「は?写真部なら絶対撮ってやろうって思うだろ?決定的瞬間をさ、写真好きの夢だよ」

先輩はまるで、当たり前とでも言いたいような顔をしながら答えた。この時は言えなかったこと、ここに書かせてほしい。


―それは先輩だけだろ。


ため口になったことを謝る。ただ、悪いが先輩の発言を受けて真っ先に思ったことだ。


先輩の話を聞いていくと、恐怖に包まれた空気の中にいた友人たちを肴に彼はカメラを構え続けていたらしい。信じられない。正気かよ。正直、先輩がそのような人間だとは思わなかった。本気で怖がっている人を面白がりながら写真を撮るなんてあり得ない。先輩はしっかりしているという猫を被っただけのサイコパス野郎だった。これ以上先輩の話を聞いていると、先輩の人間性を否定したくなる。しかし、部室はすでに先輩の心霊写真の話題で盛り上がってしまった。これ以上は聞いていてはいけないように思ったので、俺は写真を撮りに行くと言って部室を出た。


この先のことは何も分からない。先輩がどのような話をしたのかも然り。しかし、これを境に写真部に異変が起こった。


ある日、先輩が学校を休んだ。これがただの風邪なら誰もあのようなことは思わなかっただろう。しかしそんなかわいいモノではなかった。先輩は交通事故に巻き込まれた。生きて帰ることは出来たが、生死を彷徨う大怪我だったらしい。詳しいことは聞いていないが、コンテストに応募するための写真を撮影するために出掛けた末の出来事だ。ただ、人を弄んだ先輩にバチが当たったと俺は皮肉ながら少々スカッとしてしまったのは申し訳ないと思う。「完全に自業自得だ」とかなんとか。


しかし、不幸は簡単には終わらせることは出来ない。


あの日先輩の撮影した心霊写真を見た数人の部員が風邪や食中毒などの体調不良を繰り返すようになった。さらに不幸は部員だけに留まらず、学年を巻き込んだ。先輩は心霊スポットの話を教室でもしていたそう。もう、馬鹿だとしか言えない。少なくとも、この行動さえ無ければ写真部の未来は守れたかもしれない。その際に写真を見た男子生徒、女子生徒の数人にも同じような事が起こったという。中には恋人に酷いフラれ方をされた末に別れたという人もいたらしい(それは当人に問題があったのではと思うのだが)。


先輩を庇うわけではないが、一応書いておく。冷静に考えてみればタイミングや起こったことも全て偶然だ。ある人はたまたま事故に巻き込まれて、ある人はたまたま体調を壊した。そんなのは分かりきっていることだ。しかし、人間はなんでもかんでも1つに結びつけようとする。自分の置かれた状況に納得する理由を探す。本人は「以前あの写真を見た」という事実を嫌でも思い出すだろう。その瞬間、誰もが「あの写真を見たからこうなった」と思うのは必然だ。「偶然」と「必然」は対義語としてこの世にあるが、本当にそうなのだろうか。偶然と偶然が重なれば必然を生み出してしまう。まさに今の写真部はその渦中にいる。


そして、噂というものは流れが早い。写真部の噂も1週間すれば学校中に流れている。ただし、どこかで食い違う。


1年後。ある時、俺は写真部の噂をクラスメイトから聞いた。


「写真部に入ると呪われるってホントなの?」


一瞬、「何を言っているんだ、こいつは」と思った。だが、そのような噂が流れていることは事実だった。混乱した。1年という時を経ていつの間にか写真部が「呪われる」という認識になっていたのだ。


噂というものは本当にめんどくさい。本当かどうか分からない割には地味に人を動かす力がある。中には良いものもあるのかもしれない。しかし、今回に於いては相当厄介だ。最悪だ。なんて説明すれば良いのか分からない。心霊写真という土産を残して笑いながら卒業していったどっかの誰かさんのせいでこんなことになっている。何も知らないやつらは噂を流す事が楽しく感じているんだろう。それゆえ噂が噂を呼んで最終的には全くの別物になる。酷いものはもともとの噂の原形も消える。迷惑な話だ。現にこの噂が流れ初めてからもうすでに5人が辞めている。このペースだと廃部も可能性としてはあるだろう。こんな噂ごときで自分の好きなものを奪われることだけは許さない。


これから写真部に入部してくる子、いや入部してくれる子にはきちんと伝えておく。この写真部は呪われていない。大丈夫だ。それでも、噂を信じる人はいるだろう。「怖い」と思ったら無理に入部しなくていい。幸い、写真はどこでも出来るものだ。入部していなくても、君の元にカメラさえあれば出来る。一眼レフでもスマホでも。だから、写真が好きなら諦めないでほしい。好きなら撮り続けていくべきだ。俺も卒業しても写真を撮り続ける。こんな噂なんかに縛られてたまるか。君の好きな瞬間をこれからもカメラに納めてほしい。


愚痴ばかりになってしまったが、俺はこのノートを読んでくれている君が俺のことを信じてくれると信じたい。俺はこのノートが今後の写真部に必要になると思っている。誤解している後輩の誤解解くため、写真部は呪われてなんかいないと読んで安心するためなど、なんでもいい。そのために、俺は記憶を掘り起こし、こうして長々と書かせてもらった。これを読んだ君がどう思うか、俺には分からない。けれど、好きな写真を続けるために力になれるならと今後の写真部を信じて、俺はこれを大切な後輩たちに託す。」


翠川学園高校 3年 川上翔太

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