FILM.43 写真は語る
「……片村、少しお願いがあるんだけど」
「うん?」
「……カメラ、ちょっと貸してくれない?すぐ返すから」
「カメラ?いいけど」
片村は俺にカメラを貸してくれた。
「どうした?屋上来て写真撮りたくなったか?」
「うん」
「へー」
俺はサッカー部の試合の様子カメラに収めた。
「うん、……やっぱり美しい」
「何撮ったの?」
「『努力』」
「……え?」
写真を見ようと片村が覗き込む。俺は「ありがとう」を言いながら片村にカメラを返した。
「努力してる人って美しいなって思って」
「美しい……って?」
片村は首を傾げながら聞き返す。そして俺は自分のスマホを取り出し再びサッカー部を撮影した。
「俺みたいに、努力しないでここまで過ごさずにきちんと自分の心と向き合ってる。好きだから、努力が出来る。それって誰もが出来るわけじゃない」
だから俺はその人の顔を見れば分かる。俺には出来ないことだから、「羨ましい」と思う。
「片村もその一人だよ」
「え」
「片村と関わるようになってから、お前がカメラを本当に好きでやっているんだってすぐに分かった。自分の中で『カメラしか取り柄が無い』って悩めるくらい」
「上田……」
俺は先ほど撮った写真をスマホから消しズボンのポケットにしまった。屋上に置いたリュックを背負い深呼吸をした。
「よし……そろそろ帰るか。引き留めて悪かったな」
「もう、いいのか?」
「うん。あ、さっき俺が撮った写真、消していいから。俺が勝手に撮ったやつだし」
「……言われなくてもそうするよ。明らかに盗撮だからな」
「だな」
俺は下駄箱で靴を履き替え鍵を職員室に戻す片村を待つ。頭の中にサッカー部を思い浮かべながら自分をそこに重ねた。一瞬で無理だと思った。
「お待たせ」
「おう。じゃあ、行くか」
校門を抜けいつも通りの道に出る。学校の話、カメラの話。いつもと変わらない。
「あ、片村!!上田!!」
「相多……」
教室で先ほど写真のお願いをしてきた相多が手を振りながらこっちにやってくる。
「お前ら今帰りか」
「うん。お前は?」
「俺は次も試合。今ちょうど休憩中」
相多は手に持っていた水筒を開けて水分補給をした。
「……相多、こっち向いて」
「ん?」
俺は相多にスマホのカメラを向けた。するとすぐに相多はポーズを取ってくれた。
「どう?」
「うん。カッコいいよ」
嬉しそうに「もう1枚」と言ってポーズを取る。俺もつられてシャッターを切る。そしてこの流れが数回続き、サッカー部の監督が休憩時間の終了を告げるホイッスルを鳴らした。
「……じゃあ俺行くわ」
「あぁ。頑張れよ」
「サンキュー。後で写真送ってくれ」
「はいはい、分かった」
肩にかかったタオルで顔の汗を拭きながら、相多は部活に戻っていった。
「あいつ、ちゃんと休憩出来てるのか?」
「あはは。確かに、逆に余計疲れてそう」
片村の素朴な疑問に思わず吹いてしまった。
「……なあ、片村。ちょっといいか」
「何?」
俺は一つ疑問があった。しかし、これを当人に聞いていいのか分からない。聞いたら答えてくれるのか。
「お前さ、……もしかして人の写真撮らないの?」
片村の足が止まった。
「……え」
「……」
片村の撮った写真を見せてもらったとき、そして片村からカメラを借りたとき、思った。「片村のカメラに人の写真が無い」と。いや「風景の写真しか無い」と。俺が違和感を覚えるほどに。果たしてこれはただの偶然なのか。
「……やっぱり、そうなのか?」
「……そんなことねーよ」
「じゃあ何で、お前のカメラには人の写真が無いんだよ」
俺はストレートに片村に聞いた。片村の視線は徐々に下へ行った。
「お前には関係無いだろ……」
「……そうだな」
片村は俺と目を合わせることはせず、俺の横を素通りしていった。片村の暗い背中を追いかけ俺は学校を後にした。




