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FILM.4 先輩からの言葉

俺はカメラが好きだ。


たった1つのボタンを押すだけで、世界に1つだけのその瞬間が自分のものになる。もちろん、「自分の眼で見ることに意味がある」という意見を否定しているわけではない。でも、人間の眼はその一瞬を捕らえる事は不可能だ。どれだけ印象的な事も忘れてしまうことがある。でも、カメラなら出来る。1枚の小さなカードが全て覚えている。時を止めたかのように、何枚も、何枚も。これはすごいことなのではないか。賢い人間でも記憶力に限度があるというのに。カメラを使えば不可能が可能になる。俺がこの事に気付いたのは中学生の頃だった。


「カメラを持っているとカッコいい」と思っていた幼少期。好奇心と憧れもあり小学生の頃から父のカメラを勝手に触っていた。勝手に使って怒られたこともあった。ただ、「楽しい」という感情に嘘は無かった。中学生になり、自分のカメラを持った。カメラというものの素晴らしさをカメラを手にする度に感じ、どんどんカメラにのめり込んだ。写真部に入って様々な風景をカメラに残した。本当に楽しかった。高校生になっても写真を撮りたかった。部活ではなくてもカメラが出来るなら、それだけで良かった。だから、この学校に来たのは何の拘りもない。強いて言うなら家から近いから。そんな理由でも写真部の存在を知った瞬間、「ここで良かった」と思った。


「ここでもたくさん写真を撮ろう」


そんな志を抱いた俺を待っていたのは、「部」から「同好会」となった写真部だった。


「新入部員は2人かー、せめてあと1人来てくれれば……」

「そうだけど、来てくれただけでも感謝しようよ」

「そうだな」

この部に何が起きていたのか。高校に入学して間もないが、なんとなく分かっていた。部員は先輩2人と体験入部の俺と友人の上田含めて4人だけだった。

「1年の片村零です。カメラは小学生の頃からやっていました。よろしくお願いします」

「すげー」

「俺よりも長い」

自分で言うのもあれだが、カメラ歴には誰にも負ける気がしない。実際、この中で1番カメラ歴が長かったのは俺だ。

「ねえ、その一眼レフって自分の?」

先輩がカメラについて聞いてきた。

「あ、はい……!!中学の入学祝いで買ってもらったやつです」

「へーすげーな」

「撮った写真見てもいい?」

「はい、別にいいですけど」

俺の撮った写真を先輩は見ていた。少し、いや、かなり恥ずかしいが嬉しい言葉が飛び交い始め、だんだん自分の写真をもっと見てほしくなった。

「この写真めっちゃ好き」

「分かる!このアングルで撮影するの面白いな。今度俺もやってみよ」

さすが、写真部だ。見るところが違う。何も知らない人が同じ写真を見れば「すごい」みたいな雑な評価しかしないだろう。もしそのように思うなら、どこがどんな風にすごいのかを教えてほしい。というのは我儘だな。具体的な内容を求めてしまうのはカメラを好きになった故だ。

「そういえば、自然撮るのが好きなんだな、片村は」

「え……あ、……」

「確かに、人の写真無いな。ほとんど、景色とか花だもんね。俺、片村に撮られてみたい」

胸がざわつく。

「……そろそろ、いいですか」

「あ、そうだな。ありがとう、見せてくれて」

「……」

それにしても、先輩たちは同じ高校生なのにどうしてこんなにもかっこよく見えるのだろうか。背が高いからか?優しく迎え入れてくれたからか?

「あ、おい、あれ持ってきて」

「うん、分かった」

どうやらこの部には「あれ」と言えば通じるものがあるらしい。そしてそれを俺たちに渡してきた。

「これは……?」

「写真部の噂、聞いたことあるか?」

「あ、はい……呪われた……とかのやつですか?」

先輩たちは静かに頷いた。

「このノートは、その噂について詳しく書かれてる。先輩が残してくれたものだ。それ以来写真部に体験入部する人たちには必ず読んでもらってる。今になると全校生徒は難しいけど、せめて写真部部員の誤解だけでも解きたいってね」

「……なるほど」

「どっちが先に読むかは別に気にしてないから2人で決めていいよ。とにかく、読んでくれれば問題はないから」

「読み終わったら、俺たちに渡してね」

「……はい……」

俺は後日、上田からノートを受け取り家に持ち帰った。ノートの表紙には『写真部について』という見出しと、このノートを書いたであろう人物の名前が書かれていた。読んでと言われたので、俺は何も考えず表紙をめくった。



『これはいつ頃の話なのか。いつ頃から「呪われた」と揶揄されるようになったのか。俺が入部したときはそのような話は聞かなかった。その原因を俺は知っている気がする。いや、見ていたと思う。それが正しければ俺はその現場に居合わせていた。』


「何これ……」

よく分からないが、これは読まなければならない気がする。読み進めていくとこの写真部の事がよく書かれている。当時の先輩が撮った写真が全ての始まりだった事、その写真を撮ったしっかりしている先輩は猫を被っている事、その写真を機に様々な災難が訪れたことなどなど。信憑性はかなり高いだろう。そして後半になるに連れてだんだんと先輩の憤りを感じる。これが先輩の本音なんだろう。文字も少しずつ乱れ始めている。ページからでも伝わる先輩の怒りに読み進めていく俺も気付いたら唇を噛んでいた。


そして、ノートも終盤。

先輩は訴えていた。


『「怖い」と思ったら無理に入部しなくていい。幸い、写真はどこでも出来るものだ。入部していなくても、君の元にカメラさえあれば出来る。一眼レフでもスマホでも。だから、写真が好きなら諦めないでほしい。好きなら撮り続けていくべきだ。』


「好きなら続けろってことか……?」

先輩はこれを読んだ人が退部する可能性を察してこんなことを書いたのだろうか。だとすれば、かなり出来た人だ。用意周到だ。このようなノートを書いておきながら、もしものことを想定してその人の今後のこともきちんと考えてくれている。

「しっかりしているな」

猫を被ったその先輩がどんな風にしっかりしているのかは分からないが、このノートの主にこそ、その言葉が似合う。


数日後、上田は入部しなかった。理由は、多分そうだろう。俺も、先輩からの言葉を受けて頭に過ったのは事実だ。でも俺は、先輩を信じる。信じたい。この部は呪われてなんかいない。俺も、この噂にカメラを奪われるのは嫌だ。先輩の考えを俺は写真部部員として伝えていきたい。


「部活」というものにここまで拘り始めたのは始めてだ。趣味と部活は同等なのだと思っていた。写真にここまでしっかり向き合っている先輩の背中を見て追いかけないわけが無かった。


俺がこの部に入るのは、好きな写真を続けるためでもある。でも、それ以上に「この部を守らなければならない」という責任。


その翌年、この決意を粉々にされるのだが、もちろんそんなことを知らない当時の俺は誓う。


「先輩が残してくれたこの「写真部」を廃部にしてたまるか」

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