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FILM.36 「しんゆう」への進化

大好き、楽しい、喜び、親友、信頼、利用、虚偽、裏切り、地獄、絶望。真っ白な頭の中に真っ黒な文字が浮かぶ。親友の口から明かされた真実に思考が追いつかなかった。なんて切り出せばいいのか分からない。そんな私を背に彼女は電話の向こうでひたすら謝罪の言葉を述べていた。

「……え、ちょっと待って……、状況がよく分からないんだけど……」

自分の中で彼女の話をまとめようとするが、上手くまとまらない。利用されていたということは分かったが、それ以降の話が全く入ってきていない。

「つまり、私の描いた絵を利用して自分の評価を求めた……ってこと?」

声にするのも苦しい。こんなことを言うのもしんどい。その苦しみを茉由はずっと隠していたのか。本当のことを話すのは相当な勇気が必要であることくらい私にも分かる。自分で茉由に聞き返すことも苦しい。茉由は今までどんなに苦しんできたのだろうか。

「莉桜の優しさに依存してたの……」

「依存って……、私はそんな風には見えなかったけど」

「もちろん全部隠してた。莉桜に絶対に悟られないように頑張ってたもん……」

「でもさ、茉由だって合作頑張ってたじゃん……それってさ……」

「当たり前だよ。賞を取って評価されたかったんだから」

嘘だと思いたい。そんな思いから出た全ての発言は茉由の心の傷をより深くそれを裂くことになってしまった。罪悪感を抱いていたのは私だけではなかった。しかし、私の抱えていたものと彼女の抱えていたものは比べ物にならない。

「……茉由は私を騙してるときどう思ってたの?」

「最初は上手く行って欲しいと思ってた。実際、途中までは思った通りの展開になってた。でも、何も知らない莉桜といるとだんだん罪悪感しか残らなくなった」

確かに、私は茉由の計画を知らなかった。しかし、話を聞いていて所々の違和感に納得した。合作に取り組んでいたとき、茉由はどこか元気がないような気はしていた。その原因はもしかしてこれではないか。引き受けた理由がなんであれ徐々に賞を意識していく私を見て茉由は、自分のしていたことの残酷さに気づいたのだろう。

「私のしたことに莉桜が怒るのは当然だと思う。だからこれ以上私と関わるのが嫌になったら関わらないでいいよ。私は受け入れる義務があるから莉桜から何をされようと受け入れるつもりだから……」

電話でも分かる。元気な茉由の声からは想像出来ない震えが伝わってくる。絶交という関わることの無いと思っていた単語に私は今隣り合わせ。しかもその選択権は私にある。この選択がこの先の私、茉由の全てを握っている。この選択が全てを変える。私はどうするべきなのか。


―お母さんはどうして欲しいの……?


あの日の光景が頭にある。退部することすら自分で決めなかった私が、友情をここで切り捨てるかどうかの選択に今迫られている。誰かを頼りたい。だが、ここで誰かに頼ってしまうと、私の選択では無くなってしまう。私と茉由の問題だからこそ私1人で決めるべき選択だ。

「……嫌だ」

「……え」

「私はこれからも茉由と仲良くしたい……」

「莉桜……」

2度目の人生で大きな決断。しかし、その答えは自分で選んだ。様々な感情が交差し涙が止まらなくなる。

「私は茉由が大好きだから……!!」

「……莉桜……」

「あのね。茉由のしたことを許したわけじゃないよ。ものすごく腹が立ったし、ショックだった。でも、私も茉由のこと利用してたし大好きな友だちだから失いたくない。だから過去のことで悔やむのはもう終わり。やったことはもう変えられないし、これからは一緒に楽しい時間を作っていこうよ」

「……うん……!!」

「茉由の気持ちも聞かせてよ。時間の無駄かもしれないし、茉由が何を言おうと私の意思はどうせ変わらないと思うけど」


―これ以上私が何を言っても莉桜の答えはどうせ変わらないでしょ。お互いに時間の無駄


「……、ふふ、そっか」

あの時は容赦なく心を刺したもの。それが今、優しく包むかのように2人の傷を癒してくれる。

「私も。私も莉桜とこれからもずっとずっと親友でいたい!!」

「……よかった。同じ気持ちで」

絶望、地獄、裏切り、虚偽、利用、信頼、親友、喜び、楽しい、大好き。真っ白な頭の中は真っ黒なその文字たちを支えるよう私たちの色に染まっていく。

「これからも、よろしくね茉由」

「こちらこそ、よろしくね莉桜」

出会った瞬間を思い出す。茉由から声をかけてきてくれた。その時私たちの全ては始まった。共通の趣味からすぐに意気投合した茉由と「新友」になった中学1年。何をするにもどこへ行くにも一緒だった彼女とは気がつけば「親友」になり、日々を過ごしてきた。本気でぶつかり、本音で話し合い、真剣に向き合い、この日お互いの全てを知った。心の氷を彼女の声は全て溶かしてくれた。そんな彼女との通話を切ると一気に1人の空間になる。電話越しの「バイバイ」という言葉で私たちはお互いの関係に終止符を打った。今日をもって「親友」としての時間は終了。そして次に彼女と言葉を交わしたその瞬間から「心友」としての時間が始まる。

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