FILM.26 コンクール
ここ数ヶ月は大変だった。勉強はもちろん、何より茉由との合作があったから。やりたくなかったわけではない。しかし、否が応でも合作のことで頭がいっぱいになる。
「そろそろ、結果出る頃かな」
「うん、大丈夫だよ。一緒に頑張ったんだから」
何も心配することはない。もちろん緊張はしているけれど、精一杯頑張ったという自信はある。だから今はそこに誇りを持ちたい。
「結果、楽しみだね」
それでも、人生というものは簡単ではない。
「……まあ、またチャンスあるよね」
「……」
「莉桜……?」
現実を突きつけられた。分かっていた。コンテストに応募する人なんて全国にたくさんいる。その名前も姿も知らない人たちと同じ舞台に立つ。それがどういうことか。目頭が熱い。
「……ごめん茉由……」
「え、莉桜なんで泣いて……」
「だって……茉由と一緒に賞取りたかったから……」
どうしよう。涙が止まらない。落ちることがこんなにも悔しいなんて、知らなかった。
「莉桜……」
「茉由。また今度、リベンジしようね、絶対」
「……うん」
受賞出来なかったことは仕方がない。結果なのだから足掻いても無駄だ。この結果を受け入れて次に活かさなければ。そんな私を阻む障害は常にあった。
夏休み。今日も外は蝉の声で包まれている。
「あ、市川さん。ちょっといい?」
「……はい」
顧問である斉藤先生に呼ばれた私は鉛筆を置いて先生の方へ向かった。
「市川さんにちょっと渡したいものがあって……」
「渡したいものですか?」
私は先生から紙を受け取った。
「……『全国新スイーツアートコンテスト』って何ですか?」
「人気スイーツ店『Jewereal』さんが完全協力で行われる美術コンテスト。最優秀賞には商品化という特典が付いているみたい。市川さんの絵の感じならこのコンクールはピッタリだと思うんだけど、どうかな?」
「スイーツコンテスト……か」
スイーツは好きだが、問題が1つ。
「私、スイーツなんて描いたこと無いですけど」
「だと思った。市川さんって、いつも人間の絵を描いているじゃない?あ、別にそこを否定しているわけではないわよ。何を描きたいかは本人の自由なんだから悪いとかじゃない。でも、先生はせっかくの機会だから別のものにもチャレンジしてほしいと思っているのよ。原田さんとの合作だってあったように、初めてでもチャレンジすることが大事。チャレンジすることで何か新たな発見があるかもしれない。学生である今こそチャレンジするべきだと思うの」
私のスタンスを否定せずに説いてくる。
「だから、とりあえずやってみたらどうかしら?その紙あげるから少し考えてみて?」
「分かりました」
席に戻り作業を再開。すると隣で作業をしている茉由が「お帰り」と言った。
「何話してたの?」
「スイーツコンテストやってみないかって。私も概要まだ知らないけど」
「へー」
私は茉由に紙を見せた。
「やるの?」
「うーん、どうだろう。考えてみてって言われたけど勉強とかやることあるし。数日考えてみようかな」
帰宅途中、電車の中でコンテスト関連のことを調べた。
Jewereal。
「宝石のような美しさ」をコンセプトにスイーツを提供している若者に人気の食べ放題スイーツ専門店。SNS情報だがいつ行っても常に行列が出来ているという。2時間待ちは当たり前のようだ。そんなお店が協力するコンテストがこのスイーツコンテスト。賞を取れば、商品化を約束。そして東京都にある本店のお店に食べ放題で無料招待されるようだ。
「へー、本当に綺麗なスイーツ」
SNS上に投稿されている写真からでも美味しさが伝わってくる。何より、コンセプトにある通り宝石の如く美しい。輝いている。眩しい。とても楽しそうなコンクールだがそれ以上に思うことがあった。
「宝石みたいに美しい商品を考えるの……?」
出来る気がしない。すぐに描けるほどに私はそんなにキラキラした人生を歩んでいない。ただでさえプレッシャーと戦っているのに、これらと戦えるほどに美しい商品を考えるなんて私には出来ない。
―とりあえずやってみたらどうかしら?
「試しに少し描いてみるか……」
私は携帯をしまって最寄駅へ着いた電車を下りた。




