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FILM.2 好きなこと

蒼天の今日。


屋上ではシャッター音が鳴る。何度もカメラを構える同級生を目の前に、私は静かに絵を描いていた。


「片村くんは、いつもここで写真撮ってるの?」

「雨じゃなければ、ここには来る。撮影じゃなくてもね。市川は?屋上、よく来るの?」

「今日初めて来た。絵は教室で描いてることが多いから」

教室でたまに勉強も挟みながら絵をひたすら描く。それが私の好きな時間。私の席が窓側であるのでそこから空を眺めながらインスピレーションを受けたりする。しかし、今日は窓から眺めるより直接見たいと思った。空の「青」に溶けたかった。欲しかった。だから屋上に来た。

「でも、ごめん。そっちはよく来てるって。私が勝手に来ちゃったんだね」

「そんなの気にしてないよ。屋上は来たくなるもんね」

この人は相手のことを否定すること無く素直に受け入れてくれる。器が大きい。

「いつも絵を描いてるんだね」

「うん。だって好きだから、絵を描くことが」

「好きなことであれば無限に出来るよな。分かるわ、それ」

「……片村くんはカメラ?」

「うん」

軽く頷きながら撮った写真を確認し始めた。片村くんのことは何も知らない。今のところ「カメラ好き」ということだけだ。それでも、屋上のフェンスに背中を預け、さらに一眼レフカメラを持っていると、まるでドラマの主人公。学園ドラマのワンシーンを見ているような感覚に陥りそうだ。

「画になるな……」

そして再びシャッターの切る音がした。カメラに魅せられ、ほのかに太陽に照らせれている彼の横顔は美しい。

「……ねえ、市川」

「っ?!」

「え、何でびっくりしてるの」

「あ、いや、ごめん、なんだろう……」

なぜ。どうしてか分からない。それでも、彫刻のようなその端麗な顔がこちらを振り向いた瞬間、我に返った。

「あ、何か言った?」

「部活入ってないって言ってたじゃん。それって何か理由でもあるの?」

「何で急に?」

「いや、ちょっと気になっただけ」

「……部活と趣味は一緒にしたくなかったからかな」

片村くんは首を傾げて私の答えを理解しようとしていた。

「部活入ったら、好きなことを『する』じゃなくて『やらなければならない』ってなるから。そんな風に強制されちゃったら、私は絵を描くのを嫌いになるんじゃないかって思って……」

カッコよく言っているが、一言で言うと怖いからだ。好きなことを失う可能性を恐れているのだ。

「……片村くんは、写真部?」

「うん。中学も写真部だった」

「そうなんだ」

「楽しいよ、部活。俺は部活やってて良かったって思ってる。」

今まで接点はなかったから分からない。それでも、この時間でこの人は本当に写真を撮ることが好きなんだと感じる。そして、「写真部」という単語に目から鱗が落ちた。


「写真部って言えば、掲示板で見たよ、廃部になるって」

「あー、そうそう」

まさに今日、屋上に行く時に掲示板に貼られていた1枚の紙を見た。それには写真部が規定人数を下回ったために廃部になるというようなことが書かれていた。おそらく期間中に規定人数が集まらなかったため廃部が決まったのだろう。

この学校は部活として認められるためにはいくつか条件がある。その中に「部員が5名に満たないクラブは部活とは認めない」という規定がある。逆を言うと、5人さえいれば部活として扱われるということだ。但し例外として、部活として認められていたが徐々に人数が減っていき規定人数を切ってしまった場合だ。この際は、人数を切った瞬間に廃部になることはなく、一度「同好会」として残る。しかし、同好会になってから1年で部員が定員を上回ることが条件となっており、1年という期間中に部員が集まらなかった場合は廃部になる。

「大丈夫なの?」

「大丈夫って何が?」

「えっと……」

なんて言えばいいのだろう。頭の中の言葉を必死に漁る。

「別に困ってないよ。幸い、写真はカメラさえあれば撮れるから。それこそ部活じゃなくて趣味でカメラやればいい。さすがに運動部とかだったら頭抱えてたかもしれないけど」

重い空気に私はいつの間にか手を止めていた。

「まあ、俺が入ったときはすでに同好会だったから、なんとなく覚悟はしてたよ。先輩も言ってた。どんどん人が辞めていったんだってさ」

この時、私はあることを思い出した。

「ねえ、間違ってたら申し訳無いんだけどさ、人が辞めていったのってもしかして……」

「うん、多分そうだろうね。翠川学園写真部、別名『呪われた写真部』ってやつ」

「そっか」

この学校では有名な話だ。内容としては単純で「この学校の写真部に入ると呪われる」というような感じだ。この学校に通っている今の生徒は全員知っているといっても過言ではない。だからこそ、写真部がこんなことになったのだ。

「この噂、何で流れたか知ってる?」

「知らないけど……片村くんは知ってるの?」

「噂程度だけど一応。読んだから」

「読んだ……?」

片村くんは少しトーンを落として話し始めた。

「なんか、写真部の先輩が撮ったとある写真が発端だったらしいよ」

「写真……?」

高校1年の終業式後、屋上は春の寒さに包まれていた。

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