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FILM.13 放課後

光陰矢の如しとは本当だった。ついこの間高校2年生になったというのに、あっという間に中間テスト最終日の日程が終わった。学生である以上避けることの出来ない定期テスト。終わりを告げる鐘が鳴る刹那、クラス中に歓喜の声が入り交じる。

「終わったー……」

私も大きく息を吸った。定期テストは初めてではないが、毎度毎度、この変な緊張感には慣れない。集中しすぎたなのか、空気が美味しかった。回答用紙を先生に預け、私は勢いで頭を机に伏した

「市川、大丈夫か?」

上田くんが笑いながら声をかけてきた。

「やっとまともに呼吸出来た気がする……。心臓止まりそう……」

「ははは。お疲れ」

「うん、上田くんもお疲れ様だよ」

「ありがとう」

帰りの支度をしながら話していると上田くんが尋ねてきた。

「そういえば、ずっと聞きたかったんだけど、市川ってあいつと仲いいの?」

「あいつ?」

「片村と」

「え、何急に……?」

突然の質問に私は支度している手を止めた。

「いや、この前さ、片村と一緒にいたじゃん。だから片村に聞いたらさ、『友達だ』って言ってたから。クラス違うのに凄いなって思って」

言われてみれば確かにと思った。私と片村くんはクラスが同じになったことはない。にもかかわらず、本音で話すことが出来る。少なくとも私はそうだ。

「あ……、でも、あの時は片村くんが声をかけてくれて」

「へー」

上田くんはニヤニヤしていた。この人もしかして、私たちが友達以上の関係だと思っているのか。

「そういうやつじゃないよ。友達……なのかは分からないけど、そういう関係ではない」

「そっか」

彼の返事から察するに間違いないだろう。誤解はきちんと解けただろうか。もし、そのような噂が流れたら片村くんにも迷惑をかけてしまう。それだけは避けなければならない。

「じゃあ、俺帰るわ」

「うん、お疲れ様」

「そういえば原田は?」

「茉由なら先帰ったよ。部活あるからって」

登校して茉由の「おはよう」という言葉に続けて「今日は部活あるから先に帰るね」と謝っていた。

「市川は帰らないのか?」

「お昼食べてから帰る」

「あ、なるほど」

上田くんは教室を出ていった。廊下から上田くんの声が聞こえる。誰かと話しているのだろう。そんなことを考えながら私はロッカーからスケッチブックを取り出した。

「明日は英語の小テストか……」

席に座り鞄の中を漁る。今日は試験最終日だが、その後小テストの勉強をするつもりだったのでテキストは持ってきている。

「あった……」

テスト明けだからと言って休む時間は皆無。小テストの勉強が終わったら、気晴らしに絵を描こうと思っていた。

「今はもうどっちも勉強メインだな……」

私が学校で絵を描き始めたのは中学生の頃。あの頃は美術部にも入っていて勉強と部活の両立に日々勤しんでいた。そして私はある時見つけてしまった。「絵を学校、勉強は家でやればいいのでは」と。もちろん、これは「メインでやる」という意味だ。勉強を放課後にやることだってもちろんあった。しかし、昇る階段が増えていくと同時にそんな悠長なことを言ってられなくなっていく。その結果、勉強は徐々に絵の時間を削らせる。そして「退部」したのがこの時期だ。中学2年生だった。それからは、場所に限らず勉強しながら休憩するときに絵を描くという方向にシフトした。結果的にはこの方向転換は私の成績に良い影響を与えることになる。


もったいないと思う。無人の教室は心地いい。そう思う反面、周りの人たちにこれを知られたくないとも思う。矛盾している。知られたらもうこのような幸せな時間は戻ってこないかもしれない。

「あー……やだやだ」

その可能性に変な寒気がした。私は学校での生活でこの時間が1番好きだ。

「嫌な予感は現実になりませんように」

駅で買っていたメロンパンを左手に持ちながら、私は英語のテキストを開いた。

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