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ごっどぶれすゆー  作者: 宮城 英詞
インストールは心を込めて
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インストールは心を込めて その1


神を見た者はどこにもいないが、

もしも我々が互いに愛し合うならば、神は我々の胸に宿るのである。

――トルストイ



 差し込む朝日。スズメのさえずり。

 俺は暖かい布団のぬくもりの中、目を覚ました。

 夢?

 そう、ひどく悪い夢を見た。

 就職活動で行った会社が神様の経営する会社で、クソ細かく日ごろの行いを審査された挙句、テストと称して霊や妖怪を見る能力を与えられる夢だ。

 おかげで、その後、自分の部屋に居る浮遊霊に自分の身の上話を一晩中聞かされる羽目になったというとんでもないおまけまでついた……。

 ……。

 ……いやにハッキリ覚えているもんだな。

 俺は寝ぼけ眼で起き上がると、布団から這い出し、頭をかいた。

 あんな夢を見たせいだろうか?ひどく眠い。

 きっと疲れがたまっているんだろう。

俺はなぜか握り締めていたお守りを投げ捨て、大きくあくびをした。

おそらく疲れと、ストレスが溜まっているのだろう。だからあんな変な夢を見るのだ。

昨日、急に失業したのだ。考えてみれば無理もない。

「早く仕事を探さなきゃならないけど、今日一日ゆっくりしていようかな……。」

俺はそう呟くと、テレビの傍らに居た浮遊霊に、

「あ、リモコン取ってもらえます?」

 と声を掛けた。

 血まみれの男性からリモコンを受け取った俺はテレビのスイッチを入れ、そして――。

 ――?

 ……!

 そして、その朝、部屋中に俺の絶叫が轟いた。



 ……結局、今日も俺はあの土地管理事務所に向かうこととなった。

 翌日になっても、朝だろうが昼だろうが、やはり「見える」のである。

人にはない特殊能力とうらやましがる人もいるかもしれないが、実際そういう目に遭って初めて解る。

これはもはや呪いか、そうでもなければ祟りに近い。

誰だって血まみれの男と顔を突き合わせながら朝メシなんか食いたくないはずだ。

道端に居る異形の妖怪と目を合わさない努力も並大抵ではないし、目があったという理由で憑り殺されでもしたらそれこそ笑い話にもならないというものである。

 一瞬、病院の精神科に行こうかとも考えたが、よくよく考えた後、さすがにそれはやめる事にした。病状を詳しく語りでもしたら入院させられるかもしれないし、医学の範疇で「これ」が治癒できるとはとても思えなかったのである。

 そして俺はここに帰ってきた。

 幸い、と言っていいのかどうか分からなかったが、その事務所は昨日と同じく違和感たっぷりに大都会のど真ん中に「存在していた」。

 神か悪魔か、はたまた妖怪かと言う話はさておき、どうも彼らは「本物」であるらしい。これはもう、どこをどう考えても否定のしようのない事実である事を、ここに至ってさすがに俺もようやく認めざるを得なくなっていた。

 やはりこの症状は祟りか天罰か何かなのだろうか?

ここの社員になったら許してもらえるかな?

 俺は淡い期待と渦巻く恐怖感を胸に、わりと長時間その建物の前に佇んでいた。

 目の前の事務所以外は何の変哲もない、下町の片隅。そして、周囲には依然うごめく異形の妖怪たち……

……。

俺はその姿をしばし眺めた後、大きく息を吸い込み、そして意を決して入り口に手を掛けた。

「……こんにちは。」

 やはり立て付けの悪い扉に悪戦苦闘しながら扉を開けた俺は、また昨日と同じように事務所の中に居た、狐の耳を生やした女性と目が合った。

 が、そこに居たのは、昨日とはまた違った女性。

……それも二人。

「はい?どんな御用です?」

 事務机に座りながら、きょとんとした顔でそう言ったのは、このような事務所には似つかわしくないほどの幼い風貌の少女だった。そして、その向かいの席には、無表情な顔でこちらを半ば睨むように見つめる女性……。

 ……此処で良かったよな?

 昨日とはまた違った面子の出迎えを受け、俺はもう一度事務所内部をくまなく見渡した。

 落ち着け。

そこに居る人間こそ違え、事務所は昨日のままだ。

 よくよく考えれば、昨日明石さんが、もう二人……じゃなくて二柱、同僚が居るといっていた。おそらく彼女たちがその「二柱」とやらなのだろう。

数秒の思考の後、ようやくここが普通の事務所で無い事を思い出した俺は不思議そうな顔をする彼女を前にもう一度呼吸を整え、ゆっくりと口を開いた。

無礼が無いよう、丁寧に。

「……あのぅ、昨日お伺いした佐藤と申しまして……。」

「……佐藤さん?ええっと……。」

 緊張した面持ちの俺の前で尻尾を振りながら首と耳を傾げる彼女。彼女が助けを求めるように向かいの席に視線を送ると後ろを振り向くと、そこに座っていた女性はぼそりと少女の疑問に答える。

「……新入社員の人間。」

「あ、そうか!ちょっと待っててくださいね。」

向かいの女性の言葉に、少女は全てに納得したらしかった。彼女はそれに手をぽん、と叩くと、昨日の明石さんと同じように、尻尾を振りながらパタパタと中の扉に姿を消していく。

 そして、呆然とそれを見送る俺に、もう一人の女性がそっけなく俺に声を掛けた。

「……ひとまず座ったら?」

「……はぁ、どうも。」

 ……フランクじゃなさ過ぎるのもどうかと思う。

俺は今日も部屋の中を優雅に飛ぶエイを眺めながら、勧められるままにソファーに腰掛け、明石さんが奥の部屋から現れるまで、ただ事務所に響く彼女の事務作業の小さな音を聞き続ける事となった。


あの面接は夢じゃなかった。

やっぱり見えちゃう話せちゃう。

この状態を何とかしてよとやっては来たが。

事務所は知らないモノばかり

さてさてどうなる佐藤君

続きは明日のお楽しみ

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