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ごっどぶれすゆー  作者: 宮城 英詞
防災祈願は我らにお任せ

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39/40

防災祈願は我らにお任せ 万事解決!

「えっ?ネットの向こうの人間とやり合う方法あるって?」

「そうなんですよ。」

 作戦開始一時間後。向こうで天神様がスサノオ様の話に無理やりつき合わされているのを横目に、俺も酒の席を利用して他の神々の説得を開始していた。

 まず手始めに明石さん、ネットでのトラブル解決法について、俺とカグヅチ神での指南を始める。

 さすが電気街の守護神。カグヅチ神はやはりこういうことには詳しいらしい。彼は俺ともに明石さんと酒を酌み交わしながら、ネットトラブルの解決法について語り合っていた。

 逆上しているときは耳に入らなかった話も、こうやって酒を酌み交わしながらであれば、聞いてもらえるらしい。

 ……まぁ、コレで、ネットの件は何とかなるだろう。

 互いに赤ら顔で語り合う神々に俺はひとまず安堵のため息を漏らしていた。

「榊さん!お賽銭をたくさんもらってきたって本当ですか?」

そんな俺の後ろから、赤ら顔の南さんと恵比寿様が期待に膨らんだ目でこちらを見ている。

俺はそれに、ドン、と胸を叩いて見せた。

「任せてください!ささやかですけど、お金はまだあります。腐った鳥居くらいなら何とかなりますよ。まぁ、足りない分はまた今度僕が日曜大工で立て直してあげますよ。」

「うぁい!すごいですぅ!」

「さすが、榊はんや。やっぱりお金の調達は人間に任せるのが一番やなぁ。これからも頼みまっせ。」

 言いつつ、俺はまた二柱の神々と互いに酒を酌み交わす。

 さすが、元が現金な動機だけに、こっちも、どうにかまとまりそうだ。

 俺は上機嫌の二柱の神々と酒を飲みながら。もう一つ、安堵のため息を漏らす。

……が、宴はまだ始まったばかりである。

なにしろ今回は数が多い。

お地蔵様達が手分けして接待に当たってくれているようだが、それでもやはり限界はあるだろう。

俺もさすがにそこまで酒豪ではないし、こんなことをやっていれば時期に酔いつぶれてしまうだろう。

そんなことを思っているとおサルタイツの尻尾を千手院が引っ張る。俺が振り向くと、そこには汗だくのまま肩で息をする千手院がいた。

「……アカン、こっちはもう限界や。場も盛り下がり始めとる。応援はまだかいな。」

先ほどから腹踊りを披露していたはずの彼だが、さすがにプロでないせいもあってその顔からはいい加減憔悴の顔が見て取れた。さすがお役所仕込みの接待芸も、一時間が限界であるようだ。俺はその言葉に頷くと、携帯を取り出して状況を確認する。

「こんなこともあろうかと、その筋専門の神様をパソ神様に頼んで呼んでもらっているんですが……そういえば遅いですねぇ。」

「その筋専門……ってなんや?宴会芸の得意な神さんでもいてるんかいな。」

「ええ、こういう席にはもってこいの神様なんです。知ってます?あの天岩戸の前で踊って神々を楽しませ、中に引きこもる天照大神の興味を引いたという神様……。」

「それは流石にワシも聞いたことはあるな。」

「……あ、いらっしゃった!」

 噂をすれば影、メール着信とともに携帯の画面から顔を出したパソ神様。彼は携帯画面からひょっこり体を出すと、満面の笑みをこちらに向けた。

「人々の祈りが伝わったようです。ネット設備がなくて手間取りましたが、ここまで連れてきましたよ。」

「ありがとうございます!では早速はじめましょう。」

 言うが早いかスマホを床に置くと、俺は大きく手を打った。

 一同の注目が集まる中、俺は大きく声を上げる。

「さぁ、皆様お待たせしました!この宴のために遠路はるばる着ていただきました!芸事の神様として信仰の厚い女神。舞い踊り、笑い声で世界を救った舞姫!巫女の祖としてその名も高き、天若日子あまのうずめのみことです!」

 俺がその名を口にするや否や、おおぅ!という歓声が巻き起こる。

 パソ神様が携帯のミュージックプレイヤーをかき鳴らすと同時に、噂の舞姫が文字通り携帯のディスプレイから文字通り躍り出……。

 次の瞬間、その神様の姿にやれやれと一息ついてお酒を口にしていた千手院はそのまま口にした酒を噴出し。俺は目を丸くして絶句してしまった。

無理も無い、スマホのディスプレイから現れたのは、美しい女神に違いは無かったが、身に着けているものは薄衣一枚、あとはなんと素っ裸といういでたちであったのである。

 あられもない姿の彼女は、周りの神々の歓声を一身に浴びながら、一糸まとわぬ姿で音楽に合わせ、舞踊る。

 その魅惑的な舞いと音楽に、会場のテンションは一気に最高潮に達した。

 しかし……。

「……ちょっと過激ですね。」

「……せやな。」

 神様だから恐れ多いと言う所を飛び越えて、正直、目のやり場に困る。

 伝説の舞姫と聞いて呼びはしたものの、さすがにあんな美女が裸で踊りだす姿が見られるとは思わなかったし、恐れ多くも八百万の神々がこのテのダンスでここまで盛り上がるものとは思っても見なかった。

 言われてみれば、確かに自分がすねて引きこもっている最中に、戸口でこんな馬鹿騒ぎをやられたら気にならないほうがどうかしている。

 神聖なはずの神々の相談の場は、気がつけば一転(会場の端で語り合う天神様とスサノオ様を別にして)ストリップショーのようになっていた。

 そして、絶句しつつお酒片手に舞いを凝視し続けていた俺達は、とうとう眼前でM字開脚まで始めた女神様に、思わず二人同時に手にした枡を床に落とす。

「……観音様や……。」

「神様ですって。」

 鼻血を流しながら呟く千手院に、俺は訂正することを忘れなかった。


――そして、3時間後。


「……ですからぁ、まぁ、ネットだって使いようなんですよぉ。それから生まれる出会いもあるしぃ……ねぇ?ここはいっそ、与根倉さん自身でサイトを運営したらどうですぅ?」

「……運営?」

「そう!神様が運営してるんだから、ご利益間違いないですよぉ!コレが評判になればぁ、いかがわしいサイトによりつく人だって居なくなるんじゃないですかぁねぇ?」

 気がつくと、会場は酔いつぶれた神々で死屍累々と言った有様となっていた。

会場の端では、疲れ果てたスサノオ様に、泥酔した天神様が酒樽に寄りかかったままでなにやら一方的に話しかけている。

 俺はその光景を眺めながら、今まで黙々とお神酒をあおり続けていた、与根倉さんとへろへろになりながら語り合っていた。

 飲んだ。

 とにかく飲んだ、話した。

神々を楽しませ、語り合い。いまや、祟りや天罰などどうでも良いといった空気が会場を支配している。

すべては計算通り。神々の怒りは払われ、災厄は防がれた。

――そして気がつくと、与根倉さんも語り合う俺を差し置き隣で安らかな寝息を立て始めていた。

――作戦成功。

俺は、そんな光景を、アルコールで混濁した意識を必死につなぎとめながら感慨深げに眺めていた。そして、そんな俺にお地蔵様が俺に熱いお茶を差し出す。

俺はそれに一礼すると。ありがたくそれを頂いた。

「今のこの宴会を見ていると、お釈迦様が苦行の最中、ミルク粥を頂いて悟りを開いたという話を思い出しますね。人も神もただ、がむしゃらに正しく生きるだけではいけない。こうして、時には羽目をはずし、語り合い、互いの苦しみを分かち合う……そうする事で人も神も互いに影響しあう一体の存在であることを確認し、互いの進むべき道を確認しているんですね。」

頂いたお茶が優しく腹に染み渡る。

 酔いつぶれた千手院に毛布をかけてあげながら、そう語るお地蔵様に俺は小さく頷いた。

「……確かに天神様の言う通り、こんなやり方じゃ、人はいつまでたっても正しい生き方なんか出来ないかもしれない。……でも、それが人間なんですよ。時には怒り、時には過ちを犯す。そして、それを悔いて、許して、笑い飛ばして生きていくんです。……何しろこの通り、神様だってそうなんだ。人間の僕らがそれを超えられるわけないじゃないですか。」

 僕の言葉に、違いありませんね、とお地蔵様が笑う。それに釣られて俺も笑うと、背後から同じくお茶を入った湯飲みを持った弘田社長が、優しく俺の肩を叩いた。

「まぁ、何もワシらは難しい事言うてるんやない。物に対して、自然に対して、そして人に対して、親しい人と付き合うように接してほしい……ただ、それだけの事なんや。間違いを犯したら謝ればええ、機嫌を損ねたらご機嫌とったらええ。人と神はいつもそうやってお互いの関係を確認し合ってきたんや。」

 なるほど、おそらくもう何千年もの間、神と人とはこうして付き合ってきたのだろう。

俺は社長の言葉にその歴史を感じ、なんだか可笑しくなった。

結局古代人も、現代人も、そして神様も、昔から根っこの部分は何一つ変わってはいないのだろう。友人と付き合うように、時には協力し、助け合い。そして、機嫌を損ねて、ご機嫌をとって、また新しい付き合い方をお互いに認識しあう……。

そうやって人間は、自分が周囲に生かされている存在であることを認識し、神々や自然と向き合って来たのだ。多分これから先何百年、何千年先も、形を変えながら人は神といたちごっこを繰り返して付き合っていくのではないだろうか――。

そんなことを思いながら俺がお茶を飲み干すと、会場の端で高いびきが聞こえる。見るとそこには、酔いつぶれたスサノオ様と天神様が、互いに身を寄せ合いながら眠りこける姿があった。

――神様だって、わかっちゃいるけどやめられない。

そう思えば、どんな失敗も罪も、笑い飛ばせるじゃないか――。

 俺は、ある種気ままに過ごしているように見えるおおらかな神々の姿に、そんなことを教えられた気がした。

 ――そう、神様だってそうなんだ。ちょっとやそっとの失敗なんてわけないさ――。

 二柱の神々の姿にそんな思いがよぎり、俺はなんだか笑いがこみ上げてきた。

俺は、その感情に逆らわずに大いに笑う。

そして、それにつられて、社長が笑い、お地蔵様が笑う――。気がつけば、起きている神と仏はみな誘われ、大いに笑っていた。

再び巻き起こった笑い声に、酔いつぶれた神々も目を覚まし、眠い目で辺りを見回しはじめる。

そして、その姿に、社長は満面の笑みで頷き、力強く俺の背中を叩いた。

「ほな、一件落着ということで。手打ちといこか!榊君、頼むで!」

「はい!」

 社長の言葉に大きく頷く俺。

かくて俺は、居並ぶ神々の笑顔を前に立ち上がり。咳払いを一つ。

そして、酒に焼けた声を振り絞って、声を上げた。

「……それでは皆様!宴もたけなわでございますが。今回はこの辺で手打ちとさせていただきたいと思います。つきましては皆様、僭越ながら私、榊が音頭を取らせていただきますので、お手を拝借!」

 俺の言葉に、社長を始め、明石さん、南さん、与根倉さん、スサノオ様、天神様、お地蔵様――その他大勢の神々が、仏が、そして人間が居住まいをただし、手を広げる。

 そして俺は、会場が一体となったことを確認すると、高らかに、そしてにこやかに声を上げた。

「う~ちましょ!」

 ぱん!ぱん!

「も一つせ!」

 ぱん!ぱん!

「祝おうて三度!」

 ぱぱぱん!

「めでたいなぁ!」

 ぱん!ぱん!

「本決まり!」

 ぱん!ぱん!

「お疲れ様でした!」

 


 ――かくて、来るべき大災厄を防ぐべく行われた壮絶な祭りは幕を閉じた。

 翌日は台風一過の澄み切った晴天であったそうだが、疲れ果て、夕方まで眠りこけた俺がそれを知ったのは夜のニュースでの事であった。



宴は神を喜ばせ

嵐は街から遠ざかる

憂さは宴で晴らされて

罪は気が付きゃどこかに消えた

台風一過万事解決!

またも世界は救われた?

さてさてそして榊君は?

もうちょっとだけ続くんじゃ


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