防災祈願は我らにお任せ その6
「……さて、あとはお金をどう使うかですね。」
「そうやな、アレだけの神々がおるんや。このままやと台風で水害を起こし、地盤が緩んだところに地震、火事、疫病と、何でもありやで。」
そして、気を取り直して言うお地蔵様とスサノオ様に俺は大きく頷いた。
こうしている間にも台風は着々とこちらに近づいている。時間は一秒でも惜しいのである。
俺は札束の山をどけると、自前のノートパソコンをテーブルに置き。千手院がお金を運んでくるまでの間検討した内容をみなに見せた。
「まず向こうの動きですが、台風の接近に伴い。明日、天神様のお社で極秘裏に天罰の会議が開かれます。恐らくは明日、ここに大阪中の八百万の神が集まるでしょう。」
「どこでそんな情報入手したんや?」
「ネットの掲示板に書いてありました。検索したらあっさり引っかかりましたよ?」
「……どの辺が極秘やねん。」
「ま、明石さんのやることですからねぇ。……で、今回はここに乗り込みます。」
そして俺はキーボードを操作して次のページを表示する。俺が今までの経験とネットの情報網を使って短期間で調べた内容を一同は興味深げに覗き込んだ。
「準備するものはお酒、米、塩、魚、他季節の食べ物。あと、昔は雨を止めるため赤馬を生贄に捧げたそうですが……。」
「……まぁ、やらんほうがええな。手間と金がかかる上にインパクトと後始末の苦労が尋常じゃないやろ。」
流石に古代の基準で話を進めるわけにはいかない。俺は千手院の言葉に頷くと、代案を提示する。
「ですので、通常は生のまま奉納するんですが。今回は調理済みの食べ物を捧げましょう。忌火を起こして調理すれば効果は抜群です。」
「なんやねん?『忌火』って。」
「機械を使わずに火起こし弓とかで起こした火のことです。」
「いまどき火起こし弓かいな?」
「ワシらは使う火の一つでも、清らかで、心のこもったものを好むんや。ナンボ銭を積んでご馳走作っても、それが心のこもったもんやなったら意味は無いで。」
千手院の言葉に補足を入れるスサノオ様。それに俺とお地蔵様は大きく頷いた。
なにしろ相手は神様だ。いくらお金を積んでも、彼らが欲するのはその裏側にある「心」そのものなのである。ここの辺りを外すと、文字通りお金の無駄遣いになりかねない。
ようやくそのあたりの状況を察したのか、千手院はううん、とうなり声を上げた。
「……手間をかけな意味が無いのはようわかったけど。それじゃ人手が足らんで。アレだけの神々をもてなす料理を準備をワシらだけで出来るとは思えんで。」
「そうですね、私が声のかけられる限り分身を呼びますが。手は足りても所詮は同じ心を持つ分身。「心」が足りるかどうかは難しいですね。もっと霊威の強い協力者がほしいところですが……。」
言いつつ額を付き合わせるお地蔵様と千手院。
が、それに対して、こんなこともあろうかと手を回していた俺はにやりと笑ってそれに答えた。
「安心してください。「捨てる神あれば拾う神あり」ですよ。こう言う時のために、帰ってくるまでにパソ神様に頼んで携帯からメールで助けを求めに言ってもらっています。」
「メールで?」
「はい、天神様が言っていました。ネットというのは「文字」という形で人の言霊を封じ込めた一種の結界だって。……で、あれば、心のこもったメールには必ず反応がありますよ。ましてや助けを求めたのは……。」
と、そこまで行ったところで、俺のスマホがメールの着信を告げた。
お地蔵様とスサノオ様、そして千手院がしげしげと覗き込む中、俺がファイルを開くと、液晶画面から、パソ神様が顔を出す。
「連れてきましたよ。」
パソ神様がそう言うと同時に俺の携帯が巨大なファイルをダウンロードし始める。その様子を千手院はしげしげ眺めた。
「連れて……って誰を連れてきたんや?この近辺の神々は残らず敵にまわっとるんやろ?」
「はい、でも、東京近辺なら味方になってくれる神様はいるってことですよ。僕もついさっき思い出しましたが、東京は秋葉原にうってつけの神様がいたんです。」
「秋葉原やて?」
俺の言葉に訝しげな顔をする千手院。が、背後で、その言葉にスサノオ様は大きく頷いていた。
「なるほど。防災の神、秋葉大権現やな。」
「そうです。災害封じは防災祈願の神社に祈願するのが一番!どんな災害を起こそうとしても、火の神や水の神がストライキしたら災害なんて起こしようがありませんからね。そして、お呼びしたのは防災祈願の神社としてその名も高き火の神様です。しかも相手は電気街の守り神、ネット上からでもご利益は……。」
……。
アレ?
そこで、一同の視線は何の反応も見せない携帯電話に集中した。ダウンロードしていたはずの俺の携帯はなんとテーブルの上で静かに煙を上げ始めていたのである。
「……なんや?お前のスマホは古い電池でも積んでんのかいな。」
「そんなはずはないんですが……。」
こんな大事なときに壊れたのだろうか?
不安に駆られる俺。
そして、次の瞬間それは起きた。
ボンッ!
千手院が覗き込んだその刹那。俺の携帯はあるまじき音を立てて、それはなんと火を噴いて砕け散った。上がった火柱はそのまま天井まで吹き上がり、人型を成す。
「おぅ!アンタが榊さんかい!南さんから話は聞いてるぜ!オイラが東京は秋葉神社の、秋葉明神こと火之迦具土神だ!」
威勢のいい江戸弁でそう言ったのは赤い逆立った髪形の、町火消しの格好をしたやたら元気のいい神様だった。
彼はふわりと床に飛び降りると、人懐っこい顔で俺と握手を交わす。
やや釣り目で、ちょっと怖い顔をしているのは多分、彼が時には猛り狂う火の神であるからだろう。
「ややこしい登場の仕方すなっ!火事になったらどないすんねん!」
呆気にとられながらそれに答える俺の後ろで、髪の毛の一部を焦がされた千手院が抗議の声を上げる。が、当のカグヅチ神は野暮なことを言うなとでも言いたげにそれに答える。
「男が小さいこと気にすんねぇ。火事と喧嘩は江戸の華よ。」
「ここは上方じゃ!」
……流石は火の神。予測はしていたがなかなか難物のようである。焦げ付いた髪を押さえながら抗議する千手院を無視し、カグヅチ神様は話を続ける。
「まぁ、細けぇことはさておき。メールは読ませてもらったぜ。東西の違いはあれど、同じ電気街の危機とあっちゃ黙って見過ごすわけにもいくめぇ。」
「じゃぁ、ご利益をいただけるんですね!」
「おうよ!ま、ここは一つ、おいらにど~んと、まかしときな!火の神の名にかけて、オイラの霊威の及ぶ範囲にゃ、火事の類は、あ、起こさせしゃぁしねぇ~ぜぇ!」
言いつつ、腕をまくりしながらテーブルに片足を乗せ、歌舞伎役者よろしく見得を切るカグヅチ神様。
……ついさっきと逆のことを言っているのが心配で仕方ないが、江戸弁なせいかなんとも頼もしい神様である。お地蔵様もそれに満面の笑みで頷く。
「コレで火の厄は払えますね。あとは水や風、地の神ですか。」
「おう!そうくると思ってよ。ちゃんと同僚にも声かけといたぜ。」
カグヅチ神様はそういうとにやりと笑い、親指で背後のパソコンを指差す。するとそこからはやたら色っぽいお姉さんと、丸々太った眼鏡の女性が這い出してきた
「秋葉神社ってのは伊達に防災祈願の看板ぶら下げてるわけじゃねぇ。同じく秋葉神社の祀神、水の女神、水波能売神と土の女神、埴山毘売神だ。俺たちが同胞を説得して回りゃ、大概の天災はイチコロってもんよ!それに、賽銭の都合もつくとありゃ鬼に金棒じゃねぇか!まぁ、大船に乗った気で居てくんな。」
そう言うカグヅチの神と背後でにっこり笑う三柱の神の姿に、俺たちは互い笑みを交わし、大きく頷いた。
地震、水害、火災はコレで何とかなりそうだ。
あとは、天神様に説得され、天災を起こそうとする他神々の怒りをいかに鎮めるかだ。
「よし、残された時間は少ない、みんなで手分けして準備に取り掛かりましょう!」
俺の声に、神々は頷くと、一斉に祭りの準備に取り掛かった。
八百万というからにゃ
捨てる神ありゃ、拾う神あり
ネットで怒る神あれば
ネットで来る神もあり
先立つものと神仏が
居れば恐れるものはなし
さてこれからのお祭りは?
次回公開座して待て!




