天神様の嫌いなお祭り 次章どうなる?
もう見捨てるしかないのか。
もはや泣きそうな俺に隣の席の南さんはにぱっと笑って俺の肩を叩く。
「大丈夫ですよ、スサノオ様みたいな強力な神様ならいざ知らず、私たちみたいな福の神は相当の数が賛同しなきゃ、大規模な天災なんか起こせないんですから。今回も、せいぜい、落雷か街が水浸しになるくらいで済みますよ。」
「……はぁ。」
やはり、明らかにスケールの感覚が違うのだが、どうやら慰められているようだ。
言われてみれば、巨大台風が来るくらいなら、まぁ確かに、毎年のことだろう。
こうやって身の回りの福の神が味方のうちはまだなんとか……。
「まいど!大地震起こすんやって?手を貸しにきたで!」
はぁ?
そんな話をしていると突如がらりと事務所の扉を開け恵比寿様が入ってきた。
開口一番、にこやかに物騒な事を口走る恵比寿様に俺は思わず椅子ごとそのままひっくり返る。
俺がなんとか体勢を立て直すと、恵比寿様はきょとんとした顔で事務所内を見回し、首をかしげていた。
呆然と顔を見つめる我々に、彼はおよびでない?といった面持ちで静まり返る事務所内を眺め回している。
「……あれ?おかしいなぁ、明石はんから頼まれて、知り合いの神さんから署名集めて来たんやけど……ここやなかったかな?」
言いつつ、B4サイズの封筒を俺たちに見せる恵比寿様。
それに俺はもう一度その場に崩れ落ちそうになった。
「……さすが明石姉さん、本気になると根回し早いですねぇ。」
そしてそれに、せんべいをかじりながらのん気に感想を述べる南さん。
どうも、近所の福の神も味方ではないらしい。
俺は風災害から大地震に悪化している状況を把握し、足元が崩れるような感覚に襲われた。しかも、向こうは着々と準備を整えて、徐々に外堀を埋めていっているらしい。このまま神々が次々と抱きかかえられていったら……。
俺は頭をよぎる凄惨な未来図に、さすがにたまらず恵比寿様の持つ封筒を彼の手からむしり取った。そしてにこやかな顔のままの恵比寿様をこれ以上ないというほどの憤怒の表情で睨み付ける。
「恵比寿様!あなた福の神でしょう!なに大災害の片棒担ごうとしているんですか!」
「……いやぁ。せやかてな、聞いた話やと、こないだの神戸の震災ではあちこちで、御社が新しく立て直してもろうたそうやんか。わてのとこも、いい加減こぎれいな御社が欲しいなぁ、と……。」
コラコラ!
なんちゅう理由でお前ら災害を起こそうとするんだ!
確かに、いまどきそんな事でもなければ大抵の御社は古ければよし、と放置されがちではあるが、しかし、そんな理由でこの一帯を地震で更地にされたらたまったものではない。
「……あ、そうか、そういえばウチも鳥居の根元が腐ってきてますねぇ。」
「せやろ?だからここは一つ、どかーんと……。」
「ちょ、ちょっと南さん、南さん!」
……が、そんな俺をさしおいて福の神同士にあるまじき会話を始める南さん。そんな彼女に、俺は思わず肩を掴み、恵比寿様と相談を始めようとした彼女を慌てて引き戻した。
「御社の建て直しのために地震起こしてどうするんですか!あなただって福の神でしょう!」
「……いや、そのぅ……、地震を起こして、みんなが助け合い、穢れを正す心を育てて御社を建て直してくれればですね……。」
「……僕の目を見て言ってくれませんか?」
睨み付ける俺に明らかにさっきの受け売りの文句を必死に目をそらしながら並べ立てる南さん。
ダメだ、このままでは天罰に便乗した神々の待遇改善運動のために、大阪が災厄に見舞われかねない!
考え方のスケールが桁外れにデカイのはいつものことだが、余波をこうむって家を潰される方はたまったものではない。
古代からの常套手段とはいえ、さすがに目の前でこんなアホな相談をされて放置できるわけが無い。
せめて知り合いの神は何とかしなければと南さんを睨み付ける俺。そしてそんな俺の肩を、恵比寿様はぽん、とやさしく叩いた。
「まぁ、まぁ、榊はん。何も人間を滅ぼそうというんやない。ちょっと大阪近辺を地震で更地にしようと、ただそれだけのことですがな。」
「どこが「ちょっと」なんですか!どこが!」
もうこうなると恵比寿様のめでたい顔も、ありがたいとは思えなくなってきた。否、むしろ無邪気に恐ろしい話をする彼が悪魔に見える。
俺は気が付くともはや恵比寿様が神である事を忘れ、怒鳴り返していた。
が、人間の気力では限界があるのか、はたまた向こうのスケールが違いすぎるのか。恵比寿様にはてんで堪えた様子が無かった。いや、なにやらすねたような顔でこちらを見ている。
「いやぁ、そのぅ……。」
「そないな事言うても、御社を建て替えるお金はそうそう沸いてこうへんからなぁ。」
「そうそう。」
……どうにもならんな、コイツら。
俺は、肩で息をしながらアテにならなくなった……と言うよりはむしろ、あっさり敵に回った神々を睨み付けた。
理由はどうあれ、終末は近い。
どう少なく見積もっても、関西圏に危機が訪れようとしている。
この流れを変えられないのか?
先ほどの絶叫で吐き出しつくした気力を集め、必死に考える俺。
そしてそんな俺を見かねてか。今までの一部始終を見守っていた社長が、新聞を閉じて立ち上がり、ゆっくりと口を開いた。
「……そうやな、榊君。この上は非常事態やさかい仕方ない。君にはこの事態に備えて、準備してもらおう。」
「……準備?」
「そうや。仕事上の都合とはいえ、災厄が起こると知ってしもうたんや。ただ、指をくわえて、天災の起こるのを待つと言うわけにもいかんやろう。」
「はい!その通りです!」
それは、まさしく救いの神とも言うべき社長の一言であった。俺が社長の言葉に顔を上げると、彼はそれに大きく頷く。
「うむ、善は急げや。早速やが……。」
「はい!」
「今から帰って、荷物まとめて田舎に帰り。」
「はい!」
さすがは社長である。
俺は、社長の言葉に頷くと、早速机に向かい荷物をまとめはじめた。
ウチの田舎なら関西で地震程度の災厄が起きても直接被害をこうむる事はまず無いだろう。逃げるなら早い方がいい!今ならまだ……。
「……って違うでしょう!」
俺はそう叫ぶと、カバンを机に叩きつけ、そのまま退社しそうになりそうな自分を慌てて引き止めた。
「それじゃ根本的に何の解決にもならないじゃないですか!第一、神様がまっさきに諦めてどうするんですか!まずは災厄を食い止める方法を考えましょうよ!」
いきなり飛んできた後ろ向きな指示にさすがに俺は社長に噛み付く、だが、社長はただ、駄々っ子がすねるのを見るような目でこちらを見返すだけだった。
「……そうは言うても、ワシかて数ある土地神の一人に過ぎん。ここまで神々の意見が天罰っちゅう方向で団結されてしまうようではどうにもならんわい。まぁ、いずれ放っておいても天災ちゅうのは起きるもんや。事が収まったら帰ってきてええんやし、ここは事前に事が分かったのを幸いっちゅうことにして、しばらくは田舎に帰って親孝行したり。」
「そんな……。」
さすがに社長までそんな事を言い出すとは思ってもいなかった。
嘘だ!
神がここまで人を痛めつける決断をするはずが無い!
俺は目の前で起きている光景が信じられず。味方を求めて事務所を見回す。
そして、この騒動の中、黙々とスマホを操作し続ける与根倉さんにすがりついた。
「与根倉さん。何とか言ってくださいよ!」
……が、彼女はそれになんら反応を返す事はしなかった。
それどころかこちらを一瞥すると、また液晶画面を覗き込みながらなにやらブツブツと呟き始める。
「……傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲……。」
「……はい?」
謎の言葉。
与根倉さんの言葉の意味が分からず、俺は彼女がじっと見つめるその視線の先――すなわちスマホの画面を覗き込んで、ようやくその意味を把握することが出来た。
そこに映し出されていたのは、明石さんや天神様が見て怒っていたいSNS……。あらゆる思惑から嘘と謀略と陰謀論とグルメ、そしてエロの渦巻く人々の退廃した言霊の羅列……。
「……みんな死ねばいいのに。」
ダメだこりゃ。
俺は、眼前の神の言葉にがっくりと首をうなだれた。
恵比須様もお稲荷さんも
みんな天罰したいみたい
そりゃ人だって悪いけれど
動機がなんか軽くない?
絶体絶命榊君
人間代表どうするの?
さて緊迫?のお話の
続きは来月!座して待て!




