天神様の嫌いなお祭りその2
場所は、電気街の一角に存在する携帯ショップ。
そこに気のいい店員が居て、この近辺の神々の守護を受けているのだが、今月に入って急激に売り上げが落ちているらしい。このままはその店員さんの降格、転勤どころか、下手をすれば閉店の危機と言う状況であるらしい。
その日、取り急ぎパソ神様抜きでその店に足を運んだ俺と明石さんであったが、その店の惨状に俺は思わず顔をしかめた。
「ここ……ですか。」
「そう、ここ。」
そこは、人のごった返す電気街にあって、完全に休憩所か、もしくは携帯電話の展示場となっていた。
人が寄り付く様子もなく、カウンターではやることの無い店員が、ただ呆然と通りを眺めるか、手持ち無沙汰なのか何度も、見本品を布で磨き続けている。心なしか照明は薄暗く、俺も明石さんに案内されていなければ通り過ぎてしまうほど存在感の無い店になっていた。
「これは確かにひどいですね……。やっぱり原因は分からず、ですか?」
「そうやねん、どこか穢れてるわけでも、厄介な神さんがいてるわけでもないしなぁ。会社の方針はともかく、ここにいてる店員はええ人やから助けてやりたいねんけど原因が分からんではどうにもならんわ。」
「……本当に最近多いですね、こういうの。」
そう俺がつぶやくと、明石さんが盛大にため息をつく。
「ホンマや。パソコン、テレビ、果てはゲーム、今度はスマホ……このままやったらうちらの仕事にも関わるわ。」
「……どんな影響があるんですか?」
「何言うてんの!無神論者が増えたら、誰もお参りに来んようになるやないの!うちら一応信用商売やねんで?」
「……なるほど。」
それは確かに深刻だ。
彼らも彼らなりにご利益を見せておかねば、存在自体を否定されかねない状況なのだろう。それが我々と違って精神体に近い彼らにとっては死に近い意味を持つことはよく理解できる。
神にも恐れるものがあるわけだ。
俺はその言葉に大きく頷いた。
「……まぁ、今は一件、一件当っていかなしゃぁないわ。ひとまず詳しい話聞いてみようか。」
そう言うと明石さんはまたため息を一つつき、難しい顔のままで店内に入っていく。
ひどく疲れ果てたような彼女の後姿に、俺はひしひしと事態の深刻さを感じずにはいられなかったが、確かに彼女の言う通り原因がわからないではどうにもならない。
俺がやるせない気持ちのまま缶コーヒーを飲み干すと、やがて彼女は一柱の小さな神様を店内から連れてきた。
それは耳にイヤホンをした白いリスであった。
白い鹿や狐が神様として存在していることは聞いていたが、リスを見るのはさすがに初めてである。
……が、この仕事を始めて半年。さすがにこの手の神様には慣れっこになっていた俺は明石さんの肩に座るその神様に丁寧に礼をした。
獣やらなんやらはまだマシなほうで、中にはモノやら単細胞生物を思わせる神などざらにいる。多少変なものをくっつけているとはいえ、ひとまず見たことのある生物の姿をしているだけまだましというものである。
「どうも、わざわざ来てくださって助かりますデシ。僕もほとほと困っているのデシよ。」
リス神様はこちらに礼を返すと、そう話を切り出した。
幸いながら、人語は話せるようだ。
俺は、話し口調から随分とまともな神様であるらしいことを感じ、内心ひとまず安堵した。
何しろ、最初から怒り狂った状態の神様だと、まずなだめるところから始めねばならないことも珍しくない。今回この神様に関してはその点でずいぶん楽な相手といえた。
「ここ数ヶ月で売り上げが急激に落ちているのデシ。この商品なんかいい仕事しているのに発売から全く売れないデシ。おかげで、在庫が増えるし、値段は下がるし……。ほとほと困っているのデシよ。この間も、予約の大量キャンセルがあって、あの店員さん、上司に大目玉食らっていたデシよ。」
リス神様言われ手に取った商品は、ここ数日前に売り出されたという新型のスマホだった。実際機能には詳しくないが、パンフレットを見る限り、その会社の一押し商品であるらしい。九十九神が憑くほどではないにしろ、職人芸が光った独特のオーラをまとっている、まぁ霊的には申し分ない商品だった。
俺でもわかるくらいだから長年電気街で守り神をしている明石さんにわからないはずも無い、俺がはたと隣を見ると、彼女は一転、その商品を険しい顔で眺め回していた。
「……解らんなぁ。ええ商品があって、ええ店員さんがおれば商売繁盛は間違いないのに、何でこないな事になるんやろ?」
「……誰かに恨まれているとか?その、たとえば店自体が。」
「そう思って、ざっと素行を調査したけど、関係者にそないな恨み買うようなことしてる奴はおらんのよ。それに、一人や二人の恨みでこんな極端なことにはならんで。第一、それだけやないんやろ?」
ほとほと困り果てた顔でそう言う明石さんに頷くリス神様、それに彼は彼のサイズに合った小さな資料を取り出した。
「そうデシね。ここのお店では、インターネットプロバイダーの加入受付業務もやっているんデシが、それなんかはここ数週間完全にゼロデシ。こちらも力を尽くしているのデシが……。」
「ああ、またプロバイダーかいな……厄介やなぁ。」
リス神様の話に明石さんはとうとう頭を抱えた。俺はそのことばに顔をしかめる。
「他にもこんな案件ありました?」
「うん、ここ一週間ほどの話やけどな、インターネットのプロバイダーへの加入件数がやたら落ち込んでるんよ。」
「それって、インターネットに入る人が減っているってコトですよね?この近辺の神々は熱心にインターネットに興味を持っているのに?」
確かにそれは奇怪な話だった。
いや、霊的にはほぼありえないと言ってもいい。この近辺の福の神は、インターネットに興味を持ち出しているのに、人間はそれに従って動いていない。
「……やっぱり何か別の「力」が働いているんでしょうか?恨みとか、呪いとか……。」
これは確かに神々の存在が無いものとされている症状と思っても過言ではないだろう。
と、なれば相当強力な何かが働いているに違いない。
果たして、そんなものがあるのだろうか……?
神でなければ悪魔の仕業?それともあの命様の住む遊園地のように大量の人間の意志の力によるものか……。
必死に考える俺。
だがその隣で明石さんは、答えを出していた。
腕組みしながら考え込んでいた明石さんは、俺の隣で、ポツリとその答えを出す。
「……いや、これは多分「祟り」やな。」
「祟り?」
「人間の穢れや行いや恨みなんかやなくて、どこの誰かわからんけど、神さんが直接霊的に影響しるんや。そうやなかったらこんな変なこと起こるわけがないわ。」
「誰が?何のために?」
「それが解ったら話は早いねんけどなぁ。大体は神さんを誰かが怒らせたのが原因なんやけど、なんでうちら電気街の売り上げに影響が出るんやか……。」
そう言うと明石さんは、腕を組んだままでの姿勢で唸り声を上げる。
確かに神様を怒らせてインターネットの加入件数が減るなどと言う状況はさっぱり理解で出来ない。しかもこれほどの影響が出るとなると、相手はよほど霊威のある相手に違いないのだが……。
同じく明石さんと唸り声を上げる俺。
だが、神の顔見知りなどさほど居ない俺に答えが出ようはずもない。結局、俺はもう数秒思案した後、考え込む明石さんを横目にリス神様にもう少し詳しい話を聞く事にした。
「お客さんが何か話をしていませんでした?こんな理由で買わないとか、なんとか……。」
「買わない理由デシか?」
俺の言葉に同じく腕を組んで唸り声を上げるリス神様。
数秒の後、彼は何か思い出したのか、ぽん、と手を叩く。
それに俺と明石さんはリス神様の顔を覗き込んだ。
「……そういえば、学校でネットが教育に良くないとか言う話があったとか、そんな話をしていた人が居ましたデシね。」
「学校で?」
「ええ、関係あるかどうかはわかりませんが、そんな話をしている方々を見ましたデシ。多分、子供を持つ人間じゃないかと。」
「最近、色々ややこしい事件がありましたからねぇ。」
リス神様の言葉に俺はさもありなん、と言う顔で頷いた。
確かにネットの普及に伴い、それに関する事件は最近やたら増えている。
それを警戒して学校が子供にインターネットを触らせないように、と考えるのも確かに頷ける話だ。
「でも、そんなものどこにでもある話ですしねぇ。こんなことで怒る神様なんて……。」
「……いや、おるで。」
「え?」
リス神様の言葉を流そうとした俺にポツリと言葉を返す明石さん。
「これは天神さんのやり口や、間違いないわ。」
目を丸くする俺とリス神様を尻目に彼女は一人、大きく頷いていた。
商売繁盛したいけれども
嫌な噂が立っている
火元は何かと聞いたのならば
天神様の祟りという
果たしてそれは本当なのか?
誰の祟り化怨念か?
次回続きをお待ちあれ




