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ごっどぶれすゆー  作者: 宮城 英詞
疫病神はおもてなしがお好き

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疫病神はおもてなしがお好き 一件落着

 翌日、俺は遊園地の入り口で南さんと千手院がやってくるのを待ち構えていた。

 確か彼の言っていた期限は本日のはず。彼がその気なら必ず見回りに来るはずである。

 そしてその予測通り、彼は日が沈みかけた頃に待ち構える我々の前に姿を現した。

「あ、来ましたよ。」

 最初に気付いたのは南さんだった。俺は彼女の言葉に階段を上がってくる彼の姿を確認し、彼に駆け寄る。

千手院は待ち構えていた我々の姿に少なからず驚いたようだった。

「なんや?お前らなんでこんなとこにおんねん。」

「いや、疫病神さんが張り切っちゃって大変な事になっちゃいましてね。まぁ、とりあえずこちらに。」

 俺はそういうとにこやかに彼をエレベーターに乗るように勧めた。

千手院はそれに、不審がりながらも従い、エレベータに乗り込む。

「……張り切るってどう言う事やねん。」

「ええ、徹底抗戦だとか言って、周りの厄神を集めて立てこもっちゃってるんです。今、千手院さんが来るまで待ってくれと、推しとどめているところでしてね。」

 俺がそこまで言ったところで、エレベーターの扉が開く。そして予想通り、千手院はその光景に顔を引きつらせた。

 無理もない。

 そこに見えるのは所狭しと座り込む数々の厄神たちだった。彼らは手にプラカードを持ってこちらを出迎えている。その数たるや、もはやちょっとした抗議集会と言う有様であった。これだけの厄神がこの周辺に潜んでいたと言うだけでも驚きであるのだが、彼らがみなみすぼらしい格好をしているせいか、パッと見には単なるホームレスの集会にしか見えないこともまたすごい。

正直、俺も今朝この光景を見て顔を引きつらせたものである。

「……なんか公園の立ち退きとかでこういうの見たことあるな。」

「まぁ、似たようなものですからね。さぁ、こちらに。」

 厄神に抗議のシュプレヒコールを挙げられながら、呆然と周囲を見回す千手院さんを俺はさらに奥へと案内した。南さんが人ごみ(?)をかき分ける中、我々が足を踏み入れたのは、通常プロレス団体が試合で使用している会場であった。

 そして、我々の眼にそこの客席を厄神たちが占拠している光景が目に飛び込む。さながら試合開始前のプロレス会場のようなその光景に千手院はさらに顔を引きつらせた。

「……なんじゃこりゃ。」

「いやぁ、ここに収まってもらうのに苦労しました。みなさん、千手院さんを待っていたんですよ。ねぇ?」

 俺がそう言うと同時に、会場で怒号とも歓声とも付かない声が響き渡った。さながら悪役レスラーになった状態の千手院はあくまでにこやかな俺をギラリとした視線で睨み付ける。

「……さてはお前ら、これでワシをびびらそうと言う腹やな?」

「いや、そんな気は全然。こんなに集まっちゃって困ってるんですよ。」

 いささか白々しいと思ったが、俺はことさら彼に愛想よく、半分は心無いことを言って見せた。

 確かに、霊的な話で行けば、おそらくこの会場は恐ろしく穢れた状態になっているはずである。これらを浄化するにはいかな仏法の力をもってしても、かなりの労力を必要とするはずだ。これで帰ってくれれば、こちらも楽なのだが……。

「やかましい!その手に乗るか!こんな事もあろうかと、こっちはこっちで準備しとったんじゃ!見とけ!」

 だがやはり、千手院はそれにおびえる様子は微塵もなかった。

 彼はそういうと札を取り出し、再び印を結んでお経を唱え始める。そしてたちまち五柱の神が彼のお経に応じ姿を現す。

 その姿に、会場には一斉にどよめきが起った。

「見たか!お不動様に加え、持国天、増長天、広目天、多聞天!須弥山の四方を守る四天王とはこの仏さんのこっちゃ!」

 千手院の声に従い、一斉に五柱の神様がポーズを決める。おのおの兜や武器は持っているものの、やはり服装は柄シャツやサングラスなせいか、むしろそれは「ガンを飛ばす」と表現したほうが良いのかもしれない姿になっていた。集団で胸を必要以上にそらすその姿はもはや、「その筋の人」の集まりにしか見えなかった。

「……なんで千手院さんの呼ぶ神様ってみんな怖い顔してるんです?」

「魔を追い払うために決まっとるやろ。」

 俺の素朴な疑問に千手院はそんなことも知らないのか、と言った面持ちで答える。

 ……確かにそんな顔とカッコで睨まれたら、大抵の厄神なら逃げていくに違いない。いささか焦点がずれた気のする回答だが、俺はひとまずそれで納得する事にした。

「さぁ、お前ら覚悟せぇよ!たとえ束になろうが疫病神が仏法にかなうか!お前らまとめて浄化したるわ!」

「ちょ、ちょ、ちょっとまってください。」

 気持ちは十分解るが、さすがにそこでハルマゲドンを始められてはたまらない。

俺はいきなり戦闘体勢に入ろうとする千手院を慌てて押さえつけた。

「……なんやねん。」

「いや、そんな事したらここに居る厄神さんたちがみんな暴れだしちゃって、大変な事になっちゃいますよ。千手院さんだってここが更地になっちゃったら困るでしょう?」

「……まぁ、そらな。」

「でね、こっちも被害を少なくするためにも、考えたんですよ。それに協力してくれませんか?」

「協力やと?」

「ええ、この一件をとりなしてくれる神様がいらっしゃったのでね、そちらと勝負していただきたいんです。それで、負けるようならば、彼らも黙ってここを出て行きます。今そういう風に彼らと話をつけたところなんですよ。」

 俺の言葉に千手院はしばし考え込みながら周囲を見回してた。

 おそらく彼の中で必死に計算しているのだろう。ここで戦ったらどうなるか、そしてこれは罠ではないのか……。

「出て行くと言う言葉に嘘はないやろうな?」

「まぁ彼ら、曲がりなりにも神ですし、二言はないと思いますよ?それで逆らうなら、その時は退治していただければいいわけですし。」

 どうやら俺の言葉が最後の決め手になったようだった。彼はその言葉ににやりと笑うと、こちらを見据え、大きく頷く。そして彼は自信満々に俺に向かって胸を張ってみせた。

「ええやろう。どこの神か知らんが、仲裁とはええ度胸や、この近辺で信仰も厚いこちらのお不動さんに勝てる神さんが居るんやったら出てきてもらおうやないか。」

「はい、……明石さん!OK出ましたー!」

 そして、俺は千手院の言葉ににっこり笑って頷くと、リングの向こうに居た明石さんにサインを送った。それに明石さんは大きく頷くとリングの上に飛び乗り、高らかに声を上げる。

「それではおいでいただきましょう!大阪に舞い降りた救世主にして神の子!大阪市民の贖罪を果たすため、今宵、再び復活し、その体をリングと言う名の十字架の上にさらします!父と子と精霊の御名において、果たしてこの地に正義を示すことができるのか!今、その傷ついた体に茨の冠を被ったその神々しいお姿で――

イエス・キリスト様、降 臨 で す !」

 かくて、明石さんの言葉と共に、痩せた身体の髭の神様がリングに降臨した。

 彼がリングでその両手を掲げ、会場内に後光を煌かせるや否や、会場の興奮は最高潮に達する。

リング中央に降り立ったその神様の神々しさに俺も思わず目を奪われ。俺はその姿に我を忘れて十字を切った。

アァメン。

「ちょっと待たんか――い!」

「はい?」

 興奮する会場の中ただ一人、千手院が俺に掴みかかった。それに俺は不思議そうな顔で首をかしげる。

「はい?やないがな!アレは一体何やねん!」

「何って……ご存じないです?イエス・キリスト様。ちなみにセコンドにマリア様も……。」

「んなことは分かっとるわ!なんで他所の宗教の神がこんな所におんねん!」

「いやぁ、実はこの近くに御社がありまして、事情を話したら快く仲裁を引き受けてくださると言う事でしたので……。」

「「御社」とか言うな!教会やろ教会!」

 とうとう千手院は逆上して俺の襟元を掴んで叫び始めた。それにリング上の明石さんが勝ち誇った顔で声をかける。

「お前みたいな生臭坊主は知らんかもしらんけどな、こちらのキリストさんの父神さんは日本じゃ天之(あめの)御中主(みなかぬし)(のかみ)(アメノミナカヌシノカミ)ちゅう名前やねん!まぁ、こちらのキリストさんはウチらとは同族っちゅうこっちゃな!」

「適当なことぬかすな!お前らこないだまで天照大神と大日如来が同一神とかぬかしとったやろ!大体向こうは一神教やないか!」

「残念やな、へっぽこ坊主!天照大神さんは天之御中主神さんから数えて9代下の子孫神じゃ!キリスト教の基準で言うたら、うちらは「天使」ちゅうことになるんじゃい!」

 ……すごい言い分だ。

リング上で胸を張る明石さんの言葉に千手院ばかりでなくさすがに俺もあきれ果てた。 ……ちなみに、天之御中主神とは、日本神話で天地を創造した最初の神だそうです。

 残念ながら私、会ったことはありません。

……まぁ、確かに世界を創造した神が二人も居るわけがないのでそう言う事になるのかもしれないが……しかし、ここまで言い張るとはいっそ見上げたものである。この調子ではどこの宗教ともなじんでいけそうだ。

「おのれらにはプライドっちゅうもんがないんか!」

「ドアホ!プライドで世界平和が実現できるか!」

 リング上とリングサイドで繰り広げられる舌戦に沸き立つ厄神たち。

正直それにいいたい事は山ほどあったが、このまま場外乱闘でも始まったらかなわないので俺はひとまず間に入り、リングに上がってしまいそうな千手院をなだめた。

「……まぁ、まぁ、宗教論争はさておき、困っている厄神さまの救済と贖罪を名乗り出てくれたことは確かなんですから。ほら、聖書にもあるでしょ?『善人なほもて往生とぐ、いわんや悪人をや』……。」

「それは親鸞の言葉じゃ!」

 無学な人間が適当な事を言うものではない。

俺の言葉に千手院はさらに逆上し、俺のネクタイを掴んで左右に揺さぶり始めた。さすがに息が出来ずにあえぐ俺を見かねて、南さんと与根倉さんが彼を協力して俺から引きはがず。そして、髪を振り乱して荒い息をする千手院の姿を明石さんは勝ち誇った顔で見下ろした。

「で?どうする?この上は尻尾巻いて逃げるか?……ああ、うちらは別にかまへんよ?なにしろ話し合いで事が済むんやったらそれにこしたことはないしなぁ。」

そう言うとにやにや笑う明石さん、それに千手院はしばし歯軋りをして彼女を見つめた。

なにしろ相手は霊威と信者の数と言う点では全知全能、世界最強レベルである。いかに地の利があるとはいえ下町のおばちゃんを支持基盤にしているお不動さんに分があるかどうかとなるとかなり難しいだろう。

だが、千手院はそれに決してくじけなかった。彼は歯軋りをしたまま立ち上がると周囲を見回し、ネクタイを解き、腕まくりをする。そして彼は法具を取り出すとリング上に居る明石さんに半ばヤケで叫んでいた。

「……やったろうやないかい!」

 ――かくて、神々の戦いを告げるゴングが高らかに鳴り響いた。


 イエス・キリスト 対 不動明王 スペシャルマッチ

(無制限一本勝負)


○イエス・キリスト 

24分13秒 決まり手 セイントクロスホールド

×不動明王



「かんぱーい!」

 その日の深夜、俺とスサノオ様、そして三柱の稲荷明神は暗闇の遊園地の中、ささやかな祝杯を挙げていた。

 結局死闘の末、お不動様はキリスト様に3カウントを取られ、千手院はお約束の捨て台詞を残して帰って行った。

 計算通り、さすがに霊威において彼にかなうものはそうは居まい。

今回は我々の作戦勝ちと言ったところだろうか。一通り勝どきを上げると厄神たちも満足したのかまた再び各々の持ち場に帰っていた。

 かくて遊園地で起る所だった災厄は未然に防がれたのである。

 その結果に俺の前に居並ぶ神々は満足げに酒を酌み交わしていた。

「それにしてもよく、キリスト様に助けを求めようなんて考えが浮かびましたね。」

「……普通思いつかない。」

 乾杯の音頭のあと、南さんと与根倉さんが、口々に今回の感想を述べた。それに俺は赤面して頭をかいた。

「いやぁ、いつも皆さんが他の神様とは共存共栄がモットーだって言っているもんですから、もしかしたら、と思いましてね。パソコンでデータをまとめていたのも役に立ちました。アレがなかったこんなこと思いついていたかどうか……。」

 知識の無い一介の人間が、こんなことを思いつくには、やはりそれなりの知識が必要なのだろうが、今回はそれをまとめる仕事をしていたのが役に立った。まさにその点ではパソコン様々である。

 だが、今回の功労者はもう一人、いや、もう一柱居る事を俺は忘れては居なかった。俺は謙遜ではなく、正直な気持ちで明石さんを褒め称えた。

「……でも、それで言ったら、説得してくれた明石さんもすごいですよ。良く一神教の神様を連れてこれましたね。」

「まぁ、これでも明治以来すっと付き合ってる相手やし、うちら別によその神さんのやり方には常日頃から口を出しとらんからね。第一、あの生臭坊主をぎゃふんと言わせるためやったら、何でもやったるがな。」

 そう言うと明石さんは悪戯っぽく笑う。

いささか私情が混ざっているのは神としてどうかと思ったりするのだが、彼らはこうやって他の宗教の神々と共存し、この国を守ってきたのだろう。この辺り、異教徒は敵とする他所の神様とは大きく違うような気がする。やはりそれは彼らが元は人や自然から生まれた神であることが、原因なのだろうか?

 俺はそんな事を考えながら人間らしい感情をむき出しにして酒を酌み交わす彼らの姿を感慨深げに眺めた。

「いや、今回はホンマ助かったわ、榊君、この通りや。」

そして、もっとも人間くさい神様――正面のスサノオ様がそう言って俺に深々と頭を下げた。

……疫病神に感謝されると言うのもなんだか奇妙なものである。

それに俺は思わず恐縮して礼を返した。

「いやいや、僕は人間として、災厄が起るのを防ぎたい一心でやったことですから……。結局スサノオ様は、まだ穢れたままですし、根本的な問題を先送りにしただけですからね。これでよかったのかどうか……。」

 俺はそう言うとコップのお酒に目を落とした。

 そう、結局今回は人が穢れ、神の怒りが降り注ぐのを遠まわしにしたに過ぎない。こうしている間に人々の穢れはスサノオ様を汚していき、いずれはそれが人に降り注ぐのだろう。そう考えると、今回自分がしたことと言うのは、問題の先送りをしただけのように思えてならない。こう考えると確かに、定期的に自然災害に遭い、神の怒りを知ることも確かに必要なのかもしれない。

 だが、それをスサノオ様は豪快に笑い飛ばした。彼は俺の背をバーンと叩くと、黒く汚れた笑顔を俺に向ける。

「なに、そんなことはお前さんがこうやってたまにワシと酒を酌み交わしてくれたら済むことやがな。現に、さっきも試合を見てあのクソ坊主が帰っていくところ見たら胸がすぅっとした。これでも、ちょっとずつ人の穢れを祓うのに、お前さんは貢献しとるんやで?」

「……そうなんですか?」

「あれも一種のお神楽みたいなもんやな。集まってくれた厄神さんたちも憂さを晴らして帰って行ったがな。これで少しは、この辺の穢れも清められたやろう。……まぁ、かなり汗臭かったけどな。」

 スサノオ様の言葉に居並ぶ神々は一斉に笑った。

 なるほど、ようは人と付き合うように、神と付き合えばいいのだろう。たとえ疫病神だろうが福の神だろうが、存在を忘れず、敬い、時に憂さを晴らしてやる。それで来るべき災厄がすこしでも防げれば、確かに安いものである。

「それにしても、「ぱそこん」ちゅうのは随分便利なもんなんやなぁ……榊君、もしよかったらまた今度使い方教えてな。」 

「いいですよ。この遊園地にも端末はありますし、是非。」

 ――定期的に疫病神様と酒を酌み交わすのも悪いことじゃないな。

 俺はそんな事を思いながら、実に人間臭い神々と語り合い、酒を酌み交わした。

 そしていい具合に酔いが回った頃、そんな俺の姿に三柱の稲荷明神が互いに笑顔で頷く。

「ほな、これにて一件落着っちゅうことで。」

「そうですね、手打ちと行きましょうか。」

「……賛成。」

 そして俺たちは酒を飲み干してコップを床に置き、両の手を広げた。それに明石さんが高らかに声を上げる。

「打ちましょ!」

 ぱん!ぱん!

「も一つせぇ!」

 ぱん!ぱん!

「祝うて三度!」

 ぱぱぱん!

「おつかれさんでした!」

 そして、真夜中のある意味奇妙な宴は終わりを告げた。

疫病神と呼ばれる神でも、こうやって親交を深めていけば、きっと幸せが訪れる。

何せ厄をもたらす本人が守ってくれるのだ。こんな心強いことはない。

またここに来よう。

俺は決意も新たに閑散とした遊園地を眺め、そして空になった酒瓶を抱えて、スサノオ様の住処を後にした。



 ……そのすぐあと、閉園した後の遊園地から出てくるところを警官に発見され、一夜を交番で過ごす羽目になったのだが。それはまた霊的には別の話である。

 ……多分。


そちらの神もあちらの神も

みんな仲間で同胞と

街の平和を守るため、キリスト様でも連れてくる

長い目で見て現状維持と

お不動しぶしぶ頷いて

ひとまず一件落着?したけれど

この世にトラブルの種は尽きまじ

さて次なるお仕事は?

そちらは、来月のお楽しみ。

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