疫病神はおもてなしがお好き その10
――なんでこんな事になったんだろう――。
数時間後、事務所に帰った俺は、放心状態で天井を見上げていた。
結局あの後、俺たちは一人で盛り上がるスサノオ様を止める事が出来ず。俺は青い顔で帰って来た。事情を聞いた事務所の一同も、重いため息をつくばかりで解決策を出すことは出来ないようだった。
「……で、疫病神さんは?」
「仲間を集めるって、出て行きました。それはもう張り切って……。南さんが止めに行きましたけど、それで止まるような勢いじゃなかったですね……。」
「この辺は似たような境遇の厄神が仰山おるからなぁ……。この調子やと明日あたり、疫病神の大集会が始まるで。」
明石さんはそう言うとため息をつく。俺はそんなに彼女に恐る恐る尋ねた。
「あの、この辺一体が灰とか言っていましたけど。喩えじゃなく、本当にそんな事になっちゃうんですか?」
「……可能性は、大。」
与根倉さんがぼそりとそれに答えると、明石さんがさらに重いため息をつく。どうやら彼の言葉に比喩表現は全く無かったらしい。向かいの明石さんが机に頬杖をついてそれを補足した。
「以前、芝居小屋に立てこもる厄神と、そこにおったお不動さんがケンカした事があったけど。あんときは余波で裏手の飲み屋街まで燃えたからなぁ……今回は規模が大きいから、どうなることか……。」
「……で、そこまでして勝ち目は?」
「まぁ、穢れた力をどんだけ集めたって、燃費の悪い公害エンジンを動かすみたいなもんや。周辺の被害は増しても勝てるかどうかになると……。」
「……まず、勝てない。出るのは周りの被害だけ。」
「……最低ですね。」
「唯一の救いは、それで穢れた力が浄化されるっちゅうことかな?まぁ、あの辺を更地にするくらい暴れれば、疫病神さんもすっきりするやろ。」
「更地ってそんな……。」
俺は明石さんの言葉にますます顔を青くした。それは即ち、あの遊園地が崩壊するクラスの災厄が発生する事を意味している。そんな事態になれば、余波で確実に人死にが出るだろう。下手をすればあの辺り一帯が壊滅なんて事態もありうる。
「まぁ、気にせんでええよ、榊君。人間なんてどんなふうに生きとったって業を重ね、穢れていくもんなんやから、こんなもん早いか遅いかだけの差や。」
「……一種の自然現象。」
明石さんの言葉に、隣の席で同じく相槌をうつ与根倉さん。だがその業深い人間の一員として、そして、最後の引き金を引いた人間として、俺はそれに全く心を救われた気にならなかった。
どうも、行き着くとろまで行くと神も人間に対しては冷ややかな対応になるようだ。
そして、そんな俺の前でパソ神様が優しく頷き、手を差し伸べる。
「悔い改めなさい。審判の日は近い。」
……俺は、その言葉に頭を机に叩きつけた。
「……とはいえ、このままやったら不愉快なことこの上ないなぁ。役所ももっと徳の高い坊主雇えばええのに、あんなクソ坊主連れてきおって……あんなもんで丸く収まるはずが無いやろに。」
「……一旦浄化しても、人間自体が変わらない以上、また似たような事のくりかえし。」
「何とかならないんですか?」
そういいながら向かいの席で、不愉快そうに頬を膨らます二柱の稲荷明神。
俺はそれにいよいよ泣きそうな顔で助けを求めたが、彼女たちは思案顔で顔を見合わせ、ため息をつきながら手にした団子を貪るばかりだった。
さすがに福の神にそういう顔をされると、いよいよ持って事態は深刻だ。俺はそれに、言葉にならないうめき声を上げた。
結局はやはり人間の穢れが人間に降りかかってくるのだろう。自業自得と言うのは解かってはいるものの、やはり来るべき災厄を知っていながら見過ごすことなど出来なかった。
が、やはり明石さんはそれに渋い顔をして唸る。彼女も何とかしたいのだろうが、どうやらそれはなかなか難しい課題であるようだった。
「まぁ、一応今日やったようなお祭りをもっと大規模にやって、疫病神さんを祀ってあげれば、憂さを晴らして穢れも払えて一件落着やけど。そんなの今日明日にやるなんて無理やろ?そうなるとあとはお祭りをやるまで他の神さんに間に立ってもらって、お不動さんを止めてもらうしかないけど、なんせ相手は曲がりなりにも仏法の守護者やからなぁ……そこまでの霊威を持って間をとりなしてくれる物好きな神様となると……。」
そして、事務所は重いため息に包まれた。確かに他宗派の神ともなると、間をとりなすのは色々とハードルが高いのだろう。しかも、向こうは仏法の守護者として退魔業を専門にしている神だ、力で押さえつけるとなるとそれなりに力の神様でなければならない。
そんな神様、果たしてどこにいると言うのか?
天下の稲荷明神でも心当たりがないとなると人間の俺に出来ることなど……。
……まてよ。
俺はふと、ある事を思い出し。眼前のパソコンを起動した。
そういえば、ここら一帯の神様の配置図はここにほぼ網羅されている。
確か、その条件に見合う神様が遊園地の近くにいたのを、先日入力したような……。
――。
「……ここだ!」
そして俺はデータベースの中からその神様の名前を見つけ、声を上げていた。そして向かいの席できょとん、と様子を見ていた明石さんに必死にパソコンの画面を指差し、手招きする。
「ここにいらっしゃる神様ならどうでしょう?多分この神様なら条件には合致すると思うのですが……。」
俺が向かいの席からやってきた明石さんに興奮して画面を見せると、最初は何気なく見ていた彼女さんの目がらんらんと輝きだした。そして彼女はにやりと笑うと、大きく頷く。
「……確かに、この神さんやったら仲裁に入ってくれるやろ。わかった!ウチがこの神さんを説得したるさかい。榊君はそれまでの間疫病神さんを抑えとって!」
「はい!」
「……見とれよあのクソ坊主。明日にはぎゃふんといわしたるさかいな……。」
明石さんはそう言うと、ニタニタ笑いながら、事務所を後にした。
……若干個人的な感情が混ざっている気がしたが、人間が救えるならそれで良いだろう。
俺はひとまずそう考える事にした。
コツコツ作った地図の上に
ヒントが書いてあったみたい。
さて閃いた榊君。
一体どなたの力を借りるのか?
知恵か力か何を使うか
続きは明日のお楽しみ




