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ごっどぶれすゆー  作者: 宮城 英詞
疫病神はおもてなしがお好き

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疫病神はおもてなしがお好き その5

 数分後、どうにか明石さんをなだめ、俺たちは同階にあるという霊症の原因になっているという神様の元に移動していた。

 移動、と言ってもやることの大半は我ら人間が通れるように放置された備品の撤去と、板切れやフェンスを撤去し、閉鎖された扉を開放する作業に追われ。俺たちは空調の聞いていない廃墟の中で少なからず汗をかくこととなった。

 そんな作業を手伝いながら、ここにいたる事情を明石さんはぽつぽつと話し始める。

 それは確かに、聞くも涙、語るも涙の話であった。

「何年か前にこの奥にプロ野球団の神社を人間が作ってね、結構立派なお社やったからその辺りにいた神様に守り神として入っていてもらってたんやけど。ご覧の通り、この遊園地の経営が予想以上に悪化してね。参拝客は来うへんわ、お賽銭は集まらんわ、ついにはこの区画が丸ごと閉鎖されてまうわで。ここの神様がエライ怒ってはるんよ。」

「……で、霊障ですか。」

「ウチには苦情と言う形で来てたんやけど、あんな神さんが居座ってる上に穢れが吹き溜まりつづけるから、うちらも解決策が無くて困っとったんよ。この調子やとここが再び栄えるかどうか、わかったもんやないしなぁ……。」

 言いつつため息をつく明石さんに、俺はその神様とやらに心底同情した。確かに人間の都合で祀られた挙句、現在は社が廃墟の瓦礫の一部とあっては確かにやり切れまい。

 それにしても、神々をも困らせる疫病神とは、また相当なものである。

俺は向こうのフロアで気持ち良さそうに眠っている薄汚い神様に目をやると、小さな声で明石さんに尋ねた。

「……あの、やっぱりあの神様、本物の疫病神さんなんですか?」

「……そう、いうなればこの廃墟の生みの親やね。あの神をなんとかせんと、ここは廃墟のままなんよ。」

「せやから、わしら仏法の力で追い出したるって言うてるやないか。あんな薄汚い疫病神人柱に何を手こずっとるやら……。」

 だが、千手院は明石さんの言葉に露骨に食って掛かった。

 まぁ、確かにそれで済むんなら安いもんじゃないの?

 と、俺も思ったのだが、それが明石さんは気に食わないらしい、彼女は再び不機嫌そうな顔で声を上げる。

「せやから、それやったら同じことやって言うてるやろ!追い出された疫病神さんはそのままに破壊力を持って他所に移っていくんや。あんたらこないだ警察署燃やされたのにまだ懲りてへんのかいな!」

「……そんな事が……。」

 恐るべし疫病神。

どうやらその矛先は、民間だろうかお役所だろうが、容赦と言うものを知らないらしい。その場その場で役を払っても結局はめぐりめぐって誰かに災厄をもたらす。

俺は無邪気に眠りこけていた一柱の神の恐ろしさに心底恐怖した。

「そもそも疫病神いうんは、やって来たら篤くもてなしてあげるものなんや。それを最近の人間は勝ち組や、負け組みや、とかいうて疫病神の名前聞くたびにぽんぽんぽんぽん追い出すから、こうやって吹き溜まりみたいな場所が出来上がるんやないの。ホンマにもぅ、必死に調整してるこっちの身にもなって欲しいわ。」

「こっちも仕事やさかいな、いちいちこんな薄汚い神さんの相手なんかしとれるか!そっちがその気なら、強力な結界を張ったればええねん。疫病神に行き場なんか誰がやるか。」

 ……どうやら僧の端くれらしいが、この口の悪さはどうにかならんものだろうか?

 俺は彼の言葉にいきり立つ明石さんを必死に押さえつけながら、そんな事を思っていた。

ここ数ヶ月の仕事で分かってきた事だが、八百万の神々は死の穢れと、神に対する不敬な態度を特に嫌う。まさに彼のやっていることは明石さんの神経を逆なでしているのである。まったく、彼に霊能力が無ければ、恐ろしい祟りが降りかかるところなのだが……。



 そんな話をしているうちに俺たちはどうにかその御社……だったものの前にたどり着いた。

過去は守護する球団の色に彩られたきらびやかな御社だったのだろうが、いまや主だった部分は取り払われ、全てが瓦礫の一部と化していた。暗闇の中かすかに見える部品部品の装飾から、どうやらそれが神社の形をしていたらしい事がかすかに判別できた。

 そしてその瓦礫の前に、その神様はいた。

俗に言ううんこ座り状態でこちらをにらむその神様は、一応人型をなし、球団のはっぴを着てはるものの、頭部は見事なトラの姿で全身毛だらけ、怒りのために歯を剥いて、こちらに見事な牙を見せていた。

「……オィコラ。遅いやないか。」

 よく球場などで応援に使うメガホンを肩でぺちぺちとやりながら、そのトラ神様はこちらに苦言を呈した。それに明石さんは引きつった笑いと共に挨拶をする。

「あはは……人間にも話聞いてもらおうと思ったらちょっと道を空けんといかんようになってしもうてね。急いでたんやけど……いや、ホンマすいません。」

 にこやかに、あくまでにこやかに。

俺は明石さんに従い、必死に相手に笑顔を見せた。だが、トラ神様は表情を和らげるどころかますます怒りの表情を顕わにする。

「……その着にくい場所に、わしを追いやったんはどこのどいつじゃ!ボケ!」

 いや、ごもっともです。

 非の打ち所の無いトラ神様の怒声に俺と明石さんはただひたすら平伏した。確かにこの惨状はひどすぎる。俺の責任ではないが、自分の社がこんな事になって怒らない方がどうかしている。

「……俺はな、球団の神社が出来る、ここでみんなが優勝を願うって聞いたから、喜んでここに来たんや。それがなんや?遊園地が廃れ、参拝客はこん、賽銭は集まらん、球団は日本シリーズに出られん!選手は大リーグに行くと散々やないか!」

「いや、あの、後半は私どものせいじゃ……。」

「じゃかしいわい!」

 ついでにおかしな愚痴をこぼすトラ神さまにちらりと言葉を返すと、彼はメガホンを地面に叩きつけ怒鳴り返してきた。

 もはや理屈が通るような状況ではないらしい。

怒り心頭の彼に俺たちはただひたすら平伏し、頭を下げる。それでもトラ神様は怒りが治まらないらしく俺たちを獣のような目で睨み付けた。

「こないだ起こした霊障はほんの小手調べじゃ。このままこの神社が再興されんのやったら、今年も球団を優勝させて川に二、三人沈めたんぞ!コラ!」

 ……どういう祟り方だ。

 どうやら優勝を目指すというアウトラインは外せないらしい。

俺は彼の脅し文句に明石さんと顔を見合わせ頭を抱えた。

「……アカン、やっぱり怒ってるみたいや。」

「他にどう見えるんです?」

 俺は明石さんと、互いに困り果てた顔で額を付き合わせた。

もっとも穏便な手段はどこか他所の御社に移ってもらうなりしてもらうことなのだろうが。彼をなだめた上に移ってもらえそうな場所というとなかなか難しい。

さすがにここで暴れられて愉快なわけはなく、俺もここ数ヶ月の薄い知識の中で必死に打開策を探る。

「……四天王寺の近くに球団に縁のある神社がありませんでした?あそこは?」

「一応あそこは隣の鎮守さんやからなぁ、塚とかで納得してくれればええけど……。」

「やっぱり難しいですか?」

「一戸建ての家に住んでたところを都合で文化住宅に押し込められて愉快なわけないやん。最近そういうの多いけど、あの状況でそれを切り出すのは辛いわぁ。」

 なかなかの難題。

俺たちは妥協点を探り協議に入る。

いつもはこの方法でなんとか話し合いし続けるところなのだがしかし、今日はそんなことなどどこ吹く風の男がいた。

……そう、その男こそ、背後で話を聞いていた千手院、その人である。

「よし、いいたい事はそれだけか?ほんならここから追い出したるさかい覚悟しいや。」

 言いつつ、懐から法具を取り出す千手院。

そんな彼に俺は顔を青くして慌てて制止した。

「……ちょっと!なにするんですか!」

「やかましい!人を祟り殺すなんていうとる悪霊を黙って見過ごせるか!仏法の力で調伏したるのが世のため人のためじゃ!」

 すごい自信だ。

 俺はこういう考え方もあるのかと半ば感心して彼を見た。

 たちの悪い神様はよく人の弱い心に付け込んでややこしいトラブルを起こすものだが、彼の場合付け入る隙は全くといって良いほどない。友達になりたいかどうかと言う話は、まぁ別にして、霊的に手ごわい相手には違いなかった。

 だが、それにトラ神様は一向にひるむどころか、かえって怒りをあらわにして、牙をむいた。彼はメガホンを放り投げるとどこからとも無くバットを拾い上げ、腕まくりする。

「ほほぅ?人間風情が神相手にいい度胸やんけ。オドレ!吐いたつば飲むなよ!」

「今のうちに吼えとけ、この悪霊。このワシのありがたいお経でここからたたき出したるわ!」

「……あの、あいつ勝手についてきただけやからね。うちら無関係やからね。」

 そして、二人がにらみ合う中、明石さんは保身を図る事を忘れてはいなかった。

……確かに、同じ仲間と思われたらたまったものではない。

だが、千手院はそんな彼女と、それに従い、安全圏に退避しようとする俺の姿を鼻で笑ってみせた。

「まぁ、見といたら良いわクソ狐。あそこのへっぽこ疫病神の準備運動代わりにこの悪霊を退治して……。」

 ……ズゥン!

 ……?

 突如、千手院の言葉をさえぎるように、建物全体に奇怪な振動が走った。

その音に俺ばかりでなくその場に居た全員が顔を見合わせる。

 地震か?

 いや、それにしては奇妙だった。

音と振動は一定のリズムを刻みながら、徐々に大きくなっていく。まるで太鼓か巨大な生物か何かの足音のようなそのリズムに、明石さんとトラ神さまの顔色がだんだん青くなっていく……?

「榊君!伏せて!」

 俺がもしや、と思ったのとほぼ同時に、明石さんの警告が飛んだ。

間一髪、俺が身を屈めると同時に建物に爆音が轟く。

 それは床に積み上げられた椅子が吹き飛び、周辺のガラスが一斉に割れる音だった。

間一髪で俺の頭上を破片や椅子が通り過ぎ、反応の遅れた千手院は、椅子の直撃を食らい、俺のすぐ横でひっくり返る。

それは、すこしでも場所がずれていたら間違いなく重傷を負っていたであろうと言うほどの強力な爆風であった。


疫病神のそのせいで

トラの神様怒ってる。

坊さんお祓いするとは言うが

どうやらそれどころじゃないみたい?

大暴風の風上に

今度は何が出てくるか?

続きは明日のお楽しみ。

どうぞ昼までお待ちあれ

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