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ごっどぶれすゆー  作者: 宮城 英詞
疫病神はおもてなしがお好き

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疫病神はおもてなしがお好き その3

薄暗い廊下の中、彼女は何かに引かれるように閉鎖された元レストランらしき部屋の中に入っていく。

それに俺は取り残される訳にもいかず、恐る恐る後に続いた。

「よく知ってる神様なんですか?」

「……うん、まぁね……人間にも一人はおるやろ?厄介な親戚ちゅう奴が。ここにおるのもそんな感じの神でね。まぁ根は悪い神や無いねんけど……あ、おった。」

 彼女はそう言うと突如立ち止まり、部屋の片隅を指差した。

 明かりがその指先を照らし、無数の異形の神々がかさかさと逃げていく。

そして、その先に見えた光景に、俺はわが目を疑った。

「……この方が、神様?」

 それは、どこからどう見ても良くこの界隈で見かけるホームレスのおっさんだった。ぼろぼろの服を身にまとった男が酒瓶を抱えたまま床に転がって寝ている。髭や髪は伸び放題で、さながらライオンのたてがみのようであった。

彼の呼吸と連動していることから、周囲に鳴り響いていた音が彼のいびきであった事が理解できる。

確かにそのいびきたるや尋常なものではなかったが、あらかじめ注釈を入れてもらってもそんな男が本当に神なのか、いまひとつ信じる事が出来なかった。

「そうやねん……高天原たかまがはらを追い出されても凝りもせんと毎度毎度ホンマに……ホラ、起きて!……もう、昼間っから何してんねんな!」

 呆気に取られる俺を尻目に、ぐうたら親父をたたき起こすような口調で彼を揺り起こそうとする明石さん。彼女が二、三度彼をゆすると、地鳴りのようないびきがぴたりと止み、

やがて彼は大きくあくびをして眠そうに目を開けた。

「ん?おお……。おはよう。」

「おはようやないでもぅ……。こんなところでゴロゴロしとったらどんどん穢れていくで。ほら、起きて!」

 ……やはりどこからどう見ても、ただのぐうたらなおっさんである。

 俺は明石さんに酒瓶を取り上げられ、しぶしぶ半身を起こすその薄汚れた神様の姿に首をかしげた。

 確かにいびきといい「存在感」といい何らかの霊的な存在である事は、さすがの俺にも分かったが、明石さんや社長のようなある種神々しさというか、頼りがいのような気配はまるでない。第一、えべっさんにしろ、明石さんにしろ福の神はえてして穢れを嫌い、結構綺麗好きだったりするのだが、彼にはそういうものを嫌う傾向はまるで無いようだった。

 強いて言えばその「気配」は、その辺りにいた異形の小さな神々に似ているような……。

 ……。

 そして気が付いたら、俺はその薄汚いおっさんの神様としっかりと見詰め合っていた。

彼はぼりぼりと体をかきむしりながら、寝ぼけ眼でこちらをまじまじと俺を見つめてる。

「……誰やコイツ。」

 多分、むこうも同じようにこちらを観察していたのだろう。獣のような目で俺の方を睨み付け、ぼそりと男は呟いた。

俺はその視線に、心臓が硬直するような感覚が体中に走り抜けるのを感じた。

 不味い。

 理由は無かったが、俺は直感でそう感じた。

 どうも、電気街辺りにいる福の神たちとは、気質がまるで違うようだ。部屋の片隅でごそごそしている小さな異形の神とも違う。それは明らかに、危険な何かが人型を為しているような存在だった。

 下手な事を言えば何が起こるか予測もつかない。

 そんな感覚に俺は何も答えられず、言葉を詰まらせた、それに横で見ていた明石さんが大慌てで口を挟む。

「ああ、彼?榊君っていう人間でね。蘇民将来の子孫なんよ。」

 にこやかに、ことさらにこやかに、彼女はそう言うと俺の肩をぽんぽんと叩いた。

男はどういうわけかそれに納得し、急に表情を変え先ほどとは全く違う笑顔で頷いた。

「おお、そうかそうか……ワシらが見えるとはこれは大したもんやなぁ。まぁ狭くて汚い場所やけど、ゆっくりしてって。」

そう言うと、男は汚い顔で屈託無く笑い場所を作ろうとしているのか乱暴に周辺にあるものを押しのけ始める。その豪快な姿に呆気にとられながら、俺は彼女に小さな声で礼を述べた。

「助かりました。……なんなんスか?蘇民将来って。」

「昔世話になった人間の名前。ああ言うといたらとりあえず機嫌がええから、話あわせといて。」

……どうも彼女たち神にとっても相当の難物らしいことは同じく小声で答えを返す彼女の態度でなんとなく理解が出来た。

俺はその言葉に、気付かれぬよう小刻みに頷くと緊張した面持ちでもう一度彼のほうに目を……。

――。

……いない。

気が付くと、その神様は俺と明石さんの視界から忽然と姿を消していた。

慌てて俺たちが周囲を見回すが、その姿はどこにも見当たらない。

そして、俺たちが顔を合わせると同時に、再び地響きのようないびきが周囲に響き渡った。

それに明石さんは情けない顔でがっくりと首をうなだれる。

俺が明石さんの指示で山積みになった椅子の山を覗き込むと、そこには、椅子の山にもたれかかったま、酒臭い寝息をはく男の安らかな寝顔があった。

「……ホンマに世話の焼ける……ちょっと榊君、手伝って。」

「……はぁ。」

俺たちは二人してため息をつくと、不自然な姿勢で眠りこける彼を抱えて立ち上がらせようとした。だが、よほど酒が回っているのか、彼はそれに全く目覚める気配すらなく、酒臭い寝息を吐き続けている。

一体この神さまは何の神様なんだろう?

おれはのん気な神様に首をすくめると、眠りこける彼をどうにか平らな場所に移動させようと、明石さんと二人で彼を抱え彼の体をその場から移動させた。

――そしてその瞬間、俺の腕に奇怪な感触が走る。

「……。」

 それは、力いっぱい否定したかったが、記憶のある感触だった。

 田舎の山奥で出会った生き物、それが、腕を這い回る感覚……。

 そして、俺が恐る恐る腕を見ると、予測通り……いや、予想をはるかに超えた光景が俺の目に飛び込んできた。

 それは俺の腕を這い回る一匹のムカデ。そして抱える男神のぼさぼさの髪から這い出す出す無数の蜘蛛やムカデ……!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 さすがにたまらず。俺は叫び声を挙げながら、彼と自分の体に次々と乗り移ってくる虫を振り払っていた。

 この場合、虫が嫌いとか嫌いじゃないとか、そういうレベルではない。

いや、むしろ虫が嫌いな人間なら、気を失ってしまうような状況である。俺はしばし、我を忘れて、なおもこちらに向かってくる虫を必死で振り払い続けていた。

「アンタ人間やろ?そいつに触らん方がええで。」

 ――そして、そんな俺に語りかける声がする。

俺がそれに振り向くと、そこには背広姿の男が立っていた。


廃墟にいたのはぐうたら神と

はいずる穢れた蟲の神

加えて誰かがやってきた。

一体こいつは誰なのか?

続きは明日のお楽しみ。

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