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ごっどぶれすゆー  作者: 宮城 英詞
疫病神はおもてなしがお好き

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 疫病神はおもてなしがお好き その1

 人間とは神の失敗作に過ぎないのか、それとも神こそ人間の失敗作にすぎぬのか

                                      ――ニーチェ



 初夏、降りしきる雨。

 傘を差して歩く早朝の道で、俺は道の片隅で泣く少女に会った。

 着物を着た、おかっぱの少女――。

 この古風な姿の少女はなぜ泣いているのか?

 言葉で語らずとも俺にはわかった。

 俺は少女の手を引き、行くべき所へ行く。

 そう、彼女の居場所を探すために……。



「社長。また座敷わらし様が行き場に困っていますよ。」

 そして、今日も今日とて、「弘田土地管理」の事務所に俺の声が響く。

 あれから3ヶ月、ぼちぼちスーツで歩き回るのも暑くなってきた頃、俺はどうにかこうにかこの弘田土地管理事務所になじんできていた。

 神や妖怪、幽霊と話すのはいつのまにやら日常茶飯事、こうやって家を飛び出してきた座敷わらし様の引越し先を紹介するのももう2回目である。

 当然、一緒に働いている神々もこの手の仕事はお手の物だ。

 土地神である社長は俺の連れてきた座敷わらし様の姿を見るなり、

「……やれやれ、またかいな。人間ちゅうのんは、なんでこう裕福になると、素行が変わってしまうんやろなぁ。」

とぼやきつつ。机の上の小さな宮司――パソ神様に目線を送る。すると、その先ではパソ神さまがそうですねぇ、頷き、座敷わらし様の気に入りそうな、素行の良い「物件」をパソコンで検索する……といった具合だった。

 魔法の箱としてこの事務所に導入されたパソコンだったが、今ではパソ神さまも含め、資料の管理になくてはならない存在となりつつあった。

 事務所の神々も一通りパソコンの使い方を覚えた現在、俺の主な仕事はもっぱらこの辺りに住まう神々の情報をデータベース化する作業となっている。俺は日々それらを調べ、パソコンに打ち込み、プリントアウトしてバインダーする。

基本的にはパソコンの中だけでもどうにかなるのだろうが、お客さんに見せる場合こちらのような方が便利であるのと、バックアップを取るという関係上、こっちの方がいいだろう、と言うのが社長の判断だった。

いかにテクノロジーが進もうと一つの記憶媒体にかかりきりになるのは危険だという点でそこは正しい判断だと思う。書面も、以前は筆字で書かれた、時代劇を思わせるような代物だったが、現在はきっちりした。見やすいファイルとしてまとめられていた。

通常の不動産で行けば物件地図というところになるのだが、さしずめこれは心霊物件地図といったところか。

今現在、事務所パソコンにはこの周辺地縛霊の所在地や神様の守備範囲が何軒も入力されている。

――その筋のマニアが見たら腰を抜かすだろうな。

俺は毎度プリントアウトした内容を見ながら毎度そんな事を思う。このマップを見ればこの辺りで起きる霊的な現象は大抵理解、予測できるはずである。

 ……まぁ、当然、こんな書類をマニア程度の人間に見せたところで、信じてもらえるかどうかは怪しいものなのだが……。

 そんなわけで、今日は雨がひどいこともあり、俺は朝からそんな書類の整理と更新作業に専念していた。仕事上、雨が降ると元気になるお客さんも居るのだが、それは本日、上司である他の神々にお任せである。

そして、晴れ間が見え始めた昼頃に、俺はその日整理していた区域に広大な記録の空白地帯が存在する事を発見した。

俺はそれをニ、三度見直し、間違いないことを確認すると、「またか」と言った顔で机の上のパソ神様にお伺いを立てる。

「……パソ神さま、ここの区域って入力しましたっけ?」

 当然、俺の場合、検索機能を使って調べることも出来るのだが、こうやって口頭で確認した方が早いことも間々ある。

付き合ってみればパソコンの九十九神というのもなかなか便利なもので、最近我々……特に機械の操作を覚えられない、社長を筆頭とする一部の神々にとっては「パソコンとは語り合う代物である」という奇怪な常識がまかり通る有様であった。

 だが、そのパソ神様の検索能力と記憶力をもってしても、この区域の守り神は「該当なし」であるらしい、彼は小さい体でパソコンをいじくりながら、

「……いや?ここはずっと前から未入力のままですね。」

 と、首をかしげた。

 実のところこの手の話は珍しいことではない。

なにしろ神々の縄張りと言うのはじつになぁなぁで決まっていることが多い上、我々の確認していない神々が勝手に働いていたり発生したりするので、そもそも境界線自体があやふやなのである。

ビルの一階と二階に屋敷神が別々にいらっしゃったり、守備範囲が被ったりしているなどは当たり前。無駄に大量の神様やら地縛霊が吹きだまっていたり、逆に全く霊的には空白地帯になってしまっているケースもある。そもそも、ちゃんとした家であれば普通に神様と仏様が家を守護しているのだからややこしいことこの上ない。

 結局、下手に線引きしたりどっちが上だとかいう話を持ち込むと縄張り争いが置きかねないと言う事で、この物件地図にはそれらの情報がごちゃ混ぜに書き込まれている。

このため、パソコンで資料を整理したにもかかわらず、この書類は八百万の神々のアバウトさをそのまま紙に起こしたような代物になっていた。

「明石さん、ここって、神様は誰もおられないんですか?」

 いつもの事なのでいつものように向かいの席の明石さんに地図と書類を渡して尋ねる俺。大抵この手の話はこれでカタがつくのだが……。

が、しかし、この件はここからがいつもとは違っていた。

地図の住所を確認すると、どういうわけか明石さんは地図を見ながら眉をしかめ、

「……あ~ここかぁ……ここはちょっとなぁ……。」

と、言葉を濁した。

 いつもさばさばと答える彼女がなんと言おうかと顔をしかめる姿に、さすがに俺は首をかしげる。そんな俺の前で明石さんは鉛筆を咥えたまま難しい顔をして天井を仰いだ。

「……なにかあるんですか?」

「……なんというか、ここは今ややこしい事になってるんよ。今一体どうなってるか……。」

「なにか不味いことでも?」

「うん、ちょっと苦情が一件ね。一応責任者みたいなんはおることはおるけど……。」

 そこまで言うと、彼女はやれやれとため息をついて立ち上がる。そして珍しく浮かない顔をしながら、机にかけてあったはっぴを羽織りだした。

「……まぁ、どの道、直接行って確かめなしゃぁないな。ややこしい話になりそうやから一緒に行こか。」

「はぁ……。」

 かくて明石さんと現場に向かう事になった俺。

大抵こういう場合はろくな事がない。

ここ数ヶ月の経験からそういう事実を悟った俺は、腹をくくって明石さんにと共に現場へ向かう事にした。



作った地図のその隙間。

見つけた謎のその区域

そこには一体何がある?

続きは明日のお楽しみ

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