表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
或る冷めた女の一生  作者: 重原水鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/23

【20】膝枕Ⅱ

 月日は過ぎる。


 ビルは貴族学院を卒業し、流石に年を取ったと言いつつ、まだまだやれそうなアダルブレヒトの部下となった。知らぬうちに他言語を三つ習得しており、母国語、ジュラエル王国語含めて五か国語を喋れるようになっており、エラは心底驚いた。


 アダルブレヒトの仕事に付き添うので、屋敷はエラ一人になる事が増えた。


 エラも、もう四十近く。


 恐らく一生、アダルブレヒトやビルに添ってこの屋敷で暮らすのだろう。


 結局、ノートブルクと再会する事はないまま今に至っている。アダルブレヒトが「娘を外に出すなど……」と拒否したからだ。度々誘いはあるらしいが、四十近い娘に対する態度が、十代前半の娘に対するソレである。


 まあ、実際に共に過ごした時間で考えると、丁度それぐらいなのだろうが。


 今では、この屋敷に来るのは、アヒムが殆どだ。


 それにしても最近は何やら大変な仕事を任されるとかで、彼は疲れ切って屋敷に来る。

 だからつい、性的な意味合いはなくとも、同情して彼の手を引いた。


 カウチにエラが座り、疲れた様子のアヒムの頭を、膝の上に乗せた。


「……貴女は、随分変わった」

「存じておりますわ」

「言葉だとかではなく……」

「心持ちの変化でしょう?」


 エラ自身、驚いている。


 かつてのエラなら、きっと、アヒムがどれだけ疲れていようが、どうでも良かった。

 哀れに思って、金にもならないのに、愛想をふりまくなどしなかったはずだ。


「昔よりは、柔らかさが増していると思いますわ」

「は?」

「わたくしの膝」

「は!?」

「貴方に初めてお会いした頃は、まともな物を食べれておりませんでしたから」

「あ、ああ……そういう……いやおかしいのでは。私は貴女に膝枕などされた事がない」

「まあまあ、身を起こさずいてくださいな。少し眠れば、気も楽になりますわ」


 昔はそんな風には考えなかった。

 眠るのは一瞬の逃避にしかならない。起きれば、厳しい現実が待っている。


 眠りを、ただ、休息だと思えるようになったのは、この屋敷に来てから数年経った頃だ。


 頑固なエラに、アダルブレヒトの献身が勝ったのである。


 アヒムの目を閉じさせて、その頭を撫でて、それから、エラは、覚えている母の歌を歌った。

 母には遠く及ばない、へたくそな歌だ。けれどアダルブレヒトも、ビルも、この歌を好きだと言ってくれている。


 ――アヒムはその歌を聞きながら、そっと、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お父ちゃんの愛を感じる… 三十年忘れられなかったのなら十年くらい短いとか思ってそうだし、三十年は最低そばにいてやると決意してそう。若い時の後悔は50や60過ぎても余裕で残るもんな〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ