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【18】十年近く経ち

 この辺りから急に恋愛ぽい雰囲気になります。

 屋敷に来てから、十年近くが経過した。


「お母様っ!」

「ビル。おかえりなさい」


 馬車から降りてきたビルは、一目散にエラの所に来ると、「お土産があるのです」「話したい事もあって」と言った。


 今年で十六になるビルは、現在、貴族学院という名前の巨大な教育機関に通っている。この国の貴族なら通うのが一般的なのだとか。


 ちなみに扱いは、公爵令息だ。ビルゲーリ・ユンゲレールブルーダー=アダルブレヒト・ピンクダイヤモンド公爵令息。ビルの貴族としての名だ。ちなみにエラにもあり、エラは戸籍上エレオノーラ・ユンゲレールブルーダー=アダルブレヒト・ピンクダイヤモンド令嬢という事になる。


 なお現公爵の実子ではないが、ジュラエル王国の公爵家は特殊で、別の名前で爵位が下の分家を作れないのだという。


「ダイヤモンドは公爵までの特別な名だ」


 という説明をされた。よくわからないがエラはとりあえず「そうなのですね」と返した覚えがある。


 そういう事情から、公爵家は血のつながりがある親戚全て、公爵家という大きな家の令息や令嬢、という扱いになるのだという。

 逆に、ピンクダイヤモンドの血をひかないのであれば、養子として引き取られて実子同然に可愛がられていても、ピンクダイヤモンド公爵家の名を名乗る事は出来ないらしい。


 面倒である。

 

 難しいのでエラは雰囲気でこの国の爵位を理解している。


 そんな訳で、エラもビルもまとめて公爵家の人間だが……それだけでは「あんた誰」となってしまうため、区別の為に名前と家名の間に親の名前を入れたりしている。

 ユンゲレールブルーダー=アダルブレヒトというのがそれにあたる。

 普段の言語としての書き方や使い方とは違って、この形で名前に入っている場合は、「弟アダルブレヒト」という意味である。誰の弟かと言えば、現公爵の、である。


 察しが良い方はここで気付くだろう。


 そう。

 名前と家名の間にあるこの名前は、エラやビルの祖であるアダルブレヒトが、現公爵から見てどんな地位の人間なのかを表している名なので、この名前、公爵が代替わりすると変わる。

 ちなみに誰の名前を名乗るかは個人で好きに決めれるため、基本的に有名な人の名前を使う事が多いのだとか。ビルのように母親(エラ)よりも祖父(アダルブレヒト)が名の知れた人の場合は、親ではなく祖父の現公爵から見た立ち位置を名乗るのが、一般的らしい。


(なんて面倒!)


 当然、エラは考える事を放棄している。



 ――話は戻り。

 元は娼婦をしていた母から生まれたビルだが、幸いにも、幼いころにアダルブレヒトの元に来れたことで、その後は公爵令息として必要な教育を受けた。お陰で、今では立派な貴族令息だ。見た目も、アヒムを気持ち丸くしたらこんな感じ、という風になった。


「まずは部屋に荷物をおいてきなさい。アヒムが来ておりますよ」

「! アヒム様が!」


 パッと顔を輝かせて、ビルはそそくさと部屋に向かう。使用人たちが後に続いていった。相変わらず、アヒムに懐いているのだった。




 ◆



 アヒムがエラに急に話しかけてきた。


「今週末の公爵領の祭りに同行してください」

「何故私と」

「アダルブレヒト叔父様に頼まれました」

「いつものようにビルを連れて行ってくださいまし」

「ビルゲーリは、今屋敷に滞在している友人と行くと言っていましたが」

「……」


 そうであった。


 久方ぶりの帰省に際して、ビルは貴族学院で親しくしている友人たちを数人連れてきた。手紙で連絡は貰っていたが、誰もかれもがキラキラしていた。ピンクダイヤモンド公爵家の血を引く人間は殆どが髪または目または両方がピンクなので、それ以外の目に痛い色が並び、エラは彼らの名前もまともに記憶していない。


 ともかく、短期集中で滞在している友人と祭りに行くというのなら、いってらっしゃいと見送るだけだ。


 だけだが、それでまさか自分に同行者の役目が回ってくるとは思いもしなかった。


「ビルがいないのであれば行かなくてよいのでは?」

「仕事も兼ねています。祭りで問題がないかを見て回るのです」

「ならばお一人か護衛と行けばよろしいのでは?」

「仕事だという事をわきまえずにくる女性がいるのですよ」

「熱烈な方がいるものですね。熱意溢れる方と良い仲になれば、そういう目で見られる事も終わるのでは?」

「愛人希望者が集ってきて終わりです。今でもいるのですから」

「哀れ」

「今回は貴女を連れて回れば、何も言われません。何せ貴女は、苦難困難を乗り越えて王国に帰ってきた、アダルブレヒト叔父様の秘宝ですから」

「ごめんなさい知らないジュラエル王国語ですわ」


 意味が分からなかったのでそういうと、アヒムはエラの懐かしい祖国語で「アダルブレヒト叔父様が溺愛する、長年別々で暮らしていた娘として貴女の名前と立場は有名なので、良い盾になります」と言われた。分からないフリが出来ず、舌打ちをする。


「マナー講師に密告しますよ」

「今更ですわ。そもそも三十近くまで貧民暮らしの女が今更貴族の皮などかぶれるものですか」

「アダルブレヒト叔父様には何も言われないのですか」

「生きているだけで偉いと」

「はぁ……」


 アヒムは処置無し、とばかりに首を振った。

 しかし祭りに連れていくのは絶対に引かなかった。

 仕方ないのでエラはドレスの下がズボンになっているタイプの服でないと出掛けないと駄々をこねた。そんな服はこの屋敷にないので、服が用意できない事を理由に引きこもろうと思っていたのに、アヒムはあっさり用意してきた。


(こいつ)


 と軽く殺意が湧いた。

 「ユンゲレールブルーダー=」は、作中での説明の通り、ジュラエル王国特有の使い方になります。本来のドイツ語の使い方とは何の関係もありません。

 公爵の代替わりで変化する名前のため、公式書類(戸籍など)では書きませんが、手紙や口頭での挨拶では必ず入れて使われます。

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