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【12】新しい生活の始まり

 アダルブレヒトは自分が暮らしているという屋敷にエラとビルを連れて行った。


「小さい屋敷で申し訳ないな……」


 などと言っていたが、エラからすると「目玉腐ってんのか」という発言である。三人でこれから暮らすとしても広すぎる。

 どう考えても何十人も暮らせる。

 そんな広さの家――屋敷である。


 ビルは純粋に「おおきい! おじーさますごい!」などと喜んでいる。もっと驚け。やはり幼少期にそこそこ他所の人間から愛されていたからなのか、エラとは目の付け所が違う息子である。


(ああいや、こいつは精霊とかいうのが見えてるから、あたしとはちげーんだったわ)


 これまでは自分と同じ、底辺の世界で生まれた底辺の餓鬼だったが、今や、母親とは違って価値のある子なのだ。

 それは、アヒムとアダルブレヒトの会話の雰囲気で分かった。


 この国で重要視される精霊。

 それが見える人間は特別だ。


(こんな屑みてーな姿でも大事にされてたのは、ビルに価値があっからだ)


 エラは、ビルとセットで売り出されている不用品みたいなものである。


 屋敷の使用人たちは、エラとビルに特に不快感を見せなかった。恐らく不法入国した直後の姿だったら不快感マシマシだった事だろうが、アヒムのいた屋敷で丁寧に世話をされていたお陰で、かつてよりは多少、本当に多少、見た目がマシになっていたからだろう。


(まあ表に見せてねーだけだろーが)


 普通に考えてみてほしい。

 自分の仕えている人間が、かつて愛した人間がいたという話はいいだろう。その娘が、子連れである日突然現れるなんて、完全に詐欺である。


(……まあ、ビルに関しちゃ、伯爵ん所よりかはマシか)


 しかも、伯爵ではなく公爵だ。


(ああいや、こいつ……この人は、公爵じゃねーんだったか)


 公爵家の人間ではあるので、それなりの身分なのは間違いないだろう。


 とはいえエラは、祖国の貴族の関係性も少ししか知らない無学者である。ジュラエル王国の事など、何もわかりはしない。


 エラとビルには、広すぎる部屋が与えられた。しかも、寝室は一緒だが、そこを挟んで左右にそれぞれの個室があるという仕様である。将来的には、別に個室も用意すると言われた。至れり尽くせりで、怖い。普通に怖い。


 気味悪いぐらいの使用人に囲まれて風呂に入れられ、着替えさせられる。とてつもなく肌触りがいい。


(これ売ったらいくらになんのかな)


 ついつい、売る時の事を考えるのは、娼婦時代の癖である。

 ともかく、貰える物は貰う。贈ってきた相手と会わなくなったら、売りさばく。そうして生きていた。


「ママ、ママ! ふかふか、ふかふか!」


 キャッキャッとビルは叫んでいるビルを横目で見ながら、エラは寝室に飾られたあれこれに目を向ける。


(どれこれも高そうだ。……盗まれるとか思わねえのか? ……とはいえでかすぎて持って逃げるのは無理だな)


 逃げる前提であれこれ考えてしまうのは、もう、仕方ない。病気みたいなものである。


 ――こうして、エラとビルの、公爵領での生活が始まった。

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