【11】聞いていないが
エラとビルは正式に入国した事にされて、あっという間にアダルブレヒトが住んでいるという彼やアヒムの実家の領地に連れていかれた。
「アヒムさんばいばい?」
「ああ。また会うこともあるだろう」
「またね、ばいばい、ばいばい!」
アヒムと別れる時にビルは少しだけごねた。
エラは自分達が乗り込むことになる馬車を見上げて気絶しかけていた。
とてつもない豪華な馬車だ。それこそ、王族が使いそうな。
馬車の中でアダルブレヒトはビルを膝に乗せ、男二人、楽し気であった。正直に未だにエラは半信半疑なのだが、精霊が言う事が真実ならば祖父と孫息子、という関係性である。
エラは一人でじっと黙っていた。
「ほらエラ。ビル。窓の外を見なさい。もうすぐピンクダイヤモンド公爵領だ。お前たちがこれから暮らす土地だぞ」
アダルブレヒトがそう言った時、エラは聞き間違いかと思った。
彼がジュラエル王国人だから、てっきり、エラ相手に使っている祖国の言葉を間違えているのだと。
「……公爵?」
「うん? ああ。公爵領だ」
聞き返しても、アダルブレヒトはあっさりとそう返事をする。
公爵が何か、エラも辛うじて知っている。
公爵――貴族階級の中での最上位。そして、王族とごく近しい血筋の者たちの事だ。
唖然とするエラと違い、ビルは聞きなれない言葉に首を傾げた。
「こーしゃくってなーに、おじーさま」
ちなみにアダルブレヒトはエラが知らぬうちに、ビルからの呼び名をお爺様にしていた。
「王様に次ぐ、地位を持つ人の事だよ、ビル。今は私の兄が公爵を務めている。ビルが大好きなアヒムの父親だよ」
(なんてこったい!! アダルブレヒトがまさか、公爵の弟なんて! しかもずっと会って普通に話していたアヒムが、公爵子息なんて……!!!)
聞いてないと叫ばなかったことを褒められるべきだと、エラは強く強く思ったのだった。