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【1】娼婦エラ

 基本的に主人公が自己中クズです。それを前提でお読みください。恋愛パートが大分後ろになっておりますが、そのために前半あるつもりで作者は書いております。ヒーローとイチャイチャ甘い話がご希望の方には合いませんのでご注意ください。

 あと毒親が苦手な方もご注意ください。

 エラは体を売ったりして生きている女である。簡単にいうとまあ娼婦とか言われる類の人物だ。


 娼婦といってもそれだけで食べていける訳ではない。自分でいうのも何であるが、エラは自分がそんな器量よしでないと分かっている。なので他の仕事もしつつ、希望があれば体を売るのだ。


 体を売る理由は簡単だ。学がなくとも顔と体さえ良ければ出来る。自分の体一つで金が手に入る。生きていくには金がいる。だからエラは、一応の保護者たる母親が死んだ後、体を売る事をとくに戸惑いなく選んだ。


 その先に待つものがなんであるかは、ある程度知っている。だって母がそうだった。だからたいして気にならなかった。


 蛙の子は蛙なのだから。



 ◆



 エラは十九歳の頃、ある伯爵に半分ぐらい囲われるようにして愛人をしていた。エラの顔を気にいった、親より年上の伯爵との関係は、良いとは言わないが悪くもなかった。


 伯爵はとかく金払いが良かった。難しい政治的な事は何一つ知らないが、何やら成功して金が溢れて仕方なかったらしい。平民的な言い方で言えば、ガッポガッポでウッハウハだった訳だ。


 とはいえ、段々、厭な気持が強くなっていく。


 基本的には金払いが悪く無ければ男性にそこまで嫌悪感を抱かないエラでも、段々と膨らんでいく伯爵の容姿に思う所があった。出会ったころはそれなりに良い見た目だった男は、次第に丸くていつも汗ばんでいてなんだか鼻を塞ぎたくなる体臭をするようになっていたのだ。


 金と精神的疲労を天秤にかけて、やや精神疲労が重くなりだして伯爵に「会うのだりぃな」とエラが思い始めたころに、エラは伯爵に飽きられた。もうすぐ二十歳という時だった。どうやら新しい、もっと若い女に入れこみだしたらしい。


 とはいえ、最後にもそこそこ金を払ってくれたので、エラはこれ幸いとお金を全部貰って伯爵との関係を断ち切った。

 同じところに住んでいると、後で色々あるかもしれない。伯爵に正妻がいることも、他に愛人を沢山囲っている事も、エラはよくよく知っていたので。


 そうして気楽に新しい所で生活を……と引っ越した頃、エラは体調を一気に崩した。最初は金を惜しんだが体調がよくならず、仕方なしに医者に駆け込めば、老年の医者はあっさり言った。


「妊娠ですな」


 エラは自分の腹を見つめて、それから、しまったぁ、と額を叩いた。

 娼婦として生きていく以上、子供は邪魔であるというのがエラの考えだ。元々誰かと結婚する願望も自分の子供を抱く願望もなかったエラは、「子供を妊娠しなくなるための方法」としてまことしやかに平民が囁いている様々な方法を用いて、避妊していた。行為の後にちゃんと処理をするのは当たり前として、子供が出来なくなるという食べ物を日常的に摂取したりしていた。

 だが残念ながら、駄目だったらしい。


 妊娠してしまったとなると、毎日流れるように神に祈りを捧げるか……物理的に子供を腹の中から出すかであるが……エラは後者はしなかった。

 残念ながら、子供の事を思って……とかではない。


(ガキ堕ろすって、滅茶苦茶いたい奴だよなぁ……絶対ヤダ!)


 という、自分が痛い思いをしたくないという理由でしかなかった。


 仕方ないのでエラは、「恋人がド屑で突如捨てられた悲しみから引っ越してきた女。しかも引っ越した後に妊娠が発覚してしまった」という人間という設定を自分に付けて、そこそこ人の好い宿屋に格安で雇ってもらった。安い代わりに、とても小さいが天井裏で毎日安心して眠れる。最高である。


 そんな訳でエラは毎日子供が自然に流れる事を願いながら(世の子供を望む夫婦から石どころか巨大な岩を投げられても仕方ない願いである)日々を過ごしたが、願いが聞き届けられる事はなかった。


 そうして生まれたのが、エラの一人息子たるビルである。


「生まれちったな……」


 直前まで働いていて突如破水し、働いていた宿屋でビルを産み落としたエラは赤子を抱きながら、これからの事を思って辟易した。


 一応、建前では「ド屑に捨てられたものの、子供を捨てるまで踏み切れなかった女」なので、ここであっさり子供を捨てると、周囲からの同情を捨てる事になる。そうすると宿屋も追い出されるしかないので、とりあえず子供を育てた。


 愛情があったかは……正直にいって無かっただろう。子供を育てるのに金がかかるのは分かり切っており、伯爵から貰った金がなくなる未来を思い泣いた。


 とはいえエラはある理由から、ビルを捨てるような事はしなかった。

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