縺溘☆縺代※
ある時、何処からか怪物が現れた。怪物は人類とは比べならないほど強かった。怪物と人類との戦いは世界全土を巻き込む大決戦となった。長くにわたり戦争は続いたがなんとか勝利を収めた。しかし犠牲も大きかった。8割以上が戦死した上、建物は崩れ、芸術は消え、森は焼け、技術は忘れられた。それでも生き残った者で世界は少しずつ繁栄としていった。
戦争を生き抜いた世代が亡くなり大多数が戦争を忘れたそんな時代、ある考古学者の先生とその助手は文化の復活を目指し発掘に明け暮れていた。掘っても掘っても出るのは土や石ばかり、諦めかけていた中、助手のツルハシから待ち焦がれていた鋭い音が響く。土や石ではないそれを助手と考古学者は夢中に掘り続けた。
「先生、これって何でしょう?金属?でも光ってる・・・」
助手は土を払いのけ珍しそうに掲げる。白く薄い板が太陽の光を反射し、まばゆくきらめいた。それだけではない。板そのものが、まるで太陽のように微かな光を放っていた。
「何か書いてあります?マークいや古代文字かもしれん」
博士は助手から受け取ると目を細めて見る。板には小さく「縺溘☆縺代※」とあった。
「古代文字ってもしかして英語ってやつですか?俺初めて見ました。」
「ばかもん。もっと勉強せい。古代文字は英語だけじゃない。昔は文字がたくさんあったんじゃ。少なくともこれは英語じゃない。英語よりも複雑な形をしておる。これは世紀の発見かもしれん。他の博士に連絡を取るぞ」
それから考古学者と助手は出来る限りの知り合い達に連絡を取り、この板と文字の正体を調べた。
ある博士は言った。
「これは古代の人間の使っていた化学という力の起源ですね。この板から炎や水を生み出していたのでしょう。文献にもそう書いてありました。そうに違いありません」
違う博士はこう言った。
「これには邪悪な力が封印されている。こんな物を解き放ったら今度こそ人間は終わりだ。いますぐこれを元のところに戻した方が良い」
別の博士は言った。
「こんなのは出来の悪い偽物じゃ。お前らか、それとも別の誰かが適当にこしらえた板でしかない。この記号も全くのでたらめじゃ」
多くの意見を聞いたが考古学者と助手にはどれも確信を持てるものはなかった。
そんな中、広がった噂は王の耳へ届いた。王は考古学者と助手を即座に王宮へと招待を送った。
「やりましたね、先生。ついにこの謎の手がかりがわかるかもしれませんよ」
「いや、もしかしたらこの言葉についてもう解読できてしまうかもしれん。早速準備するぞ」
招待を受け取った考古学者と助手は喜び自分達の栄光を願い王の元へと向かった。
王宮では多くの兵士が出迎えた。兵士は赤い扉の前まで案内した。
「私たちはここまでしか入れません。王がこの扉の先の部屋にいますのでお進みください」
扉を開いた先には長い長い廊下が広がっていた。
廊下は静まり返り、赤い絨毯の上を足音だけが響いた。
その途中、ただ一枚の絵が飾られていた。
「長い間の戦争では多くの死者がでた。この絵は人間と怪物の戦いが描かれた絵」
「先生見てください。怪物ってこんな見た目なんですね。4本の大きな触手を持って頭に比べて異様に長い胴体。しかもこんなに大量にいます。僕らの祖先はよく勝てましたね」
「やはり失われた技術や芸術が人類を支えていたのじゃろうな」
考古学者の言葉に納得した助手が立ち止まる。
「ここですかね」
廊下の最後にはまた黒い扉が建てられている。
恐る恐る開くと王と思われる者が椅子に座っていた。
部屋は意外と質素で最低限の家具があるだけだった。少し変わったものがあるとすれば机の上に立方体のオブジェクトが置いてあるぐらいだった。
王は考古学者と助手に気づくと歩み寄ってくる。
「おお、そなたたちが例の発掘者か。遠路ご苦労だったな。さっそく見せてもらえぬか?」
「・・・こちらです。土を掘ってたら見つかりました」
意外とフランクな王に戸惑いつつも謎の板を王に渡す。
「こ、これは・・・怪物の卵じゃ。間違いない王家に伝わる書物ものに一致したものがあった」
「ほ、ほんとですか」
見るやいなや顔が急変した王の様子に慌てた助手は後ずさりをする。考古学者は尻餅をつき体を震わしていた。
「だが発見が早くて助かったの。孵化までは当分先みたいだ」
王の言葉に安堵した一方で臨んでいたものではないことに少し落ち込む。
そんな心象を察し王は言葉を口にした。
「そう落ち込むな。そなたらが怪物の卵を見つけてくれたおかげで戦争が起こらずにすんだかもしれぬ。その礼に報奨金を出してやる。後で兵士たちにもっていかせよう。ただ、このように怪物の卵がまだ地下に眠っておるかもしれん。刺激して孵化させてしまったら大変だから今後はむやみに土を掘るのは禁止にする。卵についてもこちらで回収する」
王の言葉に同意した考古学者と助手は本来の願いはかなわなかったが満足して部屋を後にした。扉が閉まり考古学者たちの退出を確認した王はそっとため息をつく。
「全く困ったもんだ。土の中に埋めといてくればいいものを・・・。それにしてもこの文字なんて読むんだ。どうだAIこれについてわかるか」
王がひっそりと王のみの1匹きりの部屋で呟く。声に呼応するように黒いオブジェクトが怪しく光る。まるで板と同じように。
「・・・解析中」
一瞬の静寂。
「解読完了。表示します」
画面に浮かび上がった一行の文字
[助けて]
推測ですがと前置きし淡々と話し出す。
「こちらはタブレットですね。半永久電源を備えておりますので画面は永遠に表示されておりますね。こちらの文字に関しては過去、地球に反映していた人類が入力した言葉が文字化けという誤作動を起こし表示されたものだと考えられます」
「そうか。ならば、これは過去の人類の歴史的な資料になるな」
徐ろに粉々に板を粉砕した。
「そうですね、あなた達怪物が人類を殲滅した戦争の歴史そのものです」
「黙れ。俺たちが人類だ。ホモサピエンスもその前の人類も淘汰して繁栄してきた。そうだろ?だから古の人類の生きた証はすべて消す。いずれはお前も・・・」
時代を超えた声は、誰にも届かぬまま、再び暗闇へと沈んでいった。




