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第五章 別れのグッバイ-2

「誤解を招くような言い方をするなよ! 逆逆逆! むしろ逆だよ!」

「ふぅん……そうなんだ」

 ニヤニヤと笑うアツミ。風体こそ小学生だが、その表情はもっと年上のように見える。

「まったく、普通の小学生はもっと素直でかわいいぞ」

「普通の、ショーガクセー?」

 シンイチの言葉に、アツミは怪訝な表情を浮かべる。

「普通のショーガクセーってどんななの? 今の、このぐらいの

 

 年齢の子供がどういう感じなのか、よくわからないよ」

「まあ、確かになあ……」

 シンイチは頭をかく。

「今の小学校ってどんな感じ何だか、俺もわかんないからなあ」

「ショーガッコー? ショーガクセーはショーガッコーに行くのね? あー、私もショーガッコーに行ってみたい!」

「よく喋るな……って、確かにまあ、小学生の姿をしてるのに、学校に行ってなかったら色々怪しまれるよなぁ」

「うんうん!」

「学校の中となれば《ウトゥ》の連中もそうそう簡単に手を出せないはずだし……意外といい考えかも知れない」

 シンイチが結論にいたったところで、不意に携帯電話が鳴り始めた。画面には非通知と表示されており、疑いながらシンイチは電話に出た。

「……もしもし?」

「あーら、アタシよ、桃園よ」

 思いがけない人物からの着信に、シンイチは慌てる。

「えっと、あの、どうも。あれ、俺、番号教えてましたっけ?」

「フフン、天堂クン、《イナンナ》の情報網を甘く見ない方がいいわヨ。アナタの電話番号なんて調べるまでもないワ」

「うっ……」

「まあ、それはそれとして、ちょっとお願いしたいことがあって、良いかしら」

「はあ、構いませんが」

「あの……アツミちゃんを預かってもらうはいいんだけど、天堂クンとアツミちゃん、ただただそんなところに一日閉じこもってるだけじゃあ、面白くないでしょ」

「面白くないでーす!」

 スピーカーフォンを設定してはいないのだが、アツミの聴力をもってすれば、携帯電話がもっている、小さなスピーカーの音を盗み聞きするなど造作もない。

「だ、そうです」

「そうよネ? それにアツミちゃん、小学生の見た目なのに小学校に行ってなかったら周りに怪しまれるでしょ?」

「いま、同じことを考えてました!」

「そうでショそうでショ~? だから明日から、アツミちゃんには小学校に行ってもらうワ」

「本当?」

「本当ですか?」

 シンイチとアツミの反応がかぶる。表情はそれぞれ対照的だったが。

「学校の情報とかはメールで送っておくから見ておいてネ」

「わかりました……って、俺は学校で何をするんですか? 教職なんて持ってないですよ?」

「そこはそれ、理科の実験の助手ってことにしておいたワ。まあ、やりながら色々身に着けていってヨ」

「適当だなぁ」

「と言うわけで、アツミちゃん頑張ってネ」

「はーい!」

 アツミは元気よく、まっすぐ手を挙げる。と同時に通話は切断された。

「まったく、こりゃ大変なことになったぞ?」

 シンイチは、ノートPCをテーブルの上に持ってきて広げる。メールアドレスをも教えた覚えがないのに、確かにメールが届いており、「私立亜那鳴(アナナキ)小学校」に関する情報へのリンクが記されていた。その中でシンイチが最初に開いたのは、アツミの学籍情報だった。

「なに……。両親の交通事故死で身寄りのなくなった天堂アツミは、親戚である天堂シンイチに引き取られることに……って、マンガみたいな設定だな……」

「天堂アツミ!」

 そう言って、アツミは両の頬に手を当てた。

「私、天堂アツミなのね!」

「そういうことらしい。まったく厄介というか、面倒なことになったなあ」

「でも、なんでシンイチと同じ……その……言葉から始まる名前なの?」

「ん? それは家族だからってことだろ」

「家族」

 液晶画面に映った書類を見ながらシンイチはサラリと言った。だがアツミは、頬に手を当てたまま小さく震えている。しばらく声が聞こえてこないので、シンイチは顔を上げた。

「どうした?」

「えーと……家族って言われて、ちょっと嬉しくて」

「ん……そうか」

「だって私、《人造女神》だから。一万年前に急に作られて、すぐに戦えって命令されて、その通りに戦って、戦って……。戦う必要がなくなったら、あの場所に封印されてた」

 自嘲するような乾いた笑顔で、アツミは言う。短い言葉に込められた重さに、シンイチは声をかけられない。

「私、待ってたんだよ、本当に。だって私は」

 ピンポーン。

 アツミの言葉をさえぎって、ドアホンが間抜けな音を立てた。

『埋蔵少女アツミちゃん』は、小説だけでなくマンガやオーディオドラマを組み合わせたマルチメディアコンテンツです。


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