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好きな女子に「今日、親が居ないんだ」と言われて部屋へ上がったらクローゼットにサンタが縛られていた。

作者: たけのこ

「あのさ……今日……家に親が居ないんだけど……」


(──けど!?)


 杉山少年は強く心の中で叫んだ。

 けどなんだ! その後に続く言葉が『それよりも美味しいラーメン屋知ってる?』だったらキレるぞ。と、一人勝手に興奮していた。

 可愛らしい厚手の手袋を後ろ手に、友紀乃は恥ずかしそうに話を続けた。


「うち、来ない?」


(神様ありがとう!!!!)


 杉山少年は一人心の中でガッツポーズをした。




「どうぞ、上がって」

「お、お邪魔しますッス……」


 チラチラと雪が降る中、徒歩五分。クラスメイトの自宅で行われたクリスマスパーティーが終わり、その後にまさかまさかのカーニバルが始まるとは、杉山少年は心にも思っておらず、唯々期待に胸を膨らませては過呼吸になりかけていた。


「汚いけれど、どうぞ」

「いや、めっちゃ綺麗だよ。ビックリした」


 杉山少年は友紀乃の事をあまり異性としては見ては居なかった。全くと言えば嘘になるが、ゴリゴリの最前列まで見に行くかと言われれば、答えはノーだった。

 ただ、今この瞬間。最前列を通り越し、手を伸ばせば芸者にお触り出来るであろう距離だ。杉山少年はお触りの作法については全くの我流。裏も表も履修しておけば良かったと、軽く後悔をした。


「座ってて。お茶とコーヒーと赤マムシ。どっちがいい?」

「お茶で」


(なんだろ、聞き違いかな……)


 和やかに微笑み、友紀乃は階段を降りてキッチンへと向かった。


「はいどうぞ」

「ありがとう」


 何故かお茶は赤かった。そして蛇の頭が沈んでいた。


(……昆布茶かな)


 杉山少年は黙って飲んだ。すぐに体がポカポカしてきたのは気のせいでは無かった。


「あ、お腹空いてない?」

「ケーキとか食べたから、あんまりかな」

「スタミナ焼肉うな重弁当と、マカと亜鉛のサプリがあるの。食べてって」


(多分、逆にそれしか無いんだろう。きっとそうに違いない)


 友紀乃がキッチンへと向かうと、杉山少年はそっと聞き耳を立てた。何故かキッチンから何かを焼く音がした。


「まさか今から焼かないよね……」


 杉山少年は少し不安になってきたが、そんな事がどうでも良くなる事態が発生した。


(クローゼットが少し開いている……!!)


 杉山少年は酷く興奮した。

 女子の衣服が収納されているであろうクローゼットだ。当然、中を探れば女子の衣服が出て来る筈。然らば在るべき物はそこにある。

 杉山少年は強く心の中でガッツポーズをした。


「開いてるなら閉めなきゃ。じゃないと俺が開けたと疑われるからな……」


 これは仕方ない行為なのだと、杉山少年はクローゼットの扉に指をかけた。

 そしてゆっくりと、ゆっくりと中を開いた…………。







「お待たせ。スタミナ焼肉うな重弁当が無かったから、ステーキ焼いちゃった♪」


 既に腹八分目の杉山少年の目の前に、ドンと400gはあろうステーキ肉が置かれた。


「ミディアムレア。私頑張っちゃった、ヘヘ♪」


 友紀乃という女性はここまでアクティブだっただろうかと、杉山少年は強く疑問を持った。

 クローゼットは既に閉まっており、物色も終わっていた。否、強制終了させられたのだ。



(なんでクローゼットの中にサンタクロースが!?)



 杉山少年は切り分けられるステーキを眺めながら、先程の出来事を反芻していた。


「はい、あーん」


 もう赤マムシやステーキや、ましてやいきなりの 『あーん』も、どうでも良くなっていた。彼の頭の中はクローゼットの不審者でいっぱいだった。


(落ち着け俺! 俺は今日友紀乃さんに誘われて家に来て、部屋に上がって、そしてクローゼットの中に居た縛られたサンタクロースを見てしまっただけだ! ステーキを食べたら帰ろう。うん! 帰ろう!!)


 杉山少年は自分に言い聞かせ、無理矢理ステーキを消化し始めた。


「美味しい?」

「うん!」


 ただ強く返事をして、ステーキを噛み続けた。


「映画でも観る?」

「え、あ……」

「どれにする?」


 友紀乃が出したDVDは、全てホラー映画だった。

 すぐに帰るつもりが帰れない。このままでは何かが起きるのは間違いなかった。


(これは罠の気配……!!)


 仕方なしに一番ホラーっ気の弱そうなサメの映画を選ぶ杉山少年。


「ステーキおかわりって、ある?」

「えっ?」


 杉山少年は時間稼ぎにおかわりをねだった。ステーキは時間がかかる。その間に逃げだそうと言う魂胆だった。


「美味しかったから……」

「嬉しい♡ すぐ作るね!」

「ゆっっっっくりで良いよ……ゆっくりで」

「~♪」


 鼻歌交じりに階段を降りてゆく友紀乃。その間に杉山少年はクローゼットを開けて縛られいるサンタクロースへ声をかけた。


「オッサン何してんの!? 逃げよ!」


 しかしサンタクロースは無言で項垂れたままだった。どうやら気絶しているか眠らされている様だった。


「起きて起きて」


 杉山少年がいくら揺すろうが、サンタクロースはビクともしなかった。


「お?」


 と、揺すった拍子にサンタクロースの服の間から一枚の色画用紙が落ちた。短冊状の色画用紙には、とても綺麗な文字で『サンタさんへ 杉山君の全てが欲しいです 友紀乃』と、書かれていた。


「おいおいおいおい……!!!!」


 杉山少年は徐々に自分の置かれた状況を理解し始めた。


(友紀乃さんは俺の事が好き。そしてサンタさんへ俺が欲しいとお願いした。……で、縛られているのは、まだ願いが通ってないから、か?)


 杉山少年は冷静に考えた。

 まだ逃げられるチャンスがある、と。

 すぐにクローゼットを閉めて窓の鍵を開けた。


「クッ……凍ってる!」


 しかし窓は連日の寒波で凍り付いており、逃げるには階段を降りて玄関からでないとダメな様であった。


「おまたせ~♪」


 階段を上る音がし、杉山少年はすぐに席に座った。

 何事も無かったかの様に、DVDへと視線を合わせた。


「どうぞ♪」

「美味しそうだね。ありがとう」

「いえいえ~♪」


 既に腹十分目に到達している杉山少年は、ゆっくりとステーキを口へと運ぶが、その頭の中では如何にこの状況から逃げ出すかばかりを考えていた。


「ごめんね、クリスマスっぽくなくて」

「え? ああ……大丈夫、かな」

「あ! 下に小さなツリーがあるから持ってくるね」


 嬉しそうに友紀乃は手を合わせて歩き出した。

 既に赤マムシドリンク(ホット)とステーキ、トドメのサメホラー映画でクリスマス気分は皆無だった。


「オッチャン起きろってば……!」


 隙を見てクローゼットの中のサンタクロースを揺さぶるが、やはりビクともしなかった。


「どうしよう……!!」


 杉山少年は何か使える物は無いかと、辺りを見渡した。すると、友紀乃の机の上に短冊状の色画用紙を何枚か見つけた。友紀乃が使った物の余りだった。


 すぐにペン立てからマジックを取った。

 サンタクロースを拉致監禁するくらいだ。自分もただでは済まない。と、切迫した気持ちでペンを走らせた。


 ──サンタさんへ Gカップの彼女が欲しいが欲しいです 杉山龍経


 これだけ見れば性欲丸出しの願い事だが、これは友紀乃の願いを邪魔する為の願いだった。


「友紀乃は下から数えた方が早い族だからな……これで助かるはず」


 短冊をサンタクロースの懐へと滑らせ、杉山少年はクローゼットを閉めてゆっくりと席へと戻った。

 無理矢理ステーキを口に入れると、DVDでは大きな効果音と共にハリボテ丸出しの人食いサメが、波打ち際でビキニ美女を襲っていた。




「……おまたせ♡」


 妙に艶めかしい声がした。

 手のひらサイズのツリーを持った友紀乃は、何故かサンタの服を着ていた。

 半袖の、ミニスカートで、胸元が大きく開いた、言わばコスプレ的な服装に近かった。


(──!!)


 何より杉山少年が驚いたのは、その開いた部分から見えた大きな膨らみだった。少なくとも、杉山少年が知っている友紀乃はそこに居なかった。Gカップ。どう見積もってもGカップだった。


「どう……かな? 普段は押さえて隠してるから……」


 杉山少年は目が離せなくなっていた。

 波打ち際で逃げ惑うビキニ美女。誰でも分かるであろう美女の死に時はもう少しだった。


「隣……いいかな?」

「え、あ……うん」


 杉山少年は抗えなかった。それは仕方の無い事だった。

 ゆっくりと、友紀乃は杉山少年の隣へと座った。

 ビキニ美女が食われる瞬間に友紀乃が抱き付こうとしている事は、杉山少年にも明白だった。しかし抗う術を持ち合わせては居なかった。

 座ると友紀乃のGカップがより大きく見えた。


(ど、どうすれば……!)


「お、お茶のおかわり……を!」

「えっ? ふふ。嬉しい♡」


 杉山少年は一気に湯飲みの中身を飲み干し、おかわりを所望した。蛇の頭も噛み千切り、バリバリと飲み込んだ。

 友紀乃はとても嬉しそうにキッチンへと向かった。茶室へ入る小さな扉の様に姿勢を落とせば見えるくらいに、そのスカートは短かった。


「願いを間違った……!!」


 すぐにペンと色画用紙を取り、新たなる願いを書いた。


 ──サンタさんへ 清楚でお淑やかな彼女が欲しいです。 あと、サンタさんが目覚めますように 杉山龍経


 それは決して杉山少年の欲をありのまま書き殴った物では無かった。友紀乃の願いを邪魔しつつ、杉山少年とサンタが無事に逃げ果せる起死回生の一手だった。


「今度こそ……!」


 ついでに友紀乃の短冊と、前の願いを破り、ポケットへとねじ込んだ。

 最初からこうすれば良かった等と後悔している暇は無かった。

 席へ戻りステーキを一口押し込んだ。既にビキニ美女はサメの犠牲になっており、オーマイガーが連呼されている。



「……おまたせ♡」


 赤マムシがピッチャーで運ばれてきた。中には厳ついマムシが丸々と浮かんでいた。もうおかわり戦法は通さない。そんな意気込みが見て取れた。


「電気消して良いかな?」

「えっ?」


 杉山少年は焦った。電気を消された瞬間に、彼の逃走路は無くなってしまうからだ。


「このツリー、光るんだよ?」


 返事もままならないまま、蛍光灯のスイッチは押され、部屋は暗くなった。しかし、ツリーは明るくならなかった。


「あれれ? 壊れちゃったかな? ま、いいよね?」


 勿論壊れてなどはいなかった。ただ、点けるまでも無いと友紀乃は計画を早めたのだ。

 杉山少年の手に暖かい物が触れた。友紀乃の手だった。そのまま頬へと手は導かれ、杉山少年は己の短い命に別れを告げた。


 ──カタッ


 杉山少年はその音を聞き逃さなかった。

 それはクローゼットの開く音だった。

 開かれたクローゼットから、誰かが出て来る音がした。


「杉山様……」


 女の声がした。

 友紀乃は驚き蛍光灯のスイッチを点けた。

 二人の目の前には、女のサンタクロースが立っていた。


「えっ!? 誰!?」


 杉山少年はとりあえず初手にすっとぼけを入れて友紀乃の反応を伺った。

 そもそもオッサンだと思っていたサンタクロースが女だったので、杉山少年は割と焦っていた。惜しいことをしたかも、と心の中で悪い心が囁いた。


「杉山君これはね!? 違うの……!」


 友紀乃はあからさまな否定を見せたが、それは否定になっていなかった。


「杉山様……」


 女サンタクロースはお淑やかな姿勢で杉山少年に相対した。深くお辞儀をし、かすかに笑みを浮かべて話し始めた。


「杉山様のお掛けで、わたくしは目覚めました……杉山様の事を心からお慕いしたく思います」

「──はぁ!?」

「はいぃぃぃぃ!?!?」


 異を唱える友紀乃と、訳が分からない杉山少年。

 杉山少年が混乱している間にそっと、女サンタクロースは杉山少年の隣へと歩き、腕を取って体を押し付けた。


「わたくしは清楚で御座います故、杉山様に置かれましては大変満足かと……」

「ちょっと何なのよこの女は!?」

「さて……? 気が付いたらそちらのクローゼットの中でしたが、その前の記憶がありませぬ。どうやら記憶喪失の様ですね」

「この女狐が……!!」

「いたた……何故か頭にコブが。杉山様、舐めたり触ったり愛したりして確かめて頂けませんか」


 女サンタクロースが上着を脱ぐと、友紀乃と同じ半袖の胸元が更に大きく開いたサンタ服が現れた。

 当然大きな膨らみも清楚にGカップあった。

 杉山少年は頭に『!?』マークが激しく突き刺さり、軽く目眩がした。


「杉山様。あんな赤マムシやステーキやサプリでどうこうする様な淫乱売女の色仕掛けに、よく我慢をなされました。流石はわたくしめが好いた殿方で御座います」

「は、はぁ……」


 女サンタはクローゼットの中からプレゼント袋を取り出して、中をまさぐった。


「ここは清楚に、一角絶倫DXドリンクが宜しいかと♪」

「ちょっと!! やってること同じじゃないのよ!!」


 友紀乃が間に入って制止した。

 Gカップが並ぶと中々に爽快なる絵面となり、杉山少年はポンと手を叩いた。


「分かりました」


 ペンを取り、新たなる短冊に願いを書いた。


 ──サンタさんへ 二人同時でお願いします 杉山龍経


 ついに杉山少年は現実を受け入れた。

 そしてその上で更に欲張った。彼はとても自らの欲望に忠実なる人間だった。


「クリスマスだし、良いよね?」


 杉山少年はピッチャーから赤マムシを注いだ。

 ついでに一角絶倫DXの蓋も開けた。


「まあ……杉山君がそう言うなら」

「杉山様がお望みなら……」


 二人は顔を見合わせて、やがては納得した顔で杉山少年を見た。


「じゃ、メリークリスマス」


 杉山少年はツリーの明かりを点けると、蛍光灯のスイッチを消した。

 暗闇の中、ツリーの僅かな明かりだけが部屋を灯した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 雪のアオハル企画から来ました。 お正月に、お雑煮を食べながら読んではいけませんでした。
[一言] ノータイムで二人同時を選択するの強い
[一言]  若者の健全すぎる好意に、脱帽しました。短冊で願いを叶えられる方式なのですね、サンタさんは(笑)。なかなか眠れないクリスマスになりましたね。両手に花だなんて、主人公は幸せすぎますよ。
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