アウトかセーフそんなのはほんとにしっかり見てるやつにしかわからないんだよ
待ってくれ!! そこを右に行ったら崖だーー!!
俺は暴走する車の助手席で叫んだ。だが、時すでに遅し、車は真っ逆さまに谷へと落下していく。
「うわーーーーー!!!!」
ドシン!!
突然の衝撃に意識が覚醒する。
……背中が痛い。なんだよ一体。ああ、そうか。俺は車で谷に落ちる夢を見ながら、自分のベットから転がり落ちたというわけか。
「くっそ、マジで最悪だ。あんな訳の分からん夢を見るわ、ベットから落ちて腰もくそ痛い。朝からついてないことこの上ねぇ」
朝一番にテンションをガクッと下げるコンボ食らってしまった。
ひとまず、カーテンを開けてみるが外がやけに明るく、人通りもにぎやかだ。
おいおい、まさかな……。
俺は、既にある程度感づいているが、ゆっくりと目覚まし時計で時刻を確認した。
「やっべーーーー!!! もう八時だーー!!」
信じられないことにいつもよりも一時間寝坊をかましてしまったようだ。通りで通学途中の学生たちが大勢いるわけだ。いやいや、そんな冷静に分析している場合じゃない。マジで急がないと遅刻だ。もうほぼ、遅刻は確定しているようなものだが一縷の望みにかけて今世紀最速のスピードで身支度にとりかかる。
「こりゃ朝飯は抜き確定だな。弁当も作る暇もねぇ、ああ、今月ピンチだってのにまた購買で弁当買わんといけないのか」
ごちゃごちゃ言いながらも動きは止まらず、歯磨き、洗顔を済ませる。トイレは学校でゆっくりこもればオッケーだ!! あとは制服に着替えて全力ダッシュだ。
「いってきまーす!!」
一人暮らしだが、実家にいたときに癖で毎日誰に向かってかはわからないがいってきますと大声で言っている。近所の人は俺が一人暮らしだなんて思わないだろうな。
「あ、カギ閉め忘れた!! なんで今日に限ってそんな凡ミスを……」
急いで元来た階段を駆け上がり、カギを閉めた。
今度こそ大丈夫だ。俺の鍛え抜かれた足腰で間に合わせて見せるぜ!!
ダッシュで通学路を駆け抜ける俺の横をちゃりで通過していく同じ学校の奴らが心底憎い。
俺はチャリ通じゃないからもってないんだよーー!! ああ、なんで俺は徒歩で通学してるんだーー!!
怒りをパワーに変え、さらに加速し、学校を目指す。
大体俺の家から学校までは1.2キロだ。普通に歩けば20分くらいだろうか。だが、予鈴まであと8分。割と絶望的だ。しかし、今の俺は財布とスマホをポケットに入れているだけの身軽なスタイル。もちろん、鞄ももっていない。学生なのになぜかって思うだろう? 全部おきべんしてるんだ。おきべん最高だぜーー!!
「おらおらおらぁーーー!!!!」
周囲から白い目で見られることも構わずに叫ぶ。てか叫んでないと、こんな全力で走れない。自分を鼓舞し、限界以上の力を引き出すための儀式みたいなものだ。それを、やれ危なそうなやつだとか、関わっちゃいけないやつだとか失礼極まりない。お前らは叫ばねぇってのかよ!!
「こっちみてんじゃねぇーーーー!!!!」
俺の横をチャリで通過する奴らの視線がうざい。お前らだって歩きだった間に合ってないだろうが。チャリに感謝して登校しやがれ!!
ちょうど半分くらいのところで最初で最後の関門が現れる。信号だ。ここを、そのまま青で渡れるか。赤で止まるか。はたまた、ギリギリ渡れずとてつもない時間を失うかだ。もちろん、ここは青で渡れなければ俺に明日はない。
見えた!! やばい、今青だ!! くそ、まだチカチカするなよーー!!
俺が信号の手前15メートルのところで無慈悲にも点滅が開始する。
ダメだ、ここで信号にひっかることは死を意味する。一歩目が青ならセーフ、一歩目が青ならセーフだーー!!!
ここ一番のために温存していた足を解放し、正真正銘の全力疾走へと移行する。
「はあぁぁーーーー!!!」
ちょうど赤に切り替わるかどうかのタイミングで俺の右足がラインを超えた。
「よっしゃーー!! 最初の一歩が青ならセーフだ!!」
少し赤だったような気もするが、俺の叫び声に圧倒されてみんなああ、ギリギリセーフだったんだなと思うに違いない。
あとは、半分突っ走るだけだ。
トップスピードになっていた足を少し緩め、残りの距離を走りきるためのペース配分を開始する。
あと、600メートル弱、俺なら十分間に合う。下駄箱で靴から上履きに履き替える時間はもったいない……背に腹は代えられないか、靴のままいって勝利をつかみ取ろうじゃないか。後で、少し怒られれば住むことだ。まだ俺の無遅刻無欠席は続くぜーー!!
ドタドタドタ!!
昇降口を駆け抜けるタイミングで予鈴がなり始める。
俺の教室は二階、行ける!!
普通ならここで靴を履き替えるところだが、俺はブレーキをかけることもなく廊下へと突入。階段を目指す。
ひょいひょいと3段飛ばしで階段を飛び上がり、二階へと到着した。予鈴はあと二回だ!!
「おらぁーーーー!!!」
バン!!!
気の利かない奴に閉められてしまっていたドアをいきよいよくあけ放ち、教室へ入る。
「おっしゃーー!! どうだ見たかーー!! 俺は間に合ったぞーーー!!!」
しかし、視界に飛び込んできたのは呆れた顔のクラスメイトと担任ではなく、空を飛ぶドラゴンに大地を駆ける恐竜のような何かだった。
「え? 何事?」