五話:アンテン
どうも遅くなりました~。水面です^^;
もっと早くしようと思ってたんですが思うように時間がとれず。
毎回2000~2500文字程度の更新を目安にしてます。
それとこれはかなり長くなりそうでつ(汗
では本編
トントン……と水町家の台所で包丁を使う規則正しい音が転がる。
朝六時四十分。
起きるには丁度いい時間なのだが、水仙以外誰も起きていなかった。
――この家族と来たら……
そんなことを考えているうちに包丁が大根を滑って指に掠る。
「おっと……」
人差し指の間接から血が流れるが気にしない。
アンドロイドである自分の体はすぐにそんな傷は修復できるようになっている。
血のついたまな板を水で流すと、ドタドタと階段を下りてくる足音。
「う……おはようございます」
「またパンツ見えてんぞ、時雨」
「え?!嘘!」
「部屋に戻って布団の中漁って来い」
「う……うぁー!」
起きたばかりなのに騒がしい奴だな、と水仙が思うのも束の間。今の騒ぎで起きてきた水町家の残りのメンバーがぞろぞろと和室から出てきた。
「水仙~飯……」
「めしー」「めしー」
「あぁ……もううっさい!ちょっとぐらい待て!」
切った大根を鍋に放り込み、ふと気づく。
人差し指の怪我が治ってないことに。
アンドロイドである自分の特性上、傷ついた部位は程度にもよるが大体が秒単位で修復される。
「う~ん?なんか痛いけど……まぁ放っておけば治るか。」
そんな見切りでまた今度は五人分の目玉焼きを焼く作業に入る。
概ね。
水仙が帰ってきてからの一週間はこんな感じで過ごしていた。
そして概ね、一家は平和だった。
「そんじゃあ行って来ます!」
「いってきます」「きまーす!」
時雨が時間ギリギリで玄関を飛び出し、続くようにして双子も続いていった。
残ったのは瀬矢と水仙。
二人はレストランの厨房に移動し、10時からの開店に備える。
「水仙、そこの人参と大根。千切りで茹でとけ」
「はい」
「あ、それと鍋。一番でかいの洗って水張っとけ」
「はいはい」
「水仙!昨日仕入れたアレは?!」
「知るか」
淡々と瀬矢の受け答えもしながら水仙は作業をこなしていく。
最初の二日で要領を掴んだ水仙はいまや、一日のほとんどを厨房で瀬矢の手伝いで占めていた。
そして全ての下ごしらえが済んだ9時30分。
水仙と瀬矢は居住区に戻って休憩しながらTVゲームに興じていた。
「おいクソガキ。ちょっとは手加減ってものを」
「無理。」
「ってかお前空中コンボなんて時雨でも出来ないぞ?!」
「なんか指先が慣れてる感じがするんだよ。なんとなくだ。」
「お前……実は開発の時に変なプログラミングとかされたんじゃ……」
「上下BB……下A上右下B……これで10勝。」
「あぁっ!最初は勝っていたのに!」
攻略本にも載っていない様な鬼畜コンボを瀬矢の使うキャラに叩き込んだ水仙はコントローラーを放り投げた。
瀬矢はまだやり足りないようだが、完全無視で腰を上げる。
(変な……プログラミング?)
と、そこで瀬矢の言葉に引っ掛かるようなものを感じた水仙は壁を向いて不貞腐れ気味の瀬矢のほうを向いて、
「瀬矢、なんで俺の人格ソフトがプログラミング方式だと知っているんだ?普通の一般向けされた……軍事目的じゃないアンドロイドには基本人格ソフトが使われていてプログラミングなんてしない。そんな事を知っているのは開発者関連か開発者本人しか知らないはずなんだが」
「んぁ?あぁ、俺の親父が軍事アンドロイドの開発者だったんだよ。で、器用さが俺に遺伝。でも兵器なんか作るガラじゃなかったからレストランやってんだよ」
「親父……?研究所に水町、なんて男はいなかったはずだが?」
「あーまぁなんだ、気にすんな。あ!そうだ、親父に結構色々教わったからアンドロイドのメンテぐらいは出来るぞ?軍用と家庭用じゃあ若干違うだろうが調子悪くなったら言え」
「なんかはぐらかされた気がしないでもないが……その時はよろしく頼む」
そこまで言ってから水仙はさっきの傷が治らないことについて思い出した。
大した欠陥じゃないだろうが気になるものは気になる。現に今も傷は治っていない。
「あ、そうだ。ちょっと気になることがあって……」
「おっともう10時前じゃねーか。シャッター開けに行くぞ」
だらだらごろごろしていた瀬矢はシャキ、と立ち上がって廊下を駆けて行った。
水仙も散らかったゲーム機をテレビの下に押し込み、廊下に出る。
(まぁ……夜でもいいか……)
表でガラガラ……とシャッターを開ける音と、早くも来た客の接待をしている瀬矢の声が聞こえる。
「軍用……か」
瀬矢に言われた言葉。
『軍用アンドロイド』
今、水仙の枷となっているのはそれだった。
水仙には軍用、と呼ばれてもしっくりこない気がしていた。
右手を軽く振ってみるが、手首に仕込まれているはずの刃は出てこないし、踵を床に打ち付けても膝に収納された50㎜の弾丸が射出されることもない。
「不思議だ……」
まるで人間になってしまったかのように全ての機能が失われてしまっている。
兵器も、再生能力も、体力も、人工の強化筋肉も。
等身大の人間のようになってしまっている。
今、海外と日本は水仙のことを探しているだろう。
そして、いつか見つかったとき。自分は逃げ切れるのか、守りきれるのか。それとも――
「水仙!早く来い!」
ドアを開けて玄関から瀬矢が水仙に向かって叫んでいた。
はっ、と顔を上げて水仙は思考を振り払うようにして頭を左右に振った。
今はそんなことを考えるときじゃない。
今が幸せだから。
平和で、時雨がいて、瀬矢がいて、双子がいて。
「あぁ、うるさいな」
人間のように接してくれて。
平和で。
「早くし……」
ドスリ、と。
瀬矢はドアに手をかけたまま。
倒れた。
驚く間もなく水仙の右足の太股、それと左肩にも何かがぶつかったような感触と共に熱い感覚が突き抜ける。
反動で仰向けに倒れていく視界に入ったのは。
黒光りする金属。
それを構えた白衣の人間。
そして傍らの、
「しぐ……れ……」
暗転――
「ごめんね」
時雨がそう呟いた。