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Rose Mary  作者: 水面 幸陽
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四話:タダイマ

双子と瀬矢の反応はほぼ予想通りだった。

多少、驚いていたようだが瀬矢のほうはそれよりも……と言った視線を水仙に向けていた。正しくはその右手、時雨の左手との繋がりだった。

抱きつくなり顔を真っ赤にして文句を長々を続ける時雨に戸惑った水仙は、とりあえず宥めるために時雨の手を掴んだのだが、それをどう解釈したのかその手を握ったままその手を引いて駐車場まで戻ってきた。

水仙は些か戸惑うものの、もう2度と離さないと言わんばかりの力でしっかりと握られていたので払うことも出来ず、別に悪い気はしなかったのでそのまま瀬矢の前に戻ったのだが。


「何だ坊主。家出はもう終わりか?」

「ご心配おかけしましてどうも申し訳ございませんでしたという所存です」

「何語だそりゃあ?」


若干の急展開に水仙はやたらと長い敬語を並べる。

自分は戻ってきてもよかったのか。その疑問ばかりが渦巻いていた頭の中で、『家出』という単語は奇妙に響いた。

どうしたらいいか拘束されていない逆側の手で頭を掻くが状況が状況。時雨は手を繋いだときから俯いたままで一言も発していない。


――どうしたものか……


そもそも何故自分がこんなに簡単に時雨と再会できたのかも疑問だし、何かもっと重要なことが抜けてるようで仕方がない。

自分の記憶は戦争、それからその収束。気がついたら墓地の入り口に立っていて、時雨の姿が見えた。

人口脳が戦争で故障なり不具合なりを起こしたのかという可能性も思考するが、だったらそもそも戦争以前の記憶はまっさらになっているはずだった。

それに、戦争時の記憶もそれほど鮮明ではない。


「えっと……あの……」

「みずきおにーちゃんだー!」「みずきー!」

「グフッ……」


微妙な空気にとりあえず何か話そうとした水仙に正面から陽政と雪乃は頭から水仙の鳩尾に突っ込んだ。

当然水仙はその勢いで時雨と繋いでいた手を離してしまい、しかし一瞬ビキリと体を震わせた彼女に気づくこともなく地面にうずくまる。


「あれー?どうしたの?」「うれし泣きだー!」


うずくまって、痛みもあったがその衝撃で抑えていたよくわからない感情が表に出てきた。それはもう簡単に。

涙なんて。感情なんて。痛みなんて。

全部が自分にあるような気がしてもうその奔流はすべてが涙となってあふれ出した。

砂利を敷き詰めたような、それでいて硬くもない地面にポツポツと染みを作っていく。

その背中に時雨の手が添えられて。

水仙は今、自分がアンドロイドだとか記憶がどうだとか、感情とか肉体とか全てがどうでもよくなって、背中に感じる小さなぬくもりで自分を実感した。


「あ、ありが……とう……」


多少つっかえながらも、それが一番だと感じていたから。

感じることができたから。


「……おかえり」

「おかえり」

「おかえりー」「おかえりー!」


その日学んだ新たな感情。

それこそが、『感情』だった。

それから車に乗って水町家へ帰るまで1時間。

瀬矢も、時雨も、陽政も、雪乃も、そして水仙。

皆一緒に。

新しい生活に。

新しい日常に。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



カタカタ……とキーボードを叩き続ける音。

コツコツ……と革靴で部屋を歩き回る音。


「ねぇねぇ、アーネちゃん」

「……」

「アーネちゃーん」

「……」

「……水町くん」

「なんでしょうか?教授」


キーボードを叩く手を止めて水町アーネは奏葉の方を振り返った。

奏葉も歩き回るのを止め、それで始めて部屋に静寂が訪れる。


「まだ『脱走アンドロイド』は捕まんないの?」

「そのような報告はまだ受けておりません」

「うん、まーそりゃそうだよね」


水町から視線をずらす。その先。

群青と灰色を混ぜたような扉の向こう側が見えているかのように目を凝らす。

その扉の向こう側。

それこそが彼の今の研究対象だった。


「ま、僕は気長に『アレ』の解析をすすめるよ。」

「データはこの前のウイルスでダメになったのでは?」


そう、水仙の脱走のときに使用されたウイルス。それは研究所の大半のパソコンに侵入し、大量のデータを食い荒らしていった。

事実、水町のパソコンもかなり復旧に時間がかかっていた。


「いやいや。この天才の僕が何の対策もしてないはずがないでしょ」

「バックアップですか?」

「それもやられたよ」

「では……どこに?」

「知ってる?」


唐突に奏葉は人差し指をピン、と立てた。


「人間の脳は巨大なハードディスクなんだよ」


その人差し指をこめかみに当て、ニヒルに笑いながら、


「僕は今まで研究したデータの全てを記憶している。」


と何事でもないかのように言い放った。

その異様さに水町は一瞬魅かれるが、それはあくまで一瞬。


「はぁ、それは凄いですね。」

「信じてない顔だね……」

「いつも通りですが?」

「君はいつも僕を信用してないの?!」

「今更です」

「え?!それいつから?」


またしても忙しくキーボードを打ち始めた水町に奏葉が構ってもらえるはずもなく。

ちょっとしたシリアスムードはすぐに崩壊し、いつもの光景が戻ってくる。



「んーまぁもう少し様子をみようかな。それまでせいぜい楽しむんだね。水仙」

「誰に向かって話しているんですか」

「今のはそっとしておくところだよ?!」




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