肆”力と知”
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大きな手。人を守り支え、愛情を伝える。そんな手。両親から手から。様々なことを学び覚え、育つ。ダメな時に少し叩かれ、良いときは優しく頭をなでる。そうして人は成長する。
私以外は。
「はっあっ…はぁ…はぁ…」
今日も嫌な夢を見た。怖い夢。誰かの大きな声と迫りくる恐怖。曖昧にしか見えない視界に強い迫力。映画やアトラクションじゃない。恐怖が入り混じる恐ろしい夢。時刻は9時。音声時計はそう私に知らせてくれた。
今日は友江おばちゃんは家にいない。友江おばちゃんの息子さんに会いに行ってるらしい。久々の一人の朝。特にすることもなく、枕もとのラジオの電源をいれ、ニュースを聞き音楽を聴く。少しのんびりとした朝だ。日曜日の朝は私の好きなパーソナリティが1時間番組を進行している。凄く明るく話してくれる人で、聞いている側もつい笑ってしまう。
今まで何も無かった日常に高校という新しい世界がある。楽しい。こう思えるのは本当に久々。少し事件もあったけど、それもまた日常に戻った。私、笑えてる。少し浮ついた気持ちになっても、いいと自分を許すことにした。
夜になり、友江おばちゃんは夕飯の食材と共に帰ってきてくれた。
「おひとりで大丈夫でしたか?」
「うん、今日は息子さんの所にいってたの?」
友江おばちゃんは少し溜息をついてから改めて口を開いた。
「私の息子、もう30歳にもなるのに彼女の一人も作らないの。まったく親孝行しない息子なんだから…って早苗ちゃんには本当に関係ない話ですね。ごめんなさいね」
少しふふっと笑って、台所の方に足音を消していった。
親孝行。私の親はどこにいるんだろう。お母さん。お父さん。お母さんはわかるけど、お父さんの顔が出てこない。というか声もよくわからない。実はいなかったりして。いやいや、私が生まれてきたんだ。両親のペアはいるはず。多分。
翌日の朝、いつも通り登校すると教室にはいつもの望佳ちゃんと彩芽ちゃんがいた。
「おはよう、早苗ちゃん」
「おっ、おはよう、早苗ちゃん」
私も元気に挨拶し、席に座った。
授業は正直、とても苦しい。黒板は見えないし文字も書きとれない。唯一の情報手段である点字が施されている教科書だよりに先生の言葉と意味を理解する。それだけでも精いっぱい。それでも点字タイプライターを使って、レポートの提出が出来たりと、なんとかこんとかギリギリ成績を作ってくれている。
やっとの思いでお昼ご飯。お弁当を広げようとバッグに手をかけた瞬間、望佳ちゃんが急に私の左手を取って声をかけてきた
「トイレ大丈夫?私たち今から行くんだけど、一緒に行く?」
「トイレ?あー。そうだね、せっかくだからしておく」
そのまま手を引かれて教室を後にする。お弁当は机の上に広がったまま。バッグは口が開いたまま。水筒はまだ一口しかつけていない。椅子も出しっぱなし。そんな状態で後にする。
望佳ちゃん案内されながら歩いていくと、ガラガラっと音がした直後冷たい風が私たちを包み込む。
「あれ。トイレじゃないの?ここ、玄関だよね?」
「・・・」
望佳ちゃんから返事がない。上靴のまま玄関の外に出た。少しすると砂利道になり、太陽の光で暖かく感じてた顔が光が無くなり冷たくなった場所。少し湿っぽく、近くからゴーっと機械が動く音がする。ここはどこなんだろう。
「ねぇ早苗ちゃん。」
急に望佳ちゃんの声が目の前から聞こえた。
「どうしたの…?」
「迷惑って言葉って知ってる?」
「うん。わかるけど…」
「どんな意味か。教えて?」
「え…?えっと、他の人が不快に感じたりすること…?」
私が知っている範囲で答えるとお腹の真ん中に強い衝撃を受けた。あまりの衝撃によろめき、ウッと小さなうめき声が出た。
「そうよ。その通りだと思うわ。それが今のあんた。」
「・・・えっ」
お腹を押さえ、中腰で立っている私の上から話しかけてくる。
「先生も、クラスメイトも。どれだけあんたに気を使ってると思ってるの。そもそも私たちは受験して合格したからこの学校で授業を受けてるの。それがなに。何も出来ない障害者が今更その年で勉強して。何が生まれるの。何が出来るの?そうやって大人の力に頼ってればいいものを。私たちは大学受験もこれから先あるの。あなたと違って、将来があるの。わかる?」
罵詈雑言を浴びさせられる中、一つ一つの言葉は私のかろうじで耐えていた心を簡単に砕いていく。何が出来る。頼る。将来が無い。障害者。私はその場で泣き崩れるしか出来ず、反論どころは呼吸自体も落ち着いて出来なくなってきた。話の途中途中で顔面に平手打ちや、重い蹴り。よろめいた先にはあるのは暴力。そうこうしているうちに、望佳ちゃんは喋る事を辞めた。
「はぁ…はぁ…私が仕方がなくこうやってクラスや学校の本音を教えてあげたの。ありがたいと思いなさい。」
すっかり弱り、立てず、丸まる事しか出来ない私に足を置き、
「あんたは早退したことにするわ。いいわね。もう来るんじゃない。私たちが働いたお金があんたみたいな人の生活費になるなんて嫌。一人でも少ない方がマシ。そのまま死ね。」
そう吐き捨てると、足音が遠ざかっていく。まだギリギリ意識のある中で冷たい地面に横たわり、小さく息をする事しか出来ない。少しずつ何処かへ落ちそうになっている時に一つ、見えたものがあった。この感覚が覚えていた。この意識。この痛み。この体勢。心のぐしゃぐしゃ。
「お前なんて死ねばいい!!」
そういわれると強烈な平手打ちが私の顔面に当たる。軽い私は簡単に吹き飛ばされる。部屋の隅に横たわると、叩いたその手で私をつかみ布団へ投げ飛ばず。私はこの時もされるがままだった。強く蹴とばされ私はどんどん分からなくなる。どこを向いているのか。どこにいるのか。何をされて、何を言われてるのか。ただ一つわかる事は。
「お母さん・・・もうやめて・・・」
強い痛みと共に目を覚ます。いつもの暗闇。今日に限ってはこの暗闇に安心を感じる。それでも頭の中にはあの時言われた暴言がぐるぐるとリピートしている。周りの状況が一切わからず、ゆっくり首を動かす。それでも周りは一切見えない。ここはどこ。わかるのは私のではないベッドの上である。音も暴力の影響だろうか。かすかにしか聞こえない。わずかに動く右手を動かすと何かが手に当たる。ボタンのようなもの。小さな力でそれを握ってみると遠くからピーという電子音と共に足音が聞こえる。
「植田早苗さん。聞こえますか?」
私は男の人の問いかけに小さく頷く動作をした。
「大丈夫。ここは東邦病院です。大丈夫。もう安心していいよ。」
そう優しく伝えられ、少し待っててね。と先生は立ち去った。
そのあと伝えられたのは暴力による肋骨骨折。複数箇所の打撲。全治1か月との事だった。全身に傷はあるものの危険な症状はなさそうだ。
それでも私は、正直生きる意味は見いだせなかった。これじゃ死ねないんだ。そんな事を思ってた。社会にとって不利益しかもたらさない私。じゃあ、何のために生きてるの?そう聞かれた時に、私は答えを持ち合わせていなかった。
後日、ベッドに横たわるだけの私の近くに市の教育委員会の偉いらしい人が数人見舞いに来た。私は一言も発さず、怒りも悲しみもなく。ただ人の話を聞き。横になってるだけ。担任の鈴木先生は毎日放課後に来てくれた。それでも学校の事でもこれからの事でもなく、私に寄り添ってくれた。それでも私は何もない虚無を見つめ続け、植物人間のように息しかしない。1週間もしたら先生は来なくなった。教育委員会が一旦学校から距離を置こうとしたのだ。もう、私の居場所はどこにもない。友江おばちゃんは朝から晩まで隣にいてくれるけど、もう、いいよ。私はこのまま死にたい。誰も来ないで欲しい。そう思ってる。伝えたいけど私の心の中にある重りが喉を潰し、声が出ない。それでいい。そう思った。
1か月がたち、退院した。家に帰っても私はトイレ以外部屋から出る事は無かった。点字の教科書はゴミ箱に。好きだったラジオも中の電池が弾け飛ぶくらい強く投げ飛ばし、どこに転がってるかわからない。
ドアからノックの音が聞こえた。友江おばちゃんが部屋に来た。あまりの荒れ果てた部屋の中に驚いた声を出しながら、私の近くに来た。
「大丈夫かい。」
「私に生きる価値はないよ。そういわれて気が付いたよ。ママもパパもどこにいるかわからない。親孝行すら出来ずに人に迷惑をかける。」
友江おばちゃんは私の右手を優しく包みこむように手をつなぎ、話を始めた。
「早苗ちゃんのお母さんはね。会えない場所にいるの。早苗ちゃんはもう高校生だからわかると思うけど、いわゆる塀の中なの。」
「え・・・?なにしたの」
「それはね。早苗ちゃんから大切な大切な視力を取ったから。」
勿論驚いた。でもそれがリアクションとして出ることは無かった。何故か冷静に聞けた。
「早苗ちゃんが生まれてすぐ、お父さんと離婚しちゃって。そこからお母さんは借金にお酒が大好きで。それでも早苗ちゃんは元気な女の子でね。子育てって上手くいかない事の連続でストレスも多くなっちゃう。他のお母さんってそれを上手に落ち着かせて頑張るんだけどね。早苗ちゃんのお母さんはそれが苦手で。ご飯も早苗ちゃんには与えなかったり。ネグレクトって言うのかね。早苗ちゃんが5歳の夜。お腹が減って台所で泣いてる時にお母さんが来て、その場にあったコップを早苗ちゃんに投げてね…。」
「それでみえなくなったの?」
「そう…。あまりの大きな声で泣くものだから近所の人が分かってくれて。警察と救急車がすぐ駆け付けてくれて。それでも早苗ちゃんの視力はほぼ無くなっちゃったの。お母さんはそれで保護責任者遺棄で3年間刑務所にいたの。それでもすぐ出てきちゃう。それで私たちが早苗ちゃんを保護してもう会えないようになっちゃったの。早苗ちゃんを一番に守る為なの。」
「…。そう…。」
「今、飲み物持ってきますね」
そういって立ち去っていった。
お母さんは私を捨てた。社会には必要とされていない。友江おばちゃんのような人にまで迷惑をかけている。先生にもクラスメイトにも。
迷惑をかけたくない。せめて静かになりたい。全てを捨てたい。
机の引き出しにはカッターがあった。
こんにちは。鈴木 湊です。
気が付けば高校生活も終わり、専門学生になってしまいました。
このblackworldは高校生の時なのかな…?(笑)
もう何年もダラダラと続けてますね。
今回はあまり良い内容とは言えません。
早苗ちゃん。心配ですね…