参 ”恋と故意”
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昨日の朝のような重い気持ちは何処かへ飛んで行った。いや、彼が飛ばしてくれたのかもしれない。香川君が私に言ってくれた。「明日からまたおいで?」の一言。とても心から温かくなった。今日はしっかり学校に行こう。どんなことがあっても。。。
友江おばちゃんが起こしに来てくれた時にはもうベッドから出て、着替えも済ませていた。
「おぉ。今日はずいぶんと早起きですね。良いことですよ。さぁ、朝ごはんが出来ていますよ。」
いつものように階段を降り、椅子に座り、ご飯を食べる。当たり前って幸せなんだなと心から思った。
学校に着いて白杖を受け取り、校内に踏み入れる。教室に到着すると一昨日よりざわざわしている。皆私の方を見て嘲笑ってるんだ。私が惨めに廊下の真ん中で失禁したことを。高校生にもなってなにしてるのかと。やはり帰ろうかと教室の扉を閉めかけたところに私を呼ぶ声が聞こえた。
「植田さん!おはよう!ちゃんと来れたじゃん!」
この声は香川君だと一瞬で分かった。
「あ、うん。おはよう。」
香川君は私に歩み寄り耳の近くで囁いた
「今帰ろうとしたでしょ~?大丈夫。みんな知らないから安心して大丈夫だよ。」
「う、うん。わかった。ありがとう」
彼のおかげでクラスの今の状況が分かった。皆クラスに慣れてお互いに和気藹々と世間話をしているだけだった。私の思い込みだったようだ。
「あ、あの…さなえちゃん…?」
この自信の無さそうな声…彩芽ちゃん?
「彩芽ちゃん?」
「う、うん。あのね。一昨日は本当にごめんなさい。私逃げちゃってさ…なんとお詫びしたらいいかわからないんだけど。許してもらえますか…?」
彩芽ちゃんの声質からして本当に申し訳ないように思っているように感じた。だから
「ううん。気にしなくていいよ。むしろありがとうね。助けようとしてくれて。嬉しかったよ」
「うわ~ん!!本当にごめんねぇ‥‥!!」
泣きながら私に抱き着いてきた。私よりも小柄な女の子であることが分かった。大丈夫ありがとう。と言いながら私は、彼女の頭を撫でた。
そんなことをしていると遠くで香川君と誰かが話している声が聞こえた。
「ほら。お前も謝れ。お前は彩芽ちゃんの親切な心も殺し、早苗ちゃんのプライドも殺した。しっかり謝れや。ほら。早く。」
何やら怒った口調だった。その直後、私の目の前に誰から立っているのを感じた。
「ごめんなさい。」
「のぞか…ちゃん?」
彼女は私の手を握って、
「本当にごめんなさい。許してほしい」
「大丈夫だよ。のぞかちゃんも急いでたんでしょ?私はもうきにしてないから。大丈夫。」
「ありがとう。本当にありがとう」
これで解決した。三人でまた一昨日の昼休みのように笑っていると鈴木先生がHRの為に入ってきた。
「おはよー。HR始めるから席に着きなさいー。そこ、スマホはしまえー。」
これでまた楽しい高校生ライフをリスタート出来る。そう思った。
放課後にジャンパーを着て帰る準備をしていると、後ろから肩をポンポンと叩く感触があった。振り返っても目の前には相変わらずの暗闇が広がっているだけだが、声は聞こえる。
「さなえちゃん?放課後暇?って誰かわらんよね…俺だよ。りょうすけ。香川諒介」
「あぁ、香川君だったのね。どうしたの?暇っちゃ暇だけど…?」
「ちょっとさ、これから遊びに行かない?遊びっていってもごはん食べに行く感じなんだけど…。」
香川君からごはんのお誘いが来た。私はどうしたらいいかわからなかった。こういうのは行ってもいいのだろうか。友江おばちゃんになんといったらいいのか。それとも断るべきなのか?色んな事を考えてみたが私は高校生だ。女子高校生なのだ。遊びの一つや二つ。目が見えなくても女子高校生を満喫したっていじゃないか。
「うん。いいよ。今友江おばちゃんに連絡するからちょっと待っててね。」
友江おばちゃんからは楽しんでおいで。と問題なさそうだった。彼の腕につかまりエスコートされるように学校を後にした。彼の腕はやっぱり男の子らしく太くたくましかった。大人の男性には何度も補助してもらったことがあるが、同級生は初めてだった。何か少しドキドキするような気がした。聞くと彼は私と出掛けるために誘導方法を勉強してくれたらしい。
「着いたよー」
自動ドアを抜けるとほろ苦い香りが全身を包み込んだ。ジャズチックなBGMと共に静かな空間。ここはカフェ?か喫茶店のようなところだろうか。
「珈琲って飲める?」
香川君は珈琲を嗜むようだ。
「私はあんまり得意ではないかも…?」
「ここの珈琲は苦手でも本当に美味しく感じられるんだよ。試してみない?」
「うん。そこまで言うなら飲んでみたいかも」
点字にて書かれたメニュー表を渡され読んでいくと『なめらかなクレマが特長で、しっかりした味わいとすっきりした苦味が楽しめる珈琲です」と一番大きく書かれていた。私はそれを注文した。
席に案内してもらって、珈琲の到着を待った。
「なんかちょっと前におうちお邪魔したときあったけど、落ち着いて話す機会なかったからさー…」
「あのっ。今日はありがとうね。二人が謝ってくれたおかげで仲直りできそうだよ」
私は今日の朝の出来事について感謝を述べた。すると彼は意外な声を発した
「うーん…それはそれでいいんだけどね?あいつらの事だ。絶対これで終わらない気がするんだよ」
「え?」
終わらない…?今日の朝確かに二人は泣きながらでも謝ってくれた。目が見えないとか関係なしにその誠意が伝わってきた。諒介君は一体何を疑っているのだろうか…
「諒介君。それは考えすぎだと思うよ?だって、のぞかちゃんもあやめちゃんもちゃんと謝ってくれたもん。大丈夫。」
「そう…?さなえちゃんがそういうならいいんだけどさ…」
そうこうしてるうちに店員さんが珈琲を持ってきてくれた。お店に入ったときと同じほろ苦い匂いが伝わってきた。一口頂くと全身に珈琲の苦みと同時に鼻を抜ける香ばしさ。それでも苦すぎるわけではなく、ふわっと香るとすっと抜けていくすっきりな感覚。落ち着く感覚が体を支配した。
「これ美味しいね!」
「だろ?ふふ~ん♪」
諒介君は満足そうに笑った。
家に帰っても珈琲のおかげで身体がぽかぽかしていた。今日もまた濃い一日を楽しんだ。友達と遊んで放課後にお出かけして。私が幼い頃に見たドラマそのものだった。あのヒロインは毎日学校でも笑顔で友達と毎日遊んでた。でもそれは門限を破るようなものではなくて、ちゃんと勉強しながら大学にも合格するほど。今でいう『リア充』ってものだろうか。あのヒロインに彼氏がいたかどうかは覚えていないが、それでも幸せそうな毎日だった。こんな高校生活が三年間しか送れないのは少し物寂しさを覚える。
ソファで点字印刷の本を読んでいると家の固定電話が鳴った。友江おばちゃんは夕飯の支度中だったので私が出ることにした。
「はい。植田です。」
「もしもし、夜分遅くに失礼します。東邦中央高校の鈴木です。植田早苗さんかな?」
「あっ。先生。こんばんは。」
「こんばんは。今日のね?朝のHR前にのぞかさんとあやめさんが泣いてたのが気になってね?何かあったのかい?」
先生は朝の時のぞかちゃんとあやめちゃんが鼻をすすってたのが気になっていたらしい。
「いえ、前にちょっとしたことがあって。でも大丈夫です!仲直りしたので!」
「あぁ。そうだったのかい。解決したなら問題はないけど…。何か問題があったら悩まないでヘルパーさんや先生に相談してね?言いにくかったら学校の相談員さんでもいいからね?」
「お気遣いありがとうございます。何かあったら頼りにしています。」
そういって、電話を切った。友江おばちゃんが電話の内容を聞いてきたので、学校での調子を聞かれたと答えた。
眠る前に私は目が見えなくなった理由について考えた。失明してから何度も考えたけど未だ結論にはたどり着いていない。幼少期の記憶がちょっと残ってるだけで、その次は目が見えなくなってからの記憶しかない。でも一つだけ記憶というよりも感覚が残っている。
「たまに起こるあの怖い感じと悲しい感じで胸が苦しくなるのはなんでなんだろう…」
夜中、目が覚めると何かが襲ってくる恐怖のようなものでドキドキし、独りぼっちな感覚に陥る。その二つが混ざり合って、身体が小刻みに震えだし、息苦しくなり、脈が速くなる。この感覚は目が見えなくなる前から度々起きていた。でも昔はもっと苦しかったような気もした。
そんなことを考えてると、もう寝ていた。
明日も明後日も来年も十年後もずっと。死ぬまで私は暗闇の中で答えのない正解を探して歩き続ける。私の人生って何故あるのだろうか。生産性のない人間なのではないだろうか。毎日私はそれを虚無な空間に投げかける。返事はない。
私はまだ、今を生きるのに精一杯なのかもしれない。
皆様、今回も読んでいただきありがとうございます。作者に鈴木湊と申します。
今回は少し短めな回だったかと思うんですが…別に手抜きではありません。
私は私の書きたいときに書いているので納期とかは発生しないので、結構自由に書かせていただいております。せかされることは多々あるのですが笑
私的にはいろんな方に読んでいただければ幸いです。特定の誰かのためには書いていなくて、常に新規のリーダー様へ向けて作成しております。周りの方にも是非薦めてください笑
それでは次回も気長に待っていただけると幸いです。
鈴木湊