少女と毛櫛
俺は、広場でもふもふさんを見終わった後、しばらくしてから再び宿に向かって歩き始めた。
思い起こされるのは、先ほどの広場での景色、そして彼が残していった言葉だ。
「モフリストかー」
そう思わず言葉がもれる。正直ものすごく魅かれる。しかし、悲しいことにこの世界にきたばかりでお金も何もない。とりあえず、モフリストについて考えるのは、一通り生活基盤がそろってからだなと、余所事を考えていたのが良くなかったのであろう。前から来た人とぶつかってしまったのだ。
「きゃっ!」
軽い悲鳴をあげて、相手は地面に倒れてしまった。ぶつかってしまった相手はどうやら少女のようであった。俺はあわてて相手の方を向いて手を差し出す。
「す、すみません。大丈夫ですか?」
ありがとうございますと言いながら俺の手を取り彼女は起きあがった。ぱっと見た限りは、彼女に怪我はなさそうである。そのことにひとまず安堵し、ひとつ息を吐く。
「いえ、こちらこそごめんなさいです。ちょっと急いでいたものですから前が見えてなかったみたいですね」
彼女は、そう言ってこちらにぺこりと頭を下げる。その時、先ほどは気付かなかったが彼女の頭の上に青くてプルプルしてそうな生物がのっていることに気付いた。正直かなり気になったが、彼女が急いでいると言っていたので、そのことは頭の片隅へと追いやった。
「こちらこそ不注意ですみませんでした」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それでは、急いでますので先にいかせてもらいますね」
そう言って、彼女は再びぺこりと頭を下げると走り去っていったのだった。
とても丁寧な子であったなと思いふと下を見ると、おそらく彼女が落としていった物であろう毛櫛が落ちていたのを見つけた。俺は、そのブラシを拾うと急いで彼女が走っていった方向を見るもすでに彼女の姿はなかった。仕方ないので明日ギルドでリリアさんに聞いてみようと思い、懐にそれをしまうと宿に向かって歩き始めたのであった。
そうしてその後は、特にトラブルもなく無事宿に辿り着くことができた。さっそく俺は中へと入り、受付にてギルドから紹介してもらったことを話す。すると、すぐに受付の人は答える。
「ユーゴさんですね。お話はギルドからお伺いしております。こちらがお部屋のカギになりますね」
そう言って、俺にカギを渡したのだった。俺は、食事のことを聞くついでに俺の服の中で眠っていたコンを見せながら、相棒にも食事を貰えないかと尋ねる。すると、どうやらコンの分も含めて話は言っていたようで、コンの分ももらえるみたいで安心したのだった。
俺たちは、一度部屋に入ってすこしくつろいだ後、受付のあるロビーまで戻ってくると何やら見覚えのある人がイスに座っているのが見えた。その人は、あのときの少女だ。しかし、なにやら暗い雰囲気を醸し出している。俺は、彼女にあの時の落し物を返すために近づいていき、声をかける。
「あの、すみません。ちょっといいですか?」
俺の声に反応して、彼女は振り向くと少しだけ驚いた顔を見せて返事をする。
「あなたは、さっきのお兄さん?なんでしょうか」
「そうですね、先ほどぶりです。これは、あなたが倒れた場所に落ちていたのですが、ちがいますか?」
そう言って、俺は懐から拾ったブラシを取りだした。その時、俺の頭の上にいたコンは、俺の顔をぺちぺちと前足で叩いている。
「そうです!これ私のです。どこにいったんだろうと思ってたところなんですよ」
彼女は、驚いた表情を見せて、俺から受け取る。しかし、彼女の表情は、まだすぐれないままであった。それが気になった俺は、彼女に聞いてみる。
「何かあったんですか?」
彼女は、少しの間迷った後、実はと話しなじめた。彼女の話をまとめると仕事の依頼でこのブラシを届ける途中だったそうなのだが、あの衝突事件のあと、依頼主のところまでいったそうなのだが、このブラシが見つからなくて、すごく怒られてしまったそうだ。勿論仕事としても失敗に終わったそうで落ち込んでいたようである。
俺は、その話を聞いて罪悪感でいっぱいになった。そして、すぐさま彼女に謝罪する。
「俺のせいで、本当にすみませんでした」
俺は、そのまま土下座まではいろうかというところで彼女に止められる。
「わっ、わっ。そんな大丈夫ですよ。私の不注意も原因でしたし、最終的にはこうして拾っていただいて返していただいただけで十分ですよ」
そう言って彼女は軽く微笑んだのだ。
なんてええ子や、お金が稼げるようになったら彼女にこのおわびはしっかりとしようと俺はそう心に強く誓ったのであった。




