新たな力?
「えっ? ……クリア報酬?」
俺は、ディーちゃんの言葉に耳を疑う。水の試練をクリアした報酬って、さっき俺がもらったばかりの精霊のしずくのことではなかったのだろうか?
「ふふっ。ちなみに精霊のしずくは、クリア報酬じゃないわよ。最初に言ってたようにあれはあくまでもコンちゃんを見せてもらうのとユーゴ君に質問させてもらうことの交換条件だからね」
俺の考えていたことが顔に出ていたのか、あるいはディーちゃんという精霊だからこそなせる技なのか、まるで俺の心の中を読んだかのように、ディーちゃんは答えてくれる。
「……言われてみれば、確かにそう言ってた気がする」
よくよく思い返してみれば、確かにリーゼからそういう説明を受けた覚えはあったのだ。ただ、つい先ほどの出来事なのに俺が忘れてしまっていたのは、急遽ディーちゃんから水の試練と言われたことやその試験を受けているんだという感覚が強かったのが原因だろう。
「ふふっ、そういうことよ。さて、肝心のクリア報酬なんだけど……、その前にあなたが右手につけているその指輪、ニーナが作ったものよね?」
ディーちゃんは、面白い物を見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべると、俺の右手につけられている指輪の方を指さす。
「えっ!? なんで分かったんですか? っていうかニーナちゃんのことも知ってるんですか?」
「ふふっ。ニーナのことはよく知ってるわ。最近はほとんど会ってないけど、そもそもリーゼと知りあうきっかけになったのが、ニーナだからね。それと、なんで分かったかというと、ニーナが錬金術で作った物を色々と見てきたから、ある程度は見た感じで分かるのよ」
ディーちゃんは、どこか優しい笑みを浮かべている。その笑みが意味するのは、おそらくニーナちゃんとディーちゃんの仲の良さだろう。ただ、時折その笑顔になんだか寂しさのようなものが混ざっているように感じるのは、俺の気のせいだろうか。最近は会っていないということなので、彼女の心の内のどこかには、ニーナちゃんに会いたいという気持ちがあるのかもしれない。
「そうだったんですね。お二人は仲が良いんですね。その……余計なお世話かもしれませんが、ニーナちゃんに会いに来てもらえるようにお願いしてみましょうか?」
「あら? そんなに寂しそうに見えたのかしら。……ふふっ、気持ちだけ受け取っておくわ。ありがとうねユーゴ君。でも大丈夫よ。きっと、近いうちにニーナと会える機会がある気がするから」
ディーちゃんは、にっこりとほほ笑みかけると、俺の頭を撫ではじめる。
突然のディーちゃんからの撫で撫でに、俺は思わずあたふたしてしまう。
「い、いえ! その、それなら良いのですが……」
「あら? ユーゴ君恥ずかしがってるの? ふふっ、可愛いわね。……ってからかうのはまた後にして、そろそろ本題に入らないとね☆」
途中からからかうように俺の方を見ていたディーちゃんは、一度深呼吸をすると真面目な表情で改めて俺の方を見つめる。
「その指輪のことなんだけど、面白いことにそこに装飾されている宝石に魔法を込めることができるみたいね」
「ええっ!? ほんとですか?」
これがただのアクセサリーだと思っていた俺は、衝撃の事実に思わず叫ぶ。
ニーナちゃんからは、特に何もそんなことは聞いていなかったのだが、どうやらこの指輪にはそんな隠された力があるらしいのだ。
「えぇ、ほんとよ。それで、本題のクリア報酬なんだけど、その宝石の一つに魔法を込めてあげるわね」
ディーちゃんは、そう言うと、俺が何か言い返す暇もなく、俺の右手につけられた指輪に顔を近づけていくと、そこに装飾されている宝石の一つに口づけをする。
「ちょっ……!」
俺が言葉を発するのと同じぐらいのタイミングで、俺の右手の指輪が青白く光輝いて、俺の視界を一瞬にして埋め尽くすと、数秒もしないうちに光は消え去っていき、指輪に装飾されている宝石の二つが綺麗な澄んだ青色に染まったのだ。
「……一体何が起こったんだ?」
「ユーゴ君。さっきので、無事その指輪に魔法を込めることができたわ。……でも間違って二つ込めちゃったけど許してね。てへっ☆」
ディーちゃんは、可愛らしく笑ってごまかそうとしている。その仕草は、実にあざとい感じだ。ただ、俺には、何故ディーちゃんが誤魔化そうとしているのか全く分からない。むしろ、二つも魔法を込めてくれたことはありがたい限りなのだ。
「は、はい。ありがとうございます! ……でもそれって何か問題あるんですか?」
「ユーゴ君。実はね、魔法を込めれる宝石が五個しかないの。しかも一度その宝石に魔法を込めてしまうと変えられないみたいなのよ。そんなつもりはなかったんだけど、その中の二つ分を取っちゃったからね。本当にごめんね」
ディーちゃんは、先ほどと違い今度は申し訳なさそうに俺に頭を下げる。最初は、誤魔化そうとしていたが、彼女の言葉通り、限られた枠を余分にとってしまったことをはじめから悔んでいたのだろう。
「えっと……、大丈夫ですよ。魔法を使えない俺にとっては、使えるだけありがたいですからね。それに、二つも魔法が使えるとなると、どんな魔法かはわからないですけど、自分のできることも増えるはずですから。それが何であれ、これまでのようにコンの力だけを頼りにしてしまう悔しい思いをしなくてもよくなるかもしれないですからね。だから、むしろ二つも魔法を込めてもらってありがとうございます!」
「……ユーゴ君。ありがとうね」
ディーちゃんは、俺の言葉に少しの間驚いた表情を見せたあと、俺ににっこりとほほ笑みかけたのだ。俺は、そんな彼女の様子を見て、ほっと一安心したのである。
「ディーちゃん。それでどんな魔法を込めてくれたんですか?」
「ふふっ。それはね……、せっかくだからリーゼとコンちゃんにも見てもらいましょ☆」
ディーちゃんは、何かいたずらを思いついたような怪しい笑みを浮かべると、俺に二人を呼んでくるように言ったのであった。




