精霊のしずく
お久しぶりです。
それでは、さっそくどうぞ!
俺とコンを乗せた水龍は、リーゼが待ってくれている湖の近くまで俺たちを送ると、そのまま水の中に潜っていき、姿を消していったのだ。俺は、水龍の姿を最後まで見届けると、リーゼの元まで近づいていく。
「ユーゴさん! 大丈夫でしたか?」
リーゼは、俺たちの姿に気がつくとどこか心配そうな表情で、慌てて俺たちの方へと走ってくる。その様子は、ひどく不安そうだ。
俺は、そんなリーゼの様子にどこか違和感を覚える。元々、リーゼから今回のことを聞いていたということもあり、俺たちがディーちゃんと何をしていたのか知ってるはずなので、リーゼがこんなにも不安に思うことはないはずなのだ。明確にはされていないものの、俺たちの出来によっては素材がもらえないかもしれないという不安はあるかもしれないが、そんなことを気にするような人ではないはずなので、余計に気になるところである。
それはともかく、このままリーゼが不安そうにしているのは、申し訳ないので、ちゃんと大丈夫だということを伝えてあげよう。
「大丈夫だよリーゼ。無事素材ももらえるみたいだから」
「ユーゴさん……。いえ、素材のことは大丈夫なのですが……。ユーゴさん達が水のドームに閉じ込められた時は、とても心配で……。とにかく無事戻ってきてくださって本当によかったです」
「心配してくれてありがとうリーゼ。でも大丈夫だよ。特に戦ったりしたわけでもないからね。俺も閉じ込められた時は焦ったけど、ディーちゃんにも事情があったみたいだし」
俺の言葉を聞いて、ようやく一安心したのか、リーゼは一つ息をついた。
「とにかくご無事でよかったです。……あそこまでやるなんてディーネは言ってなかったのに。後でお話しとかなきゃ」
リーゼの顔にようやく笑顔が戻ってくる。俺は、そんなリーゼの様子を見てホッとしたのだ。ただ後半、リーゼが何を言ったのか聞きとれなかったのが少し気になるところである。
「ユーゴくん、お待たせ。約束の物用意してきたわよ」
ディーちゃんは、湖の中から飛び出てくると、ニコニコとしながら俺たちの元までやってきたのだ。そして、俺の手をとると、おそらく約束の物だと思われる物を渡してくる。
「これは……、小びんに入った液体?」
「もう、液体ってひどいなぁ。これでも結構貴重なものなんだよ。それがリーゼの求めてた素材――精霊のしずく、よ」
俺は、ディーちゃんから渡された小びんに入った液体、もとい精霊のしずくをじっくりと見てみる。それは、とてもきれいな透き通った青色をしていて、どこか見る者を魅了するような、そんな印象だ。これが、錬金術の材料になるみたいだが、精霊のしずく単体としても何か効果を持っていそうな気がする。
「ふふっ。ユーゴくん、あんまりじっくり見られたら恥ずかしいわね」
ディーちゃんは、何故か身体をくねらせて少し恥ずかしそうにしている。そんなディーちゃんの行動に俺は、思わず首を傾げる。正直、これのどこに恥ずかしそうにする要素があるのかは全く分からないので謎だ。
「ディーちゃんは、一体何をやってるんだろう……」
「おそらくディーネの悪ふざけだとは思いますが、その……精霊のしずくって精霊の身体の一部を使って作られた物なんですよ。だから、恥ずかしがっているそぶりを見せているんじゃないかなと思います」
俺の独り言が聞こえていたのか、リーゼは、少し呆れたような目でディーちゃんの方を見ながら教えてくれる。
「な、なるほど……?」
なんとなくリーゼが言わんとしてることは、分かるような気がする。あまり深く考えるのは、よくなさそうだが、精霊のしずくは、ディーちゃんの身体の一部からできたもので、俺が貰った精霊のしずくは液体で、おそらくだがディーちゃんの身体自体も水のようなものでできている。つまりは……、いやこれ以上はよしておこう。
「もう。リーゼってばひどいな~。本当に恥ずかしいんだよ。私の大事な一部をユーゴ君に見られているようなものだからね」
ディーちゃんは、相変わらず身体をくねらせながらも心外だと言わんばかりにリーゼに抗議している。何とも器用な人……いや、精霊だ。
俺は、そんなディーちゃんの姿を見なかったことにすると、改めてリーゼの方を見る。
「リーゼ! はい、これ」
「あ、ありがとうございます。ユーゴさん」
俺は、手に持っていた精霊のしずくをリーゼにそっと手渡す。
リーゼは、突然のことに少しだけ驚いた様子を見せたもののすぐに受け取ってくれる。
「ひとまず、これで一つ目の素材はいいんだよね?」
「はい、そうですね。これで一つ目の素材は、大丈夫です。ユーゴさん、本当にありがとうございます」
リーゼは、俺に頭を下げると、とても嬉しそうな笑顔を浮かべたのだ。そんなリーゼの姿につられて俺も笑顔を浮かべる。
「こゃ!」
コンは、俺たちの楽しそうな雰囲気につられたのか、服の中から顔を出すと、一気に俺の肩の上まで駆け上がり、そこからリーゼの肩の上へと飛び移っていく。そして、少しの間リーゼの方をじーっと見つめると彼女の顔をペロペロと舐めはじめたのだ。おそらくコンは、俺たちの先ほどのやり取りを聞いていたのであろう。その様子は、頑張ったよ! ほめてほめて、と言わんばかりである。
「ふふっ。コンちゃんもありがとうね!」
リーゼもそんなコンの様子に気づいたのだろう。コンに声をかけながら、その頭を優しく撫でてている。コンもとても嬉しそうだ。
「ユーゴくん!」
コンの姿を見て和んでいる俺の目の前に、突然頬を膨らませたディーちゃんが出てきたのだ。
「うわっ! えっと、ディーちゃん? どうしたんですか?」
「ユーゴくん。無視するなんてひどいよ~。それと私もコンちゃんを撫で撫でしたい!」
いかにも怒っていますといった感じのディーちゃんであるが、彼女の目線は、時折リーゼと戯れているコンの方にそそがれていて、どうやら本音としては、最後にもれでたコンがお目当てのようである。
「きっとコンも喜んでくれると思いますので、ぜひどうぞ」
俺としては、特に拒否する理由もないので、コンの方を指し、承認する。勝手に承認してしまったが、おそらくコンも拒否したりはしないと思うので、大丈夫だろう。
「わーい! たっぷりとコンちゃんのもふもふ成分を貰わないとね。……って、それは後回しにして、ごほん。ユーゴくん、さっき受けてもらった水の試練をクリアした報酬をお渡ししますね」
コンをモフれることに喜んでいたディーちゃんだが、途中で何かを思い出したのか真面目な表情を浮かべると、妖しげな笑みを浮かべながら俺にそう言ったのであった。
じつは、精霊のしずくをもらうのに試練をクリアする必要があるとは言ってなかったりします。
あくまでもユーゴの解釈なので……。
(もし、ディーちゃんがその手のことを言っていたらすみません。)




