ユーゴの答え
かなり遅くなってしまい、すみません。
それではどうぞ!
「……えっ?」
ディーちゃんになんだかとてつもなくスケールの大きい質問をされたような気がした俺は思わず彼女に聞き返す。争いがあるとかなくならないとか、きっと気のせい……だよな。
「も~、ユーゴくんったら……。これでも試練だから聞きなおしは、で・き・な・い・ぞ☆」
ディーちゃんは、物凄く良い笑顔を俺の方へと見せている。
普段であれば、その彼女の飛びきりの笑顔にドキドキしてしまうところなのだが、俺はその笑顔から、どこか底知れない恐怖を感じてしまっているのだ。別の意味でドキドキである。
「あはは……。ごめんなさい」
俺は、すぐにディーちゃんに謝ると、改めて彼女から質問された内容を頭に思い浮かべていく。ざっくりと先ほどの質問の内容をまとめてしまえば、『争い』も『もふもふ』もない世界をとるか、『もふもふ』も『争い』もある世界をとるか、といった感じだ。正直、スケールの大きい話なだけにどこか頭もついてこないところはあるが、とある言葉がそこに出てきている以上、すでに俺の答えは決まっている。
「俺は……、もふもふの……コンたちがいる世界を選びます!!」
「そう……。どうしてそちらの方を選んだのかしら?」
ディーちゃんは、真剣なまなざしで俺の方を見つめてくる。その表情には、嘘や偽りは決して認めないという強い意志が感じられるのだ。普段の俺であれば、嘘や偽りがなかったとしてもその強い視線にやられてしまうところなのだが、今回ばかりは少し違う。勿論、嘘を言ったつもりもなければ、自分の心を偽ったわけでもない。もふもふ……コン達の話である以上、俺は決してひるむわけにはいかないのだ。
「それは、俺がコンと一緒にこの世界を生きてきたからです!」
俺は、一度そこで言葉を切ると、自分の思いを絶対に伝えるという強い意志を持って、改めてディーちゃんの方を真直ぐ見つめる。
「もう気付いてるかもしれないけど、俺はこことは違う世界から来た迷い人です。この世界の知識も常識もお金もない、そんな俺だけどコンがいたからこそ、リーゼ達色んな人と出会い、助けてもらえた。コンがいたからこそ、この世界で生きていくための術を手に入れられたんです」
「迷い人……そうなのね。ユーゴくんは、そんなコンちゃんに助けられたからこそもふもふがいる世界を選んだのね」
「えぇ、そうですね。本当は、『争い』がない世界の方が最善なのかもしれない。それでも、コン……いや、『もふもふ』がいることで人と人の縁を結ぶことができる……。人と人の間に『もふもふ』がいるからこそ争わずに力を合わせることができる。そんな無限の可能性が広がってるんだと思います! 俺は、そのことをこの世界に来てコンと共に生きていく中で学んだんです」
俺の拙い言葉を最後まで真剣に聞き入れてくれたディーちゃんは、俺とコンの方を見た後、なにやら頷いている。その後、ディーちゃんはなにかブツブツとつぶやき始めたのだ。俺にはディーちゃんが何を言ってるのか全く聞きとれないのだが、おそらく先ほどの俺の言葉を判断しているのだろう。俺としては、ひとまず自分の伝えたいことは話せたつもりなので、どうなるにせよディーちゃんの判断を待つだけだ。
「さっきのやりとりで素材がもらえないかもしれないと思うと、めっちゃドキドキしてきた……。もし、そうなってしまったら罪悪感がやばい」
俺が内心不安に思っていると、頭の上から伸びてきた小さな手にペシペシと叩かれる。
「こゃ!」
コンは、大丈夫だ、と言わんばかりに鳴くと、俺の肩の上まで下りてきて、俺の顔をペロペロと舐める。その様子は、俺の不安を精一杯取ろうとしてくれているようであったのだ。
俺は、そんなコンの頭を優しく撫でると、再びディーちゃんの方へと向き直り、おとなしく待つのであった。
少しの間、俺たちがディーちゃんのことを静かに見守っていると、彼女の中で結論が出たのか、再び俺たちの方を真直ぐ見つめると、二コリと笑ったのだ。
「ふふっ。ユーゴくんの気持ちは、すごく私に伝わってきたわ。あの質問に答えなんてないのだから正解だとは言えないけど、とても素敵な答えでした。あなたのその覚悟と気持ちは変わらないで欲しいわね」
ディーちゃんは、先ほどまでとは違い、とても優しい声で俺に語りかける。その顔は、どことなく嬉しそうで、俺の答えに満足してくれたようなのだ。
「ありがとうございます。それじゃあ試練の方は……」
「えぇ、勿論、合格よ。約束のもの……を渡す前に、元の場所に戻すわね」
ディーちゃんが、指をパチンと鳴らすと、俺たちを取り囲むようにしてあった水の柱が一気に崩れ去っていき、元の風景へと戻っていく。
「私は、約束のものを準備してくるから、ユーゴくんは、先にリーゼがいるところまで戻してあげるね。リヴァちゃん、お願い!」
ディーちゃんの言葉を聞いた水龍は、その場で一回転すると、リーゼが待ってくれているであろう場所までゆっくりと飛んでいったのであった。
 




