ポテトとクルミ
かなり遅くなってしまい、すみません。
それではどうぞ!
「ユーゴさん。お待たせしました!」
リーゼは、ディーちゃんとの話し合いが終わったようで、俺の方へと近づいてくる。俺とディーちゃんの挨拶が終わった後、リーゼは、何やら彼女と二人で話すことがあったようなのだ。
「あぁ、大丈夫だよ。この子たちと遊んでたからね」
俺は、両肩に乗っているハリリンとミミリスを顔で指し示す。ハリリンは、マイペースなのか、そのまま俺の肩の上で寝ている。一方で、ミミリスは、尻尾をゆさゆさ振りながら俺の顔をその小さな手でぺたぺたと触っている。正直、少しこそばゆい。ちなみに、コンは、俺の服の中から顔と前足を出して、ゆらゆらと揺れているミミリスの尻尾を見ている。
「えっ? もうこの子たちと仲良くなってるなんて……!」
リーゼは、とても驚いたような顔で、俺の方を見ていたのだ。その表情は、この短時間で仲良くなるなんてありえないと言わんばかりである。
「えっ? そんなに驚くことなのか?」
「あはは……。実は、ポテトもクルミもほとんど人には懐かないものですから」
リーゼは、少し困ったような顔で俺に微笑みかけると、それ以上そのことについて話すことはせず、俺の肩の上にいるハリリンとミミリスの頭を優しく撫ではじめたのだ。
「きゅい!」
「ぴきゅ!」
ハリリンは、一瞬鳴き声を上げたもののリーゼに撫でられながら相変わらず眠ったままで、その顔はとても幸せそうにしている。一方でミミリスは、眼をつむってリーゼに撫でられるがままにされているが、その尻尾は大きくゆさゆさと揺れていてとても満足そうだ。
「こゃ!」
コンは、そんなハリリンとミミリスをうらやましく思ったのか、自分も撫でてと言わんばかりにリーゼの方を見ている。俺の服の中では、コンの尻尾はゆさゆさと振られており、どこか期待しているような感じだ。
「ふふっ。コンちゃんもちゃんと撫でてあげるからね」
リーゼも俺と同じように感じたのか、コンに優しい目で微笑みかけると、その頭を撫で始めたのだ。コンは、とても気持ちよさそうにしていて、俺の服の中では、先ほどよりも激しく尻尾を振っている。
少しの間、俺はそんなコンたちを見てほっこりとしていたのだ。
「リーゼ! 今さら何だけど、さっき呼んでた『ポテト』と『クルミ』ってこの子たちの名前?」
「あっ、すみません。そういえばこの子たちの紹介がまだでしたね。はい、そうです。こちらのマイペースなハリリンがポテトで、好奇心旺盛なミミリスがクルミです」
リーゼは、コンと一緒に元気に走り回っているハリリンとミミリスの方を指差しながら教えてくれる。
そんな彼女の声に反応してか、ポテトとクルミは、呼んだ? と言わんばかりにこちらの方を振り向いたのだ。
「ポテト、クルミ。俺は、そこにいるコンの相棒のユーゴだ。改めてよろしくな」
二匹が俺たちの方へと振りむいている姿を見て、ちょうどいい機会だと思った俺は、挨拶をする。
「きゅい!」
「ぴきゅ!」
ポテトたちは、こちらこそよろしく、と言わんばかりに鳴くと再びコンと遊び始めたのだ。
「あいつらすごい元気だなぁ」
「ふふっ。ポテちゃんたちにとっては、滅多に来ない遊び相手だからきっと喜んでるんじゃないかなー」
「えっ?」
俺が後ろから聞こえてきた声に反応して、振り向くとそこにはディーちゃんがいたのだ。ディーちゃんは、俺に向かってにかっと微笑むと、右手でピースしている。
「ディーちゃん!?」
「愛しのディーちゃんだよ☆ それよりもユーゴくんたちばっかりもふもふを独占するなんてずるいよ!」
ディーちゃんは、頬を膨らませて、少し不満げな顔をしながら俺とリーゼの間に割り込んできたのだ。
「いやいや、独占なんて……。そんなことしてないですよ」
「そうですよディーネ。あの子たちとコンちゃんで遊んでいるだけですからね」
「ぶぅー、ぶぅー! 二人してそんなもふもふを見守ってるじゃない。ここは、私の領域なんだから私も混ぜてよ~」
ディーちゃんは、駄々っ子のようにリーゼの背中をポカポカと叩いている。
リーゼは、そんなディーちゃんの頭を撫でて宥めていくと、徐々に彼女は落ち着きを取り戻していったのだ。
「そういえば、ディーネ。もう準備はできましたか?」
「ふふっ。勿論、バッチリよ」
リーゼは、ディーちゃんの言葉に頷くと、俺の方へと顔を向けてくる。その表情は、先ほどまでとは違い、とても真面目な感じだ。
「ユーゴさん。すみませんが、お力を貸してもらえますか?」
「うん。それはいいんだけど、何をすればいいの?」
「はい。それはですね、ディーネにモフリストとしてのユーゴさんの姿と相棒のコンちゃんを見せて欲しいのです」
「俺たちの姿を?」
俺の言葉にリーゼは、頷いてみせる。
「……どういうことだ?」
俺は、思わず首をかしげる。俺たちの姿を見せるだけであれば、今も先ほどもすでにディーちゃんは見ているはずなので、これからも何もないだろう。だとすれば問題になってくるのは、リーゼが言ったモフリストとしての側面だ。そこをディーちゃんに見せるということだが、正直何をすればいいのかは全く見えてこない。
「うーん。……わからん」
「ふふっ。ユーゴくん! そんな難しいこと考えなくても大丈夫だからね」
俺が頭を悩ませていると、後ろからディーちゃんが抱きついてきたのだ。ディーちゃんの声色は、どこか弾んでいてなんだか楽しそうな感じである。
「ちょっとコンちゃんを見せてもらうのとユーゴくんに少し質問させてもらうだけよ」
ディーちゃんは、それだけ俺の耳元でささやくと、俺から離れて行ったのだ。
結局のところ、俺が何かをするというわけではなかったようだ。俺は、そのことに少し安心すると改めてリーゼの方を見る。
「ユーゴさん。分かりにくくてすみません。改めて説明させてもらいますね」
リーゼは一度そこで言葉を切り、俺に頭を下げると再び口を開いていく。
「一つ目の素材はここにあるということをお伝えしてたと思うのですが、実はそれを持っているのがディーネなんです。それをディーネから譲り受けるための条件として出されたのが、先ほどお伝えしたことなんですよ」
「そうだったんだね。その条件なら確かに俺とコンががんばらないといけないわけだ」
ディーちゃんが何故そんな条件を出したのかは分からないが、彼女に認めてもらえるようにがんばるしかないわけだ。正直、今からできることなんてほとんど何もないかもしれないが、なんとか一つ目の素材を譲ってもらえるようにやれるだけやるしかない。
俺は、自分の頬を両手で何度か叩くと、自分に気合を入れたのであった。
小狐さんの番外編の短編を書きましたので、よかったら読んでもらえると嬉しいです!
シリーズ化させてますので、上の方ところからいけると思います……




