ニーナ
ネット環境のトラブル等々で、遅くなってしまいました。
あとがきのほうで少し前にあっきコタロウさんから頂いたコンのイラストのせてます!
それではどうぞ!
俺たちはリーゼのアトリエの中に入っていくと、入口からざっと店内を見渡してみる。しかし、俺の視界に入ってくるのは、商品が置かれている棚や机にイスなどで、人の姿が全く見当たらないのだ。
「うーん。見渡す限りは、リーゼいないなぁ。ということは、奥の方にいるのかな?」
「こゃ!」
俺がその場に止まって少し考えていると、突然コンは、カウンターのある店の奥の方へと走っていったのだ。俺は、慌ててコンの後を追っていく。
俺が追いついた時には、コンはカウンターの上に座っていて、奥の方をじーっと見ていた。
「コン? どこ見てるんだ?」
コンは、俺の言葉に尻尾を振るだけで何も答えず、なにやら奥の方をずっと見続けている。
俺は、不思議に思いながらもコンが見ている方向に視線を移していく。すると、そこには、少し分かりにくい形ではあるが扉があったのだ。パッと見、周りの壁と同じ色合いをしていて、ドアノブもないのでその存在には気付きにくい感じである。
「うーん。多分この扉の先にリーゼはいるんだろうけど勝手に入ってもいいものか」
正直、お店の中に勝手に入ってきている段階で今更なところはあるのだが、どこかためらってしまう。
俺が、中々決断できないままでいると、何やら扉の向こう側から何か声が聞こえてくる。俺が今いるカウンターの外側からでは、カウンターの内側の奥にある扉から少し離れていることもあってか何を言っているのかまでは分からない。ただ、漠然とした声が聞こえてくるだけなのだ。
「はっきりとは聞こえてこないから、リーゼの声なのかは分からないけど、多分誰かは中にいるってことだよな。それなら、もうここまで来てしまったし、一気に行ってしまうか! リリアさんからの依頼も早く伝えないとだしね」
俺は、後でリーゼかこの扉の奥にいる人にも謝罪することを心の中で決め、コンの方に一度視線を送ったあと、カウンターを飛び越えて一気に扉の前まで行く。コンも俺がカウンター飛び越えるタイミングで俺の肩の上に乗ってきた。
「ふぅ、よし! コン、いくぞ!」
「こゃ!」
俺は、コンに頷きかけると目の前の扉に手をかける。そのまま、扉を押して開けようとした時であった。突然、その扉が開かれて、前に押そうとしていた俺は、その勢いのまま転びそうになる。しかし、ギリギリのところでなんとか踏みとどまることができたのだ。
「うわっ、ととっ。あっぶね~」
「あれ? お兄さん、だあれ?」
「えっ?」
俺は、前方から突然聞こえてきた声の方向に視線を向けると、そこには白色の丸い帽子をかぶって、やや桃色の髪の毛をした小さな女の子がいたのだ。彼女は、不思議そうに俺の方を見つめている。
「えっと、俺はユーゴっていうんだけど……、キミはリーゼ……じゃないよな」
「うん! わたし、リーちゃんじゃないよ。わたしね、ニーナっていうの」
「えっと、ニーナちゃんって言うんだね。リーゼに用事があって、会いに来たんだけど、どこにいるか分かるかな?」
「お兄さん、リーちゃんに会いに来たの? リーちゃんだったら向こうにいるけど、今は調合中だからダメだよ!」
ニーナと名乗った女の子は、一度部屋の奥の方を指差すと、今度は両手で大きなバツ印を作って俺の方に見せてきたのだ。どうやら今は、リーゼに会うことができないようである。
「そっかぁ。ねぇ、ニーナちゃん。リーゼの調合はいつ終わるかわかるかな?」
「んー、わかんない!」
「そうだよね~。教えてくれてありがとう!」
俺が、にっこりとニーナちゃんに微笑みかけると、彼女もとても可愛い笑顔で返してくれる。そんな彼女の笑顔を見ていると、何だか少し元気が湧いてくるような気がしてくるのだ。
俺は、ひとまずリーゼの調合が終わるのを待つことに決めると、一度肩の上に乗っているはずのコンに視線を向ける。しかし、その姿が見あたらない。
「コン? どこいったんだ?」
俺が周りを見渡していると、ニーナちゃんの方に近づいているコンの姿を見つけた。
「こゃーん!」
コンは、ニーナちゃんの目の前で一つ鳴くと、その場に座りこんだのだ。
「ほわぁぁぁ! かわいい狐さんだ!」
ニーナちゃんは、コンに魅了されたかのように興奮していて、コンの方に手を伸ばすと、その身体を撫ではじめたのだ。コンは、彼女にされるがままにされており、尻尾を振りながら時折彼女の顔をペロペロとなめている。なんだかニーナちゃんの顔がとても幸せそうだ。
「さすがコンだなぁ」
そんな俺の呟きが聞かれていたのか、ニーナちゃんは、突然パッと顔をあげて俺の方を見てくる。
「この狐さん、お兄さんのなの?」
「そうだよ。俺の相棒で、名前はコンって言うんだ」
「コンちゃん! 可愛いよぉ~」
ニーナちゃんは、コンの名前を叫びながら思いっきりコンの身体を抱きしめ始めたのだ。時折、コンの顔に彼女の顔をこすりつけていて、幸せそうな顔を浮かべている。
「こゃ!」
少しの間、ニーナちゃんにされるがままの状態であったコンの耳が、突然ぴくっと動く。その直後、コンは、この部屋の奥の方へと振り返り、彼女の腕からするりと抜け出していったのだ。
「あっ!」
ニーナちゃんは、自分の腕の中からコンがいなくなったことに気がつくと少し悲しそうな顔をしていた。一方で、彼女の腕から脱出したコンは、何やら奥の方をじっと見つめている。
「コン、何見てるんだろ……ってあれ! もしかして、スラちゃんじゃないか?」
俺が、スラちゃんの存在に気付いた時であった。ドッカーン、とこの部屋の奥の方で、何かが爆発したような大きな音が聞こえてきたのだ。爆風に飛ばされて、スラちゃんが俺の足元まで飛んでくる。
「スラちゃん大丈夫か?」
俺が声をかけると、スラちゃんは、大丈夫だよ、と言わんばかりにプルプルとふるえている。特に怪我とかは、してなさそうで、一安心だ。
「ニーナ先生……、失敗しちゃいました」
そんな言葉と共に、爆発が起こったであろうこの部屋の奥から俺たちの前にリーゼが現れたのであった。




